時を駆けるシンタロー
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 ポーカーはシンタローの連戦連勝だった。ハーレムは顔に出るのである。
「畜生! また負けた!」
 悔しがるハーレムを見て、シンタローはにやにや。
(ああ、あの獅子舞も、これだけ可愛げがありゃあなぁ……)
 惚れていたかもしれない。そして――。
(キンタローと奪い合うのか……)
 あの男とはもう張り合いたくないなぁと、一応平和を愛するシンタローとしては考えるのである。
「シンタローくん。お風呂が湧いたよ。入ってきたまえ」
 マジックが勧めてくれた。
「いいんですか? 俺、一番風呂で」
「なに。君はお客さんだからね」
「でも……悪いな」
「遠慮はいらないよ。ハーレムも、それでいいだろ」
「あと一回やってからな」
「ハーレム」
 マジックの声が厳しくなる。ハーレムは肩を竦めた。
「わぁったよ」
 マジック邸のバスルームは、シンタローの来た時代と比べても、負けず劣らず立派なものであった。シンタローは大理石でできた湯船に浸かる。
(今日はいろいろあったなぁ)
 若いサービスと会えたこと、ジャンと話し合ったこと、マジックがかっこよく思えたこと、それから――
 あんなに美少年だとは思わなかった、ハーレム。
 帰ったらキンタローに教えてやろうかと思ったが、何となく気乗りしない自分にシンタローは驚いていた。
 あのハーレムを見せたら、キンタローは間違いなく夢中になる。今の己のように。
(――って、何考えてんだ、俺は)
 忘れよう、そう、忘れよう。
 この感情が恋だとしても。
(俺の身内はコタローとサービス叔父さんだけだ)
 だが、そのサービスの若い姿を見られたというのに、考えるのはハーレムのことばかりだ。
 ぐるぐる、ぐるぐると。
 もういい。のぼせちまう。
 シンタローは湯船から出た。
「おや、早かったね。どうだい? 湯加減は」
「え? ああ、ちょうど良かったです」
 マジックの質問に、シンタローは社交辞令でかわす。
「シンタロー、一緒に寝ようぜ」
「えっ!」
 シンタローはどっきり。
 ハーレムは、己の魅力に気付いていない。
 そこがまた、いいところでもあるのだが……。
「ハーレム。おまえはもう一人で寝れるだろ」
「まぁ、そう言うなよ、兄貴。何なら、兄貴も一緒に寝たっていいぜ」
「ふざけるな!」
 マジックは少々怒っているようだった。姿は見えなくなったが、台所へでも行ったのだろう。マジックは台所仕事が好きだ。いや、家事全般が好きだ。
 シンタローは、パプワ島で、家事の楽しさに目覚めた。パプワのおかげだ。あの時は、何で俺ばっかりこき使われなきゃなんねぇんだ、と思ったが――。
 今では感謝している。一人暮らしになっても困らないだろう。
 ああ、でも、もう一度会いたい。パプワにチャッピーに。遠い異国の仲間達。
 マジックとハーレムがぎゃんぎゃん言ってる横で、シンタローは自分の考えに浸った。
 もう一度、あの島に行けたなら……。
 今はリキッドという奴が赤の番人になっていると聞く。パプワ達は大事にされているだろうか。元は特戦部隊の隊員だと言う。
 ハーレムが隊長の部隊である。
 今でも――ハーレムはモテる。物好きな――そう考えていたが、今ならば、少しわかる気がする。
「俺、ハーレムが一緒でもいいですよ」
 ただ寝るだけだもんな。シンタローは心の中で呟く。
「ほんとか?!」
 ハーレムの顔が輝く。ルーザーが夢中になるのも無理はない。キンタローも。
(あんな無垢な顔で――男誘惑してんじゃないだろうな)
 だがそれは邪推というもの。ハーレムは経験がないに違いない。
 この時はそう思っていた。
「いつまでも子供じゃないんだぞ。まぁ、シンタローくんがいいなら、反対するのにやぶさかではないけれど――」
 マジックがぶつぶつ言う。親父にはわからないんだ。
 シンタローは心の中で舌を出した。
「星の見える部屋行こうぜ。あそこ気に入ってるんだ」
 ハーレムに引っ張られて、シンタローが二階に上がる。
(なんだ。ここは俺の部屋じゃねぇか)
 改装された部屋は、シンタローの部屋になっているのである。元はハーレムの部屋だったらしい。すっかり忘れていた。
「ここから見る星空は最高なんだよな」
 知ってるよ。
 シンタローは心の奥で呼びかけた。
 数億年の年月を経て地球に届く星の輝き。それは青春の輝きに似ている。
 青春の輝き、と言えば、シンタローはカーペンターズの『青春の輝き』が好きだった。
 あの夜空に輝く星の中には、もう既に無くなったものもある。
 そう考えると神秘的ではないか。
 タイムマシンもロマンかもしれないが宇宙旅行も立派なロマンだ。
 グンマ達の作ったタイムマシンで未来に行ったら、宇宙旅行が当たり前の世界に行けないだろうか。
 そう思いながら、シンタローは慄然とした。思えば大変なものを盗まれたものだ。自分がどうしてのん気にしていられたのかわからない。
 マジックがついていたからだろうか。マジックがタイムマシンを取り返してくれると、期待したからだろうか。
 それとも、そんなことを考える余裕が今までなかったか。
 けれど、慌てないでいられたのは彼らのおかげだ。
 大丈夫。タイムマシンはきっと見つかる。
「シンタロー。おまえ、どこから来た?」
「――どこでもいいだろう」
 つい、ぶっきらぼうになった。
「おまえといると懐かしい感じがする」
「――俺もだよ」
 つい最近まで、マジック邸で一緒に暮らしていた仲である。しかし、過去のハーレムがどうして未来に生まれるシンタローを懐かしいと言うのか。
「ジャンに似てるからじゃねぇの」
 シンタローは皮肉をきかせた。
「俺は違うと思うけど。なぁ、アンタの話、聞かせてくれよ。世界中を旅して回ったんだって?」
「ああ。そうだけど」
 ガンマ団にいるといろいろなところへ飛ばされる。総帥の息子であるシンタローも例外ではない。遠征に行く時はマジックと共について行く。
 コタローがいなかったら、ずっとそんな仕事をやっていた。殺し屋という職業を。兵士としての役割を。
 コタロー……。
「――可愛い弟がいた。俺には」
「名前、何て言うんだ?」
「秘密」
 急に、コタローに会いたくなった。
 コタロー、今どうしてる? まだ眠っているのか? 早く目を覚まして欲しい。
「本当に可愛がってたんだな」
「わかるか?」
「ああ。今のおまえの目、とても優しい目をしてる」

時を駆けるシンタロー 12
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