時を駆けるシンタロー
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※18禁注意

 結局、銀色の車(タイムマシン)が消えたこと以外、はかばかしい情報が得られなかったシンタローは、ライアンが何度もお礼を言うのを、
「いいってことよ」
 と軽く流した。
 授業が始まり、シンタローはそろそろ学校を後にしようと思った。
 ハーレムの姿はない。
 きっとどこかで時間を潰しているのだろう。先に帰ったのかもしれない。
 シンタローはタイムマシンを探すことに決めた。
 その前に、マジックやサービスや――ハーレムにもお別れを言っておきたかった。
 守衛のおじさんだったら知ってるだろうか。
 一緒に茶でも飲んでいるかもしれない。――有り得る。
(まぁ、変わり者同士話が弾んでいるんだろう)
 シンタローはハーレムが自分の叔父であることを忘れている。
 一階のとある部屋で――。
「やだって、言ってんだろぉ……」
 と、弱々しい啜り泣く声がする。
 誰だろう。いじめだったら止めに入んないと――。
 でも、この声には聞き覚えがある。ハーレムだ。
 ハーレムが誰かに苛められてんのか――?
 シンタローの足はぴたりと止まった。スライド式の部屋の扉が、ほんの少し開いている。
「それで抵抗してるつもりかい? ハーレム」
 ルーザーの、理知的な声。
(え? 何で――?)
 ルーザーは確か研究所じゃ……。
 でも、それも嘘かもしれない。
 それとも、時間があったから、この学校に寄ったのかもしれない。
 シンタローの思考がぐるぐる回る。
「何で研究所じゃねぇんだよ」
「実験が早く終わったからね……ハーレム、いつにもまして可愛いじゃないか……シンタローくんとやらのおかげかな」
「あっ、やだっ!」
 シンタローがぴくっと反応する。
(えーい! 何が何だかわかんないけど助けなきゃ!)
 赤い非常ベルがある。ガシャンとガラスを割ってボタンを押した。
 ジリリリリリリリリリ!
 校内にサイレンが鳴り渡る。
「あっ、ハーレム!」
 がらりと開いて、着衣の乱れたハーレムが出て来た。
「ハーレム!」
 シンタローは咄嗟に少年の手を取って廊下を走って庭へ出た。
『緊急事態発生! 緊急事態発生!』
 校内が俄かに騒がしくなった。生徒の足音。サイレンの音。
 シンタローとハーレムは人ごみに紛れて外へ脱出した。こういう時は、校門の判別機械もスクランブルモードになっている。不審人物でない限り誰でも出て行くことができるのだ。
「ふぅ……」
 シンタローが汗を拭う。
 大きな木の陰で、シンタローとハーレム、二人きり。
「シンタロー……」
「……何だ?」
「助けてくれて……ありがとう」
「ああ、そのことか」
 シンタローは深呼吸をした。
「――……ルーザーとのこと、訊かないんだな」
「訊いたってどうしようもねぇだろ」
「そうだな……」
 ハーレムはシンタローの前に回り込み、キスをした。
「俺……アンタに礼がしたい。何がいい?」
 何か――。
 ハーレムに求める何か。
 俺は――アンタを抱き締めたい。
 シンタローは本能の命じるままにした。
「これで……いいか?」
「いいよ、アンタなら……」
 そして、深い深い口付けをする。
「これから、どうする?」
 ディープキスの後、シンタローが唇を離して尋ねる。
「この近くに……モーテルがある。そこへ行こう」

 二人の喘ぎ声が混ざる。
 体が、熱い。
 ハーレムの右の乳首を弄ると、彼は高い声を出す。シンタローの欲望の通りだった。
「ハーレム……」
「あうっ……」
 なんてこの少年は……こんなにも色っぽいんだろう。なんていい匂いがするんだろう。シャンプーと石鹸の香りだ。――そして、ルーザーの香水の微かな残り香も。
 いや、それだけではない。この少年の体臭には、男をそそる何かがある。
 この少年を抱いた男――ルーザーにシンタローは嫉妬した。
 シンタローは何度も欲を放った。ハーレムも幾度も頂点に上りつめた。
 そして――
「シンタ……ロッ……」
 悩ましげな声を上げて、ついにハーレムが力尽きた。

 ハーレムは眠っている。
「ハーレム……」
「ん……」
 彼は寝言で答えた。いや、寝言ですらない。状況がわかってんだろうか。
(まぁ、いいさ――)
 最後にハーレムを抱けたんだ。満足さ。
 これで歴史も変わったかもしれない。キンタローにバレたら、いろいろ大変だろうな――。
 もしシンタローが若い少年時代のハーレムを抱いたと知ったら、キンタローはどうするだろうか……。
「…………」
 ――もしもの時の話をしたって仕方がない。もう、なるようになる。
 元はと言えばあいつらが悪いんだ、ちょっとイイコトしても、とやかく言われる筋合いはない。でも――。
(ハーレム……すまない……)
 アンタを巻き込んで、すまない。
 ルーザーとのことでもいろいろ揉めてたのに――俺はそこにつけ込んでしまった。
 でも俺は――アンタが好きだ。一目惚れだった。元の世界で散々アンタのこと、見て来たのに。まるで――まるで、初めて会ったみたいに。
 名残惜しいけど、俺は去らなければならない。
 ぎしっと、床が軋んだ。
 ハーレムが寝返りを打った。綺麗な寝顔だった。
「あばよ」
 沢田研二の『サムライ』の歌を想い浮かべながら、シンタローは部屋を出た。
 早く、タイムマシンを見つけ出さなければならない。ざかざかと街を歩く。
 シンタローは自分が厳しい面をしていることに気がつかなかった。マジックやサービスのことも――あんなに憧れていたサービスのことさえ今は忘れていた。

2012.12.20


時を駆けるシンタロー 18
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