裏士官学校物語
4
「ただ今。ハーレム」
「お帰り。兄貴」
 マジックが帰ってきたのだ。忙しい中をおして。
「また出かけるのか?」
「ああ。まだ仕事が残っているからな」
「大変だな」
「そうだな。しかし、やらない訳にもいくまい」
 マジックが新総帥になってはや数ヶ月、今が一番、仕事に燃えている時期だった。そして実際、目の回るような忙しさだったのだ。マジックは弱音を吐くようなタイプではないが、かなりハードなスケジュールであったろう。
『この仕事が片付いたら、家にお客さんを呼べる余裕も出てくるよ』そんな軽口も言っていたが。
(俺がもう少し大人だったら……)
 ハーレムは考えてみる。もう少し年がいってたら――たとえば十八くらいだったら、ガンマ団のために働き、マジックを少しでも支えてやることができないだろうか。そばで働かなくとも、たとえば戦場などで――
(あっ)
 戦場で働く。その考えはハーレムをたとえようもなく魅了した。
 プルル、と電話の呼び出し音が鳴る。本部から連絡が入ったらしい。マジックは受話器を取った。
「――……ああ、……それはだな……ああ、それでいい。そんなことでまで相談するな、自分で決めろ―――……わかった。それについては明日までに考える。――ああ、ああ、一時間したらそちらに行くから――それまでは、誰も連絡を入れるな。ではな」
 マジックは電話を切って、ハーレムの方に向き直る。
「三十分寝る。それまで起こすな。その後、ここで食事を取る。――おまえも一緒にどうだ? 久々に、おまえとも少し話がしたいからな」
「ああ、わかった」
 ハーレムは、己が何となく嬉しそうな表情をしていることに、気がついていなかった。


裏士官学校物語 第五話
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