STELLA ステラ(stella)とは、ラテン語で星という意味。その星が集まってできた星座は、コンステレーション(constellation)と云う。 これから書くのは、ステラという女性が、人間関係というコンステレーションに、どの様に関わっていくかという話である――。 一人の女性が車から降りた。ハイヒールのヒールが高い。 カッカッと音を立てて歩きながら、ガンマ団の方へ近づいてくる。 と、そこで知り合いに会った。 「ステラ義姉さん!」 従弟のサービスだった。ハーレムと、それから、ステラとは面識のない青年がいる。 「サービスったら……私はまだ義姉さんじゃないわよ」 苦笑しつつ、ステラが答えた。 「でも、結婚するんでしょう。ルーザー兄さんと」 ハーレムの眉が、ぴくり、と動いた。機嫌が良くないときの、彼の癖である。 「綺麗な人だなぁ」 ジャンは、驚いて、目を瞠っていた。 「ああ、そうそう。こちらはジャン。ジャン。ステラだよ。僕の従姉」 確かにステラは美しい。長い白金色の髪は、腰までどころか、くるぶしまで届いている。それでも、自分の髪をふんづけるような失態は起こさない。いつでも、常に優雅に歩いている。 「ルーザー兄さんだったら、研究所にいるよ。――ハーレム。何黙ってるんだ。何か言えよ」 「――よぉ」 「よぉ、じゃないよ。久しぶりに会ったのに。ごめんね。ステラ」 サービスの言葉に、ステラは笑顔を見せた。 「いいのよ」 「じゃ、先行ってて。ジャンも。僕は、こいつに話があるから」 サービスは、ハーレムの方を、親指で指した。 ジャンは、些かふらふらとなりながら、ステラの後について行った。 「ハーレム。今のは、兄の婚約者に対して、良くない態度だぞ」 「まだ結婚したわけじゃねぇだろ」 「けど、ほぼ確実だって」 「いいか? 俺は、ルーザーのことを兄貴と思ってない。というわけだから、当然、ステラのことも義姉とは認めない。以上」 「ハーレム! 待てったら」 だが、ハーレムは、サービスの言葉を無視し、ひらひらと手を振りながら、どこへともなく去って行った。 サービスは知らない。ハーレムの秘めたる思いを。 幼い頃から、ずっと恋い焦がれていた。美しい、サービスにもよく似た、美しい従姉を。 (冗談じゃねぇ。ルーザーとステラが結婚するのなんか、見たくねぇ) しかし、彼らは、どう見ても似合いの一対だった。それが、ハーレムに忸怩たる思いをさせていた。 マジックも、二人のことは、認めている。半ば公認のカップルだった。 (奪ってやろうか) そんな物騒なことを考えたこともあった。 ハーレムは、普段はわざと、ステラのことを考えないようにしてきた。そして、それは成功するかに思われた。 だが、煌く宝石で飾ったような、ますます美しくなった従姉を見ると、胸の奥が疼いた。 絶対、ルーザー兄貴とは結婚させたくない。不幸になるのは見えている。 (俺は――ステラのそんな姿に、耐えられるだろうか) 結ばれる相手は、自分でなくてもいい。ルーザー以外なら誰でもいい。 誰にも、ハーレムの懊悩はわからない。それでいい。 ――ハーレム、十六歳の秋であった。 STELLA 2 BACK/HOME |