時を駆けるシンタロー
9
「それでは、さようなら」
「また来ておくれ」
「さようなら」
 マジックやサービス達と別れた後、林の中の車――タイムマシンの中に戻ろうとした。
 ところが。
「あれ? あれ?」
 いくら探してもマシンは見つからない。
 確かここら辺にあったのに……。
 マシンがない、ということは……。
(つーことは俺は……)
 帰れない!
(どうしよう……)
 シンタローはふらふらと林を抜け出た。
「おや、どうしたんだね、シンタローくん。元気がないじゃないか」
 シンタローはマジックと再び出会う。
「お……親父……」
「私は親父じゃないけれど、君にだったらどんなことを言われても許せるような気がするよ――何だい?」
「俺の――俺の車がねぇんだよぉ!」
 タイムマシンのことを言わない自制心は、まだシンタローにもあった。
 それにしても、タイムマシンのないシンタローは無一文で過ごすしかない。
 マジックは顎に手をかけて考えていた。そして言った。
「よし。じゃあ車の方は私達で探すよ。外見を教えてくれたまえ」
(父さん……)
 マジックはいざという時は頼りになる。そうでなければガンマ団の総帥など勤まるわけがない。
 それがわかっていても、思わずシンタローは感激の涙を流してしまう。
「泣かないでくれたまえ。さぁ。車種を」
「車種はわかんねぇけど、銀色のボディで――」
 シンタローはマジックに車の特徴を教えた。
「盗まれた可能性もあるんだね」
 マジックの言葉に、シンタローは頷いた。
「よしよし。私達も一生懸命探すよ。心配はいらない。シンタローくん」
 シンタローも、その方面の心配は全くしていない。ガンマ団は超一流のエキスパートが揃っている。失せ物探しについても同じだ。
 でも、これからどうしよう……。
 金はないし、野宿でもするしか……。
「どうしたんだい? シンタローくん」
「いや。今日、行くところが……」
「何だ。そんなことか。私のところに来なさい」
 光ってる! 光ってるよ! 親父……!
 マジックに後光が射して見える。
 渡りに船とはこのことだ。
「もちろん、そうしてもらえたら嬉しいんですが」
「なら、決まりだ。サービス達は寮だが、家にはルーザーとハーレムがいるはずだから」
(えー。なまはげもいるんかい)
 シンタローは断りたくなった。
 しかも、曲者と評判のルーザーもいると言う。キンタローの父だが、かなり凶暴な面もあったらしい。しかも、まだ更生前と来ている。
 なんか、急に行きたくなくなってきたな。
 だが、行くところはそこしかない。
「おや。顔色が悪くなったね。大丈夫かい?」
「は……はい」
 ちょっとこれからの自分の心配をしてしまったものですから。
 だが、それは口には出さない。
「じゃあ行こう」
 マジックは自分の車にシンタローを案内する。
 そして――車はマジック邸に着いた。
「さ、入って」
「お邪魔しまーす」
 シンタローは門をくぐった。
 階段のところに人影がいる。
「何だ? 兄貴。客でも連れて来たのか?」
 その人物と目が合った時――。
 シンタローはズキーンと身ぬちに衝撃が走った。
 金色の豪奢な髪をひとつに束ね、細身のばねの強そうな体に夏服を纏っている。そして、一族特有の青い眼。
 動悸が治まらない。
 まさか――まさかあれは……!
(ハーレム! ハーレム叔父さんなのか?!)
 凄い美少年だ。シンタローもびっくりするぐらいの。
 ナマハゲと化してしまった中年のあの叔父とはえらい違いだ。
「何だ? そいつ」
 ハーレムは嘲笑するように言った。シンタローはまたもやどきっとした。
「シンタローだ」
「シンタロー。へーえ」
「旅行に来てるんだよ。仲良くしてやってくれたまえ」
「こんなところに旅行か? 随分物好きな奴だ」
 ハーレムが近付いて来た。
「宜しくな、シンタロー」
 ハーレムはジャンのことを口にしない。
「……アンタ、俺をジャンと似てると思わないのか」
「そういえばそうだな」
 ハーレムがにやっと笑った。そんなあくどい表情にまで、胸が高鳴ってしまう。
「でも、アンタの方がいい男じゃねぇか」
「ありがとう、と言っておくよ」
 シンタローは頬を紅潮させながらも、笑い返した。
(こんな……こんなちょっと柄は悪いけど凄い美少年が、あんなナマハゲになっちまうなんて……時の流れは残酷だ……)
「世話になる。宜しく」
 シンタローはおそるおそる手を差し出す。ハーレムが彼の手を握る。
 どきどきは最高潮。
「そうだ。俺はハーレムだ。今は戦争もなくてヒマだし、この家にいてやっている」
「ハーレムはもういっぱしの兵士だよ。ルーザーは離したがらないけどな」
「ルーザー兄貴の話はするなよ」
 ハーレムはマジックを睨めつける。
 だが、シンタローにはルーザーの気持ちがわかった気がした。
(無理ねぇよな……こんなに……綺麗なんだもんな)
 もしかすると、サービス叔父さんとタメ張るぐらい美形かもしれない――と、シンタローは思った。
 それに、シンタローにもコタローという弟がいる。弟を手放したくない気持ちは理解できるのである。
「さぁ、食事にしよう」
「おう」
 ハーレムは嬉しそうに笑った。それが年相応の表情なのを見て――シンタローの心臓は再び踊った。
(どうしちまったんだよ……俺)
 シンタローは戸惑っていた。
 来いよ――というハーレムの呼びかけに、シンタローは物想いから我に返った。

時を駆けるシンタロー 10
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