時を駆けるシンタロー
3
「キンタロー……」
 シンタローは何かを言おうとしたが、言葉が出て来ない。
 やはり俺が来たって、どういうことだ? ――シンタローは疑問に思った。
「おまえ、俺が来ること知ってたのか?」
「多分来ると思っていた。グンマが研究第一なのを心配しているんだろう?」
「う……それはだな……」
 心配というより、怒りの方が強かったのだが。
「あ、そうだ。――高松のところに行くぞ。グンマ」
「え……何で?」
「何でって……おまえ、高松にいろいろいっぱい任せっぱなしでいいと思ってんのか?」
「でも、僕……機械造り以外は満足にできないし……」
 その機械造りだって満足にできねぇだろうが。おめぇはよぉ――シンタローはそう言おうと思ったが、あまりにひど過ぎると思ったので、その言葉を飲み込んだ。
「で? 今はどんなもん造ってんだ?」
「タイムマシンの改良版!」
 グンマは目をきらきらと輝かせた。
「あっそ」
(夢物語には興味ねぇや――)
「今度のはすごいんだよー。恐竜時代や未来世界にも行けちゃうんだよー」
「はいはい。せめて自分で掃除してからにしようなー、じゃ、キンタロー。こいつ連れて行くから」
「もう少し待ってもらえないか? シンタロー」
 キンタローがグンマを引きずるシンタローを止めた。
「何でだよ。キンタロー」
「グンマの協力がないと駄目なところがあるんだ」
「ふぅん。キンタロー。おまえ、こいつがほんとに頼りになると思うのか?」
「まぁ、メカニックに関しては、な」
「高松には後でお礼言うよー。だから、シンちゃん離して」
 グンマが体をじたばたさせる。仕方がないので、シンタローはグンマの白衣から手を離す。
「ふぅ……」
 グンマが襟元を正す。
「本当に高松に礼を言うんだな。あ、それから親父にも――まぁ、親父はどっちでもいいか」
「シンちゃんて優しいね」
「おまえが近視眼的なだけだろ。研究以外目に入らないんだから。いつまでも高松に寄りかかってたらだめだろ」
「それは俺も思った」
 キンタローが口を開く。
「しかし、研究というのはなかなか面白いものだから仕方がない。高松のことについては、後で話し合う」
「ちっ。おまえまでそう言うか、キンタロー」
「だよねだよねー」
 キンタローとグンマは、どうやら話が合うらしい。
 それにしても――
「前から訊こうと思ってたんだが、何で髪切ったんだ? キンタロー。高松の趣味か?」
 シンタローが質問した。
「違う」
「じゃあ、何で?」
「……と同じにしようと思って」
『……』のところは、『父さん』と入るのかなぁ、とシンタロ―は考えた。
 確かに、キンタローは亡くなった父ルーザーそっくりになっていた。今のキンタローに話しかける時の、高松のやにさがった笑顔と来たら。
 反対に、ハーレムはそんな甥を気に入らないらしいが。
 ハーレムに少なからず好意を持っているキンタローが、
「何故、俺はハーレムに嫌われるようになったんだろう……」
 と悩んでいるが、シンタローは放っておいた。
 ハーレムだって、いつかはキンタロー、それからルーザーのことについて、向き合わなければいけないんだから。
 向き合えなければ、多分、辛いのはハーレムだ。
(まぁ、あのおっさんのことはしばらくおいておこう)
 シンタローは、うんうんと腕を組みながら頷いた。
「ところでシンタロー。ジャンは?」
「知らね」
 キンタローに、シンタローは嘘をついた。
「そうか……困ったな。機械を動かすのに、是非ともあの男の力を借りたかったんだが」
「……忘れてるんじゃねぇの? サービス叔父さんとランチに行くって、張り切ってたし」
「なぁんだ。シンちゃん。やっぱり知ってたんじゃん」
 グンマが笑った。むかつく。
 シンタローは、さっきの不快な感情を思い出していた。
(叔父さんには、やはりあの男しかいないのか?)
(俺は、あの男の代わりだったのか?)
(俺が叔父さんの昔からの友人だったら――ジャンになど負けはしないのに)
「シンちゃん、……シンちゃん!」
 グンマが、シンタローの目の前でパチンと手を叩く。
「あ……つい、ぼーっとして……」
「何考えてたの?」
「おまえには関係ない」
「ん……そうだね」
 そう答えながらも、グンマは寂しそうだった。
「そうそう。ジャンさんねー、おっかしいんだよ! 若いサービス叔父さんをまた見てみたいんだって!」
 俺だって若い叔父さんみたいよ――シンタローは思った。
(サービス叔父さん……若い叔父さんは、美少年だったな……)
 写真で見たことがある。サービスは、女と見紛うほど、綺麗で整った顔立ちだった。長い髪をひとつに束ねていた。
(あの叔父さんに会えたらな――)
 話ができたらな、一緒に遊べたらな――そう考えていると……。
「シーンちゃん。シンちゃんも若い頃の叔父さんに会いたいんでしょ?」
「え? いや? 何でだよ」
 内心、シンタローはへどもどする。
「だって、シンちゃんはサービス叔父さんがだーい好きだもんね!」
「そうなのか?! シンタロー!」
 キンタローが、仲間――というか、同類を見つけた時のように、嬉しそうに肩を掴む。
(てめぇとは違うんだよ、バーカ)
 キンタローのようにハーレムに想いを寄せるほど、シンタローは趣味は悪くない。
 ちなみに、ハーレムとは、なまはげに似た大男だ。サービスの双子の兄でもある。
(でも、全然似てないんだよなぁ)
 シンタローが苦笑する。
「なんか、馬鹿にされた気がするのだが?」
「気のせい、気のせい」
 こんなところで、キンタローに暴れられたりしたら、いかなシンタローでも、苦戦を強いられるだろう。
 負けはしないが、部屋は粉々になる。シンタローはそう計算して、一旦身を引いた。
「そうか……ならいいが」
 キンタローは、シンタローの肩から手を離す。
「んー、ジャンさんてば、やっぱり今の叔父さんの方が好きなんだね」
「いや、好きになったら、その人の全存在を愛しいと思うのがごく当然のことではないか?」
 キンタローはどこからそんな歯が浮くような台詞を覚えたんだろう。シンタローは少々気になった。変な本でも読んだのではないだろうか。
「あ、そうだ。シンちゃん……シンちゃんがタイムマシンに乗ればいいんじゃない?」
 グンマが、ナイスアイディア、とでも言うように手を打った。

時を駆けるシンタロー 4
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