時を駆けるシンタロー シンタローは何かを言おうとしたが、言葉が出て来ない。 やはり俺が来たって、どういうことだ? ――シンタローは疑問に思った。 「おまえ、俺が来ること知ってたのか?」 「多分来ると思っていた。グンマが研究第一なのを心配しているんだろう?」 「う……それはだな……」 心配というより、怒りの方が強かったのだが。 「あ、そうだ。――高松のところに行くぞ。グンマ」 「え……何で?」 「何でって……おまえ、高松にいろいろいっぱい任せっぱなしでいいと思ってんのか?」 「でも、僕……機械造り以外は満足にできないし……」 その機械造りだって満足にできねぇだろうが。おめぇはよぉ――シンタローはそう言おうと思ったが、あまりにひど過ぎると思ったので、その言葉を飲み込んだ。 「で? 今はどんなもん造ってんだ?」 「タイムマシンの改良版!」 グンマは目をきらきらと輝かせた。 「あっそ」 (夢物語には興味ねぇや――) 「今度のはすごいんだよー。恐竜時代や未来世界にも行けちゃうんだよー」 「はいはい。せめて自分で掃除してからにしようなー、じゃ、キンタロー。こいつ連れて行くから」 「もう少し待ってもらえないか? シンタロー」 キンタローがグンマを引きずるシンタローを止めた。 「何でだよ。キンタロー」 「グンマの協力がないと駄目なところがあるんだ」 「ふぅん。キンタロー。おまえ、こいつがほんとに頼りになると思うのか?」 「まぁ、メカニックに関しては、な」 「高松には後でお礼言うよー。だから、シンちゃん離して」 グンマが体をじたばたさせる。仕方がないので、シンタローはグンマの白衣から手を離す。 「ふぅ……」 グンマが襟元を正す。 「本当に高松に礼を言うんだな。あ、それから親父にも――まぁ、親父はどっちでもいいか」 「シンちゃんて優しいね」 「おまえが近視眼的なだけだろ。研究以外目に入らないんだから。いつまでも高松に寄りかかってたらだめだろ」 「それは俺も思った」 キンタローが口を開く。 「しかし、研究というのはなかなか面白いものだから仕方がない。高松のことについては、後で話し合う」 「ちっ。おまえまでそう言うか、キンタロー」 「だよねだよねー」 キンタローとグンマは、どうやら話が合うらしい。 それにしても―― 「前から訊こうと思ってたんだが、何で髪切ったんだ? キンタロー。高松の趣味か?」 シンタローが質問した。 「違う」 「じゃあ、何で?」 「……と同じにしようと思って」 『……』のところは、『父さん』と入るのかなぁ、とシンタロ―は考えた。 確かに、キンタローは亡くなった父ルーザーそっくりになっていた。今のキンタローに話しかける時の、高松のやにさがった笑顔と来たら。 反対に、ハーレムはそんな甥を気に入らないらしいが。 ハーレムに少なからず好意を持っているキンタローが、 「何故、俺はハーレムに嫌われるようになったんだろう……」 と悩んでいるが、シンタローは放っておいた。 ハーレムだって、いつかはキンタロー、それからルーザーのことについて、向き合わなければいけないんだから。 向き合えなければ、多分、辛いのはハーレムだ。 (まぁ、あのおっさんのことはしばらくおいておこう) シンタローは、うんうんと腕を組みながら頷いた。 「ところでシンタロー。ジャンは?」 「知らね」 キンタローに、シンタローは嘘をついた。 「そうか……困ったな。機械を動かすのに、是非ともあの男の力を借りたかったんだが」 「……忘れてるんじゃねぇの? サービス叔父さんとランチに行くって、張り切ってたし」 「なぁんだ。シンちゃん。やっぱり知ってたんじゃん」 グンマが笑った。むかつく。 シンタローは、さっきの不快な感情を思い出していた。 (叔父さんには、やはりあの男しかいないのか?) (俺は、あの男の代わりだったのか?) (俺が叔父さんの昔からの友人だったら――ジャンになど負けはしないのに) 「シンちゃん、……シンちゃん!」 グンマが、シンタローの目の前でパチンと手を叩く。 「あ……つい、ぼーっとして……」 「何考えてたの?」 「おまえには関係ない」 「ん……そうだね」 そう答えながらも、グンマは寂しそうだった。 「そうそう。ジャンさんねー、おっかしいんだよ! 若いサービス叔父さんをまた見てみたいんだって!」 俺だって若い叔父さんみたいよ――シンタローは思った。 (サービス叔父さん……若い叔父さんは、美少年だったな……) 写真で見たことがある。サービスは、女と見紛うほど、綺麗で整った顔立ちだった。長い髪をひとつに束ねていた。 (あの叔父さんに会えたらな――) 話ができたらな、一緒に遊べたらな――そう考えていると……。 「シーンちゃん。シンちゃんも若い頃の叔父さんに会いたいんでしょ?」 「え? いや? 何でだよ」 内心、シンタローはへどもどする。 「だって、シンちゃんはサービス叔父さんがだーい好きだもんね!」 「そうなのか?! シンタロー!」 キンタローが、仲間――というか、同類を見つけた時のように、嬉しそうに肩を掴む。 (てめぇとは違うんだよ、バーカ) キンタローのようにハーレムに想いを寄せるほど、シンタローは趣味は悪くない。 ちなみに、ハーレムとは、なまはげに似た大男だ。サービスの双子の兄でもある。 (でも、全然似てないんだよなぁ) シンタローが苦笑する。 「なんか、馬鹿にされた気がするのだが?」 「気のせい、気のせい」 こんなところで、キンタローに暴れられたりしたら、いかなシンタローでも、苦戦を強いられるだろう。 負けはしないが、部屋は粉々になる。シンタローはそう計算して、一旦身を引いた。 「そうか……ならいいが」 キンタローは、シンタローの肩から手を離す。 「んー、ジャンさんてば、やっぱり今の叔父さんの方が好きなんだね」 「いや、好きになったら、その人の全存在を愛しいと思うのがごく当然のことではないか?」 キンタローはどこからそんな歯が浮くような台詞を覚えたんだろう。シンタローは少々気になった。変な本でも読んだのではないだろうか。 「あ、そうだ。シンちゃん……シンちゃんがタイムマシンに乗ればいいんじゃない?」 グンマが、ナイスアイディア、とでも言うように手を打った。 時を駆けるシンタロー 4 BACK/HOME |