特戦部隊解散秘話 前編

※この話では、シンタローが悪役です。

 よぉーし。隠れたぞ。
 後は、隊長が来るのを待つだけだ。
 我らがアイドル……じゃなかった、ハーレム隊長が来るのを。
 隊長がここに来たら、ばーんと登場して不意をついて、抱きしめるんだ!
 なぁんて、完璧な作戦!
 そんで言うんだ。
「結婚してくれ! 隊長!」
 え? もちろん嘘に決まってますよ~。
 んなことしたらマーカーちゃんやGやキンタロー様に殺されまっせ。
 え? じゃあ、何でそんなこと言うんだって?
 だって、この俺――ロッド様は生粋のイタリア人ですからねぇー。いたずらとエロ取ったら何残んのよ。
 ……バンダナとレザージャケット……。革パンの下は生装備だしね~。
 あっ、来た。
「納得いかねぇぜ、シンタロー!」
 あ、この怒気を含んだ声は隊長だ。ん? シンタロー総帥もいるのか?
「もう一度言う。特戦部隊は解散だ!」
 何だって?!
 特戦部隊が……かい、さん……。
「ハーレム叔父さん」
「ハーレム隊長と呼べ。シンタロー」
「では、ハーレム隊長。アンタのやり口に不満を持っているやつぁ大勢いるし、はっきり言って、この新生ガンマ団にとってはお荷物なんだよ!」
 くそぉ~!! 言いたい放題言いやがって! 
 特戦部隊はなぁ……ハーレム隊長とこのロッドとその他大勢でやっと創り上げた部隊なんだぜ!
 俺は、子供の頃から、隊長に憧れてたんだ! 隊長のこと、悪く言うやつぁ許さねぇ! 隊長の悪口言っていいのは俺だけだかんな。
「それにね……ガンマ団はこれからクリーンなイメージで売って行こうとしてるんだ。アンタはっきり言ってジャマなんだよ!」
「おう、よう言った。おまえの子供時代の恥ずかしい想い出、握ってるのは俺だってこと、忘れんな!」
 なんか……低レベルな反論に聞こえるのは気のせい?
「はん。何とでも言え。今は俺が総帥なんだからな」
「ジョン・フォレストとの約束破って半殺し屋集団にしたの、おまえだろうが! 今までとどう違うんだよ!」
「悪い奴ら限定さ。アンタを含めてな」
 シンタローのにやっとする顔が見える気がする。
「確かに俺は大勢の人間の命を奪ってきた。だがな……部下は関係ねぇだろ。処刑されるのは俺だけでいい」
 しょけい?
 俺の耳は、一瞬バカになったように思えた。
「そうだな。他の三人は他に使い道あるだろうしな。しかし、アンタも寂しい男だねぇ。こんな時に泣いてくれる奴ひとりもいやしねぇ。……いや、ひとりいたか」
「? 何の話だ?」
「こっちのこと。じゃ、処刑日は決まったら伝える」
 俺は……目の前が真っ赤になった。
 ハーレム隊長が処刑される……ってことは、隊長が死ぬってこと?
 そんなこと、絶対許せない!
 これにはナンパなロッドくんも熱血しちまうんだぜ。愛する人の為ならば!
 それにしても……見損なったぜシンタロー。アンタはもっとオトコギ溢れる奴かと思ってた。
 俺達が邪魔だからポイだなんて――ハーレム隊長を殺すなんて……クリーンなイメージの為に。
 はっ! 反吐が出るぜ!
 なぁにがクリーンなイメージだ!
 シンタロー、アンタの方がよっぽどどす黒いよ。
「シンタローはん。そろそろ会議のお時間でっせ……」
「ああ、今行く、アラシヤマ」
 アラシヤマ……ああ、あのマーカーちゃんの弟子の根暗な京美人ね。笑ったら綺麗だろうになぁ……。
 どうやら今はシンタローの秘書をしているらしい。あんなヤツのどこがいいんだろ。
 何か出づらくなっちまったぞ、と。
「おい」
 うわ、びっくりした!
「た……隊長……?!」
 俺の声が引っ繰り返る。
「聞いてたんだろ。今までの話」
「知ってたんすか?!」
「当たり前だろ。おまえの気配がさっきからしてたからな」
「ちぇっ。お見通しってやつっすか」
「まぁ、伊達に隊長やってるわけではないからな」
 そう言って、隊長は得意げに笑う。なんてかわいい!
 俺はよいしょと今まで丸まっていた椅子と机の間から出てきた。
「あ……あのさ、隊長……処刑って……」
「うーん。まぁ普通に銃殺だろうな」
「そんなこと俺が許さねぇ! その前にシンタロー血祭りに上げてやる。隊長、俺、抗議しに行ってきます!」
「ムダだ」
 隊長はあっさり言った。
「後でガンマ団幹部にも報告がいくんだろ。もちろん、兄貴にもな」
「じゃあ、処刑は独断で……?」
「そのようだな」
「『そのようだな』って、他人事のように言わんでくださいよ」
 俺は、隊長を抱き締めた。隊長の匂いがする。あったかくて、とても安心できる匂いだ。パパを思い出す。パパの記憶なんかもう薄れてるけど。
「俺、イヤっすよ~、隊長が死ぬなんて~」
 いつの間にか涙が溢れていた。隊長と出会った、子供の頃に帰ったみたいだ。
「心配すんな。すぐ終わる」
「そんなこと言うんだったら、俺も隊長と一緒に死にます!」
「馬鹿言うな!」
 隊長は雷を落とした。
「おまえらはなぁ……今まで命を奪ってきた奴の分まで生きて、ここにいるんだ。生きて、生きて生き延びろ!」
「隊長……」
「まぁ……シンタローはおまえらも殺したかったようだけどな。何とか考え直してもらえた」
「隊長……俺、隊長と一緒だったら冥府だろうが地獄だろうが一緒について行きます」
「そうか。……じゃあ今夜は俺に付き合え」
「ええっ?! 俺にだったら最期の記念に抱かれてもいいって?」
 眼魔砲!
「アホ。そんなんじゃねぇ。『アンプロンプテュ』という酒場に行くんだ」
 あ、そうなのね。くだらん勘違いしてしまった。
「隊長……血が止まんないんすけど」
「それぐらい何とかしろ。行くぞ!」
 ああ、殺生な人……上司でなかったら百回は殺してたよ。
 でも、ハーレム隊長相手だと、そんなところも魅力に見えるから困ったモンだ。素っ気ないところも好きさ。隊長。
「このことは、マーカーとGには内緒だぞ」
 俺は、
「わかりました!」
 と答えた。

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