時を駆けるシンタロー 「だーかーらー、シンちゃんがマシンに乗ればいいんだよ」 「――断る。グンマの造ったマシンなんて危なっかしくて仕方ねぇ」 シンタローは本気で言った。ちゃんとはっきり言っておかないと、このままでは本当に乗せられてしまう。 「シンちゃんひどい」 グンマがいつものように涙目になった。 「だいたい、タイムマシンなんて不可能だろ」 「不可能――なんて思われたくないな。この研究には俺も一枚噛んでるのだからな」 そう言ったのはキンタロー。 「何だよ、キンタロー。アンタもこんな茶番に付き合ってるわけ?」 「茶番とは何だ、茶番とは。俺達は真剣にやっている。――おまえにも協力してもらいたい」 「やだ」 「何故だ」 キンタローが間髪を入れずに質問する。 「グンマの機械は当てにならない」 「それはわかっている。しかし、俺が手伝ったからな」 「どのぐらい?」 「七割」 「やっぱり俺帰るわ。――グンマ、高松と親父にお礼言っとけよ」 「何で~? シンちゃ~ん」 「勝てる賭けかもしれないが、俺は乗らない。俺だって命は惜しい」 「あ~ん。キンちゃ~ん。シンちゃんたらあんなこと言ってる~」 「シンタローの気持ちはわかる。だが、俺が、いいか、天才科学者の卵のこの俺が保証するんだからな。安心していい」 「キンちゃんまでシンちゃんの味方する気~?」 これではグダグダの会話である。 「おまえらの実験材料にされる気はないね」 「動物実験は成功だったよね」 「ああ」 シンタローの言葉に、グンマとキンタローが顔を合わせて頷き合う。 「とにかく、俺はごめんだからな」 「あーっ! そんなこと言っていいの? 若い頃のサービス叔父さん、見たくないの?」 これは効果てきめんだった。 「何……?」 これは効くと思ったグンマは、作戦を変更したらしい。 「いいの~? サービス叔父様、ジャン博士に取られたままで」 「……あのチンめ」 シンタローはぎりっと奥歯を噛んだ。 「予定変更だ! 俺はマシンに乗る! そして、若い叔父さんに会って、ジャンから引き離す!」 「了解! 行き先は約二十六年前でいいね」 グンマは破顔一笑する。そして敬礼した。 「シンタロー……おまえわかりやすい奴だな」 「うるせぇ」 キンタローの感想にシンタローが毒づく。 「じゃ、これに乗ってもらうよ~」 グンマがシャッターを開ける。 見ると、メタリックシルバーのスポーツカーが目に飛び込んだ。 「これ、本当にタイムマシンなのか?」 「もちろん」 キンタローが腕組みしたまま保証する。 「かっこいいでしょう、ね、ね、見て見て」 グンマはシンタローの手を取ると、ぺたぺた車体に触らせる。感触はひんやりしていて、正に銀色の車体にぴったりだった。 バックトゥザフューチャーみたいな機械だな、と思っていると―― 「バックトゥザフューチャーみたいでしょう。これで過去でも未来でもどこへでも行けるんだよ」 グンマは得意そうに自慢した。 「いいけどさぁ……この車誰が設計したの?」 「キンちゃん」 「やっぱりね」 グンマが造るのはもっと悪趣味なデザインのヤツだ。 これだったら乗ってもいいな。 シンタローは少し乗り気になったが、ふとあることが気になった。 「おまえらも車に乗るのか?」 「ううん。僕らは留守番」 「留守番て……」 「最低でも二人は残っていなくちゃならないから」 「え? 何で?」 「ああ、それは、特殊なエネルギーをぶつけて粒子化させてだな……」 滔々と述べるキンタローにシンタローは、 「わかったわかった。もう黙れ、キン」 と止めるしかなくなった。 しかし、そんな理論を組み立てるなんて、さすがに天才科学者、ルーザー・ブルーシークレットストーンの息子なだけのことはある。 「さ、早く乗って」 グンマが急かす。 (俺も男だ、覚悟を決めよう) シンタローはついに腹を据えた。 男には、命を賭けねばならぬ時がある。 それに、シンタローは二回ほど死んでいる。今更死ぬのなんて怖くない。尤も、今度は生き返ることができる保証がないので、命は大切にしようと思うのだが。 (あ、天国で怖いことがひとつあったな……) タンノのお祖母さんにキスされそうな目にあった。それを思い出したシンタローの背筋に悪寒が走った。 「シンちゃん、顔色悪いよ、大丈夫?」 「大丈夫。だけどおまえらのマシンに本当に乗るのかと思うと、震えが止まんなくてさぁ……」 「何だよぉ、シンちゃん」 「止めるか?」 キンタローも心配そうに訊く。 でも、男はこうと決めたら、真っ直ぐその道を愚直なまでに歩かなければならない。武士に二言はないのだ。 「んで? どうすんだよ」 「ああ、まずその車に乗って」 グンマに促されるままに、シンタローは車体の運転席に乗り込む。 「シートベルトも忘れずに」 「こうか?」 「じゃ、ストッパーを解除して。その青いボタン」 「これだな」 「それじゃ、エネルギーをぶつけるぞ」 キンタローが言った。乱暴な話だなぁと、開きっぱなしの窓から聞いていたシンタローは思った。 「窓閉めた方がいいね、シンちゃん。その後は、勝手に指定した場所に行くからね」 「そっか」 シンタローは珍しく、グンマの注意に従った。 「さあて、行くよー」 キンタローがパソコンの前に座り、何やらかちゃかちゃと打っている。グンマがレバーを倒す。 室内が明るくなり、ブーンという音が響く。 シンタローは背もたれに寄りかかり、キリスト教式に手を組み、神の加護を祈った。 時を駆けるシンタロー 5 BACK/HOME |