STELLA
1
大門秀一氏に捧ぐ

ステラ(stella)とは、ラテン語で星という意味。その星が集まってできた星座は、コンステレーション(constellation)と云う。
これから書くのは、ステラという女性が、人間関係というコンステレーションに、どの様に関わっていくかという話である――。

 一人の女性が車から降りた。ハイヒールのヒールが高い。
 カッカッと音を立てて歩きながら、ガンマ団の方へ近づいてくる。
 と、そこで知り合いに会った。
「ステラ義姉さん!」
 従弟のサービスだった。ハーレムと、それから、ステラとは面識のない青年がいる。
「サービスったら……私はまだ義姉さんじゃないわよ」
 苦笑しつつ、ステラが答えた。
「でも、結婚するんでしょう。ルーザー兄さんと」
 ハーレムの眉が、ぴくり、と動いた。機嫌が良くないときの、彼の癖である。
「綺麗な人だなぁ」
 ジャンは、驚いて、目を瞠っていた。
「ああ、そうそう。こちらはジャン。ジャン。ステラだよ。僕の従姉」
 確かにステラは美しい。長い白金色の髪は、腰までどころか、くるぶしまで届いている。それでも、自分の髪をふんづけるような失態は起こさない。いつでも、常に優雅に歩いている。
「ルーザー兄さんだったら、研究所にいるよ。――ハーレム。何黙ってるんだ。何か言えよ」
「――よぉ」
「よぉ、じゃないよ。久しぶりに会ったのに。ごめんね。ステラ」
 サービスの言葉に、ステラは笑顔を見せた。
「いいのよ」
「じゃ、先行ってて。ジャンも。僕は、こいつに話があるから」
 サービスは、ハーレムの方を、親指で指した。
 ジャンは、些かふらふらとなりながら、ステラの後について行った。
「ハーレム。今のは、兄の婚約者に対して、良くない態度だぞ」
「まだ結婚したわけじゃねぇだろ」
「けど、ほぼ確実だって」
「いいか? 俺は、ルーザーのことを兄貴と思ってない。というわけだから、当然、ステラのことも義姉とは認めない。以上」
「ハーレム! 待てったら」
 だが、ハーレムは、サービスの言葉を無視し、ひらひらと手を振りながら、どこへともなく去って行った。
 サービスは知らない。ハーレムの秘めたる思いを。
 幼い頃から、ずっと恋い焦がれていた。美しい、サービスにもよく似た、美しい従姉を。
(冗談じゃねぇ。ルーザーとステラが結婚するのなんか、見たくねぇ)
 しかし、彼らは、どう見ても似合いの一対だった。それが、ハーレムに忸怩たる思いをさせていた。
 マジックも、二人のことは、認めている。半ば公認のカップルだった。
(奪ってやろうか)
 そんな物騒なことを考えたこともあった。
 ハーレムは、普段はわざと、ステラのことを考えないようにしてきた。そして、それは成功するかに思われた。
 だが、煌く宝石で飾ったような、ますます美しくなった従姉を見ると、胸の奥が疼いた。
 絶対、ルーザー兄貴とは結婚させたくない。不幸になるのは見えている。
(俺は――ステラのそんな姿に、耐えられるだろうか)
 結ばれる相手は、自分でなくてもいい。ルーザー以外なら誰でもいい。
 誰にも、ハーレムの懊悩はわからない。それでいい。
 ――ハーレム、十六歳の秋であった。

STELLA 2
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