時を駆けるシンタロー (何だ……今のは) 自分が死んだ時の感じとは、また似て非なる。 シンタローは瞼を閉じた。 目の前が赤くなったり、金色になったり、虹色になったりした。それは綺麗なのだが……。 (やべ……吐きそ……) シンタローは口元を押さえたくなったが、体が動かない。 「ぎゃあああああああああ!」 ザザザ……と、機体は林の茂みに突っ込んだ。 そのまま、しばらく止まる。吐き気もどこかへ飛んで行った。 「な……何だ? ここは」 シンタローはきょろきょろと辺りを見渡す。 「ハロー、シンちゃん」 グンマの能天気な声が車の中にする。 「んだよ。グンマ」 「シンちゃん、平気?」 「ああ、何とかな」 「やっぱり僕達の計算は合ってたんだねぇ、キンちゃん♪」 グンマは彼の近くにいる従兄弟に話しかけていたらしい。 「待て待て待て。これって……成功ってことか? 俺は人っ子いないところに着いたんだが」 「もうじきわかるよ。シンちゃん、若い叔父様達に挨拶して来ないの?」 ああ、そうだ。それが目的だった。 「そうだな、じゃ、行ってくる」 一応、タイムマシンは隠しておいた。 林を抜けると、ガンマ団士官学校だった。 自分の母校なので、様子はよくわかる。 サッカーにいそしんでいる者、ラグビーをしている者、三人で固まって話をしている者――。 楽しそうな声が空に木霊している。 (うーん、青春だなぁ) もうとっくに学校を卒業したシンタローにとっては、全てが懐かしい。おじさんみたいな感慨も浮かんでくる。 「ジャーン!」 な、何と……! そこには若いサービス叔父さんが! 「ジャンー! 早く来いよー!」 サービスが笑っている。 切れ長の目、さらさらの金色の髪、若い声。 本当に、二十六年前に来てしまったのだ。 「叔父さん!」 シンタローが駆け寄った。サービスが顔を曇らせた。 「誰がおじさんだって?」 「いや、その……人違いです」 シンタローはわたわたと慌てて釈明した。 「――おまえ、ジャンじゃないな。似てると思ったけど。他人の空似か?」 「え?」 「ジャンの髪はこんなに長くない」 サービスは、シンタローの後ろ髪を長い指先で梳いた。 「済まない。僕も勘違いをしたようだ。それじゃ」 「ま、待って……叔父さん、じゃなかった、サービス」 「何だ?」 眉間に皺を寄せている顔も美しい。 (ああ、やっぱり叔父さんは若くても綺麗だな) ジャンが夢中になるのも少しわかった。 かと言って、ジャンにサービスを渡す気などさらさらないのだが。 「俺の名はシンタロー、えっと……」 これから何て言おうか。 タイムマシンでこの時代に来た、と正直に言うか……いや、信じてもらえないだろう。まず頭の可哀想な人として、ひょっとすると、その類いの病院に入れられてしまうかもしれない。 「この国には旅行で来たんだ」 「旅行ねぇ……」 サービスはうさん臭げに見遣る。 「それより、君はジャンの親戚か?」 「まっさかー。そんなはずありませんよ」 あんなチンと人違いされるのだって迷惑なのである。相手がサービスだから言わないけど。 それに、ジャンには一度殺されている。いつもは二人とも明るく振る舞っているが、シンタローのジャンに対する遺恨は消えない。 青の秘石が、ジャンそっくりに自分を造ったのだ。おかげで大変な目に合った。 おまけに、青の番人の影だなんて言われて――。 (おっと、叔父さんの前だった) 「君の名前は?」 もう既に知っているが、初対面のふりをしないとまずいかもしれない。 「サービス」 サービスは素っ気なく言った。 「宜しく、サービス」 シンタローはありったけの笑顔で応えた。だが、サービスはふい、とその場から歩き去ろうとした。 「ま、待って……」 シンタローは急いでサービスの跡を追った。 「俺、ここ初めてなんだよね。案内してもらえるかな」 そう。まずはサービスに近付かないと。 サービスは仏頂面のまま振り向いた。 「わかった。いいよ」 警戒心は解いていないようだが、本当はサービスは優しい青年なのだ。そんなところは、年を取っても変わらない。 「どこに行く?」 「どこって……どこでもいいけど……」 「兄さんには会った? マジック兄さんの方」 毎日顔見てます! ……シンタローは心の中では力いっぱい頷いたが。 「でも……あー、この時代の親父……じゃなかった、マジック総帥は見てないなぁ……」 「今日、学校にマジック兄さんが来ているんだよね。君も会わないか?」 もちろん、と答えたのは言うまでもない。 「マジック兄さん」 理事長室の扉の前にサービスとシンタローがいた。 「入りなさい」 マジックが威厳たっぷりに答えた。 「マジック兄さん、こっちはシンタローさん。旅行に来たんだって」 ちらっとマジックがこっちを見た。 (すげー。かっこいい……) シンタローは思わず見惚れてしまった。 (何か、親父ではないみたいだ……) 「シンタローくんか……宜しく」 いつもみたいに『シンちゃーん』と鼻血出したりしない。 これが、あの親父と同一人物なのか――と、シンタローはまじまじとマジックを観察していた。 マジックは鷹揚に微笑んだ。いかにも余裕たっぷりに。若きガンマ団の総帥。さすがに威風堂々としている。 シンタローは壁時計を見た。十二時になったばかりだ。タイムンマシンに乗ったのはまだ朝のことだった。着くタイミングとか時間には少しズレがあるのかもしれない。 時を駆けるシンタロー 6 BACK/HOME |