時を駆けるシンタロー 「また来ておくれ」 「さようなら」 マジックやサービス達と別れた後、林の中の車――タイムマシンの中に戻ろうとした。 ところが。 「あれ? あれ?」 いくら探してもマシンは見つからない。 確かここら辺にあったのに……。 マシンがない、ということは……。 (つーことは俺は……) 帰れない! (どうしよう……) シンタローはふらふらと林を抜け出た。 「おや、どうしたんだね、シンタローくん。元気がないじゃないか」 シンタローはマジックと再び出会う。 「お……親父……」 「私は親父じゃないけれど、君にだったらどんなことを言われても許せるような気がするよ――何だい?」 「俺の――俺の車がねぇんだよぉ!」 タイムマシンのことを言わない自制心は、まだシンタローにもあった。 それにしても、タイムマシンのないシンタローは無一文で過ごすしかない。 マジックは顎に手をかけて考えていた。そして言った。 「よし。じゃあ車の方は私達で探すよ。外見を教えてくれたまえ」 (父さん……) マジックはいざという時は頼りになる。そうでなければガンマ団の総帥など勤まるわけがない。 それがわかっていても、思わずシンタローは感激の涙を流してしまう。 「泣かないでくれたまえ。さぁ。車種を」 「車種はわかんねぇけど、銀色のボディで――」 シンタローはマジックに車の特徴を教えた。 「盗まれた可能性もあるんだね」 マジックの言葉に、シンタローは頷いた。 「よしよし。私達も一生懸命探すよ。心配はいらない。シンタローくん」 シンタローも、その方面の心配は全くしていない。ガンマ団は超一流のエキスパートが揃っている。失せ物探しについても同じだ。 でも、これからどうしよう……。 金はないし、野宿でもするしか……。 「どうしたんだい? シンタローくん」 「いや。今日、行くところが……」 「何だ。そんなことか。私のところに来なさい」 光ってる! 光ってるよ! 親父……! マジックに後光が射して見える。 渡りに船とはこのことだ。 「もちろん、そうしてもらえたら嬉しいんですが」 「なら、決まりだ。サービス達は寮だが、家にはルーザーとハーレムがいるはずだから」 (えー。なまはげもいるんかい) シンタローは断りたくなった。 しかも、曲者と評判のルーザーもいると言う。キンタローの父だが、かなり凶暴な面もあったらしい。しかも、まだ更生前と来ている。 なんか、急に行きたくなくなってきたな。 だが、行くところはそこしかない。 「おや。顔色が悪くなったね。大丈夫かい?」 「は……はい」 ちょっとこれからの自分の心配をしてしまったものですから。 だが、それは口には出さない。 「じゃあ行こう」 マジックは自分の車にシンタローを案内する。 そして――車はマジック邸に着いた。 「さ、入って」 「お邪魔しまーす」 シンタローは門をくぐった。 階段のところに人影がいる。 「何だ? 兄貴。客でも連れて来たのか?」 その人物と目が合った時――。 シンタローはズキーンと身ぬちに衝撃が走った。 金色の豪奢な髪をひとつに束ね、細身のばねの強そうな体に夏服を纏っている。そして、一族特有の青い眼。 動悸が治まらない。 まさか――まさかあれは……! (ハーレム! ハーレム叔父さんなのか?!) 凄い美少年だ。シンタローもびっくりするぐらいの。 ナマハゲと化してしまった中年のあの叔父とはえらい違いだ。 「何だ? そいつ」 ハーレムは嘲笑するように言った。シンタローはまたもやどきっとした。 「シンタローだ」 「シンタロー。へーえ」 「旅行に来てるんだよ。仲良くしてやってくれたまえ」 「こんなところに旅行か? 随分物好きな奴だ」 ハーレムが近付いて来た。 「宜しくな、シンタロー」 ハーレムはジャンのことを口にしない。 「……アンタ、俺をジャンと似てると思わないのか」 「そういえばそうだな」 ハーレムがにやっと笑った。そんなあくどい表情にまで、胸が高鳴ってしまう。 「でも、アンタの方がいい男じゃねぇか」 「ありがとう、と言っておくよ」 シンタローは頬を紅潮させながらも、笑い返した。 (こんな……こんなちょっと柄は悪いけど凄い美少年が、あんなナマハゲになっちまうなんて……時の流れは残酷だ……) 「世話になる。宜しく」 シンタローはおそるおそる手を差し出す。ハーレムが彼の手を握る。 どきどきは最高潮。 「そうだ。俺はハーレムだ。今は戦争もなくてヒマだし、この家にいてやっている」 「ハーレムはもういっぱしの兵士だよ。ルーザーは離したがらないけどな」 「ルーザー兄貴の話はするなよ」 ハーレムはマジックを睨めつける。 だが、シンタローにはルーザーの気持ちがわかった気がした。 (無理ねぇよな……こんなに……綺麗なんだもんな) もしかすると、サービス叔父さんとタメ張るぐらい美形かもしれない――と、シンタローは思った。 それに、シンタローにもコタローという弟がいる。弟を手放したくない気持ちは理解できるのである。 「さぁ、食事にしよう」 「おう」 ハーレムは嬉しそうに笑った。それが年相応の表情なのを見て――シンタローの心臓は再び踊った。 (どうしちまったんだよ……俺) シンタローは戸惑っていた。 来いよ――というハーレムの呼びかけに、シンタローは物想いから我に返った。 時を駆けるシンタロー 10 BACK/HOME |