とんだミステリー 前編
海――。クルージングに五人の人間が参加していた。
青の一族の長、マジック。その弟、ハーレムにサービス。因みにこの二人は双子である。
そして、サービスのクラスメート、高松にジャン。
「あち~、喉乾いた~」
ハーレムがパタパタと手で扇ぐ。
「そう思って用意しておきましたよ。高松特製カクテルをね」
「高松の作ったカクテルか~。乾汁以上に飲みたくねぇぜ」
「大丈夫。俺が作るとこ見てたもん。ひとつのグラス以外は超美味なカクテルだぜ」
「ジャンの味覚はあてにならん」
サービスが憎まれ口を叩く。
「ひとつのグラスが曲者なんだな」
「はい。その通り。それを飲んだら激烈な嘔吐を催す薬が入ってます」
「いや、面白い。どれ、ひとつ私が選ぼうか」
マジックが手を伸ばす。ジャンが言った。
「俺が選ぶ」
「てめぇは作るとこ見てたじゃねぇか。不公平だぜ」
ハーレムはハンサムだが口は悪いのだ。
「大丈夫だよ」
サービスは涼しい顔。美麗な顔に笑みを乗せる。
「え~と……高松」
「何ですか?」
「薬、どのグラスに入れたっけ?」
「――ほらね」
ジャンの間抜けさ加減にサービスは得意顔。
「けっ。てめぇが最初に選ぶって決めたんだからてめぇ自身で選びやがれ」
「ハーレム。権利を譲ってやってもいいよ」
「断る」
「じゃあ、私が……」
「まぁ、黙って見てろよ。マジック兄貴。ジャンがどれを選ぶか見物だぜ」
「案外最初に当たったりしてね」
「ちぇっ。薄情な双子どもだ」
青の一族、次男のルーザーは今日は学会に行っていていない。せいせいしたぜ――そう言ったのはハーレムである。ルーザーは双子達の兄である。サービスとは仲が良いが、ハーレムとは険悪だ。尤も、ハーレムが一方的に敵視しているとの噂もある。
取り敢えず、ジャンはひとつのグラスを手に取って匂いを嗅いだ。
「ん~、これかなぁ……」
「薬は無味無臭ですからね。匂いではわかりませんよ。ついでに言うと、一旦口をつけたグラスのカクテルは全部飲まなければなりません」
「最初は乗り気じゃなかったけど、案外面白そうじゃねぇか」
ハーレムがニヤつく。
「ん~、よし! これだ!」
ジャンが最初のカクテルを選ぶ。
「次は誰やる?」
「私が選ぼう」
「兄貴?」
「いいじゃないか。面白い。私はこう見えても悪運が強いからね」
マジックがえっへんと威張る。
「じゃ、どうぞ」
「ん、インスピレーションが降りて来たぞ。これだな」
「俺は最後に選ぶ」
と、ハーレム。
「いいんですか? 当たりがあっても知りませんよ」
高松が面白そうに見ている。
「じゃあ、僕が……あっ」
サービスは手を滑らせて落とし、グラスの中身をこぼした。
「あ~、勿体ない。せっかくのカクテルが……」
「まぁいいや。これで僕は高松の変なカクテルを飲まなくて済むもんね」
「狡いぞ。サービス。昔からそうなんだよ。おめぇは。今のだってわざとに違いない!」
「どんな証拠があるって言うんだい?」
「ぐ……」
ハーレムが言葉に詰まる。
「私は飲むよ。ハーレム。サービスを疑っちゃいけないよ」
「けっ。昔っからサービスに甘いんだからよぉ。兄貴達は」
「悔しかったら可愛げのある性格になってみな」
「私も飲みます。言い出しっぺが参加しないんじゃ卑怯ですからね」
「てめぇは根っからの卑劣漢だ」
ハーレムが舌を出しながら高松を指差す。
「まぁ、否定はしません。それでは乾杯!」
「乾杯!」
そして、十数分後――。
「うえええええええ」
トイレでハーレムが吐いている。
「『当たり』を引いたのはハーレムだったね」
「貧乏くじですけどね」
「あー、良かったぁ。俺じゃなくて」
「私はハーレムかあなたのどちらかが当たると思ってましたよ」
因みに高松の言うあなたとはジャンのことである。
「あ……れ……」
「どうしたんですか? ジャン。暑気当たりですか?」
「いや……急に胸が苦しく……うっ!」
ジャンは気絶した。
「ジャン!」
サービスと高松が同時に叫んだ。
ジャンが死んだ――警察が早速やってきた。
「殺人事件とはいえ迅速ですね」
マジックが言うと、
「この辺は観光客が多いから、治安の維持には迅速な捜査が絶対必要なのです」
との答えが返ってきた。
「なるほど」
「で、ジャンくんは――」
「高松の作ったカクテルを飲んでしばらくしてから倒れたんだ」
「ふむふむ……」
警察の熱心な捜査にも関わらず、ジャンの死因はわからなかった。ただ、ジャンのカクテルからは珍しい植物のエキスが検出された。
「多分この植物のエキスが原因と思われます」
「南米によく生えている奴ですね。いや、それとも微妙に違う……」
警察と検死医が侃々諤々の議論を交わす。
「じゃあ、この植物の正体を当ててごらんなさいよ!」
「新種の植物と言ってもいいんじゃないでしょうかね。高松君。確か君は薬学が専門だったね。ついでに生物学にも通じている」
「私が疑われてるんですか?!」
「一番疑わしいのは確かですね」
「待ってください……これはゲームだったんです。そして、私の弟のハーレムが高松の作った薬を飲んだんです」
2018.05.12
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