裏士官学校物語 サービスは訝しげに振り向いたが、相手が、どうやら本気で云っているらしいことを知って、深々と溜息をついた。 「ハーレム。云ってなかったっけ。僕、学校が始まったら寮に移るんだよ」 ハーレムはしばし呆然とした。 「……そんな話は聞いてない」 「聞いてないんじゃなくて、聞かなかったんだろ。とにかく、もう決まったことだから、君が何と云おうと無駄だよ」 ハーレムがルーザーの部屋に押し掛けてくるまで、時間はかからなかった。 「兄貴。サービスが寮に行くって、知ってたか?」 「知ってるよ」 ロッキングチェアーに腰掛けていたルーザーは、今まで読んでいた本から目を離さず、冷ややかに答えた。 「――どうしてもっと早く俺に云わなかった」 もっと早ければ、手続きは間に合ったかもしれない。さっき電話で問い合わせてみて、昨日入寮受け付けは打ち切られたことを知った。 総帥の身内なんだから――というのはこの場合通用しない。身内と云えども特別扱いはしない。それがガンマ団現総帥――つまりマジックの方針であるのだから。 「あれ?君知らなかったの?」 その時初めてルーザーは顔を上げた。 「ああ。俺は一言も聞いてなかったぜ。そんな大事な話、聞いてたら、覚えているはずだからな」 「じゃあ聞いてなかったんだ」 「……兄貴までそういうこというか」 「――ああ、そうか。一週間前、サービスが僕達の前で寮に行くって云った時、お前はその場にいなかったんだな。――怒るなよ。僕もマジック兄さんも、君に伝えるのをついうっかり忘れていたんだよ」 「つい、うっかり、だぁ? ……嘘臭いな。そんな風に説明できる所が特に」 「君にどう思われようと構わないのだけれど」 ルーザーは薬指と小指を顎の下に引き込んだ。 「サービスにくっついて入寮でもするつもりだった? 君、サービスにうるさがられてるんだよ。少しは自覚したらどう?」 もはや反論を封じられたハーレムは、バン!と勢い良く扉を閉めて、部屋を後にした。 (なんて奴だ! 二人っきりになった途端、本性現しやがる) 怒りのあまり、口を開けばそんなことを、声に出しそうだった。 こんなことなら、マジック兄貴が帰るのを待てば良かった、とハーレムは思った。結果は同じだろうが、少なくともこんな嫌な気分は味わわなくて済んだ。 また静けさが戻ってきた部屋で、読書を再開したルーザーの顔には、何故か満足げな笑みが浮かんでいた。 裏士官学校物語 第二話 BACK/HOME |