Last eight years ~最後の八年間~ 4

「静かだべな……」
「シンタローがおらんからじゃの」
「そげだがね」
 ミヤギ、コージ、トットリがコーヒーを飲みながら話し合っている。シンタローの部下達だ。
 彼らも昔はシンタローの命を狙っていたことがあったが、もうすっかり仲間だ。士官学校時代はシンタローを尊敬すらしていたのだから。無論、今でも。
「――アラシヤマは?」
「家に帰ったんじゃなかろうか」
「あ、ウマ子ちゃん元気かなぁ」
「子供も生まれたんだってなぁ……」
「ミヤギくん。それ、かなり前の話題だっちゃよ」
 トットリが苦笑する。
「双子だったべな」
「息子に娘だっちゃよ。息子の方がウズマサくんで娘がサナ子ちゃん。可愛かったっちゃね~」
「でも、子供が生まれたということは、なぁ……」
「うん、まぁ、それについてはツッコまない方がいいっちゃ」
「ツッコむってトットリ……」
「あ、今のは言葉のあやだっちゃ」
 トットリが慌てる。ミヤギが笑う。
「まぁ、けどなぁ……アラシヤマ、あいつが真っ先に結婚するとは思わなかったべ。おらもなかなかハンサムだと思うべが何で結婚できないんだべなぁ……」
「ミヤギくんは理想が高過ぎるっちゃ」
「イワテのこともあるけんのう……」
 コージが顎を撫でながら言う。東北イワテとはミヤギの姉である。
「まぁ、ミヤギの場合顔だけっちゅうのも大きいがのう」
 コージがズバリと言い切った。
「コージ……本当のこと言っちゃだめだっちゃ」
「トットリ~、おめ、自分が何を口走ったかわかっているんだべな~」
「ご、ごめんだっちゃミヤギく~ん……」
「まぁ、トットリはミヤギには結婚して欲しくないんじゃろうな……」
 コージが呟く。
「なしてだべトットリ……」
「いやぁ……」
 ミヤギの問いにトットリは言いにくそうに頭を掻く。
「トットリ。この際言ってしまえ。これはわれの問題じゃ」
「うう……」
 トットリが赤面する。
「ミヤギくん、僕、僕……」
「うわぁ……」
 トットリの台詞はミヤギの歓声に遮られた。
「雪だべ!」
「そうじゃの。――この分では明日は銀世界かのぅ……」
「ミヤギく~ん……」
 告白のタイミングを逸したトットリが泣いている。
「こうして見っと昔を思い出すべ。皆とよく遊んだべなぁ……」
 ミヤギは窓の外を見ながら遠い目をしている。気の毒なトットリは部屋の隅でいじけていた。
「雪、積もったら何する? トットリ」
「ほら、元気出すんじゃ、トットリ」
「ミヤギくん、コージ……」
 トットリは溜まった涙を拭う。
「そうだっちゃね……カマクラ作りたいっちゃ」
「それまで積もればええけども……」
「大丈夫、積もる! そして三人でカマクラ作るんだべ」
「ミヤギくん……」
「仕事はどうすんじゃ!」
 コージの言葉にミヤギとトットリが爽やかな顔をして同時に答えた。
「サボり!」

「ふー、まだ眠いな……ん? 紙切れが置いてある」
 シンタローが紙切れを手に取った。
『シンタロー総帥。カマクラ作るから総帥も来るべ。ミヤギ、トットリ、コージ』
 シンタローがぷっ、と吹き出した。
「あいつら……」
 雪はカマクラが作れるぐらいに降っていた。
「ん、まぁ、あいつらの遊びに混ざるとしようか。少しは」
 赤い総帥服のシンタローがやって来るとトットリとミヤギが拍手をした。
「来たっちゃね。総帥」
「総帥は止せ、ここではただのシンタローだ」
「懐かしいっちゃね」
「だべなぁ」
「ほら。カマクラの完成じゃ」
「さっすがコージ。力仕事はお手の物だべ」
「だっちゃ。コージがいて良かったっちゃ」
「ところで……よし、あいつはいねぇな」
「アラシヤマのことだっちゃか?」
「言うな!」
「わしもアラシヤマの姿は見かけちょらんけん。家族と一緒におると思うんじゃが……」
「ならいいがな」
「鍋やるべ鍋」
「甘酒もあるっちゃよ」
「ん? 何じゃこのメモ用紙」
 それにはこう書いてあった。
『シンタローはん。家族サービスするさかい家に帰ります。寂し思わんといておくれやす』
 ……怖いのはこの紙切れがどこから来たか、だ。シンタローは思った。――アラシヤマ、できればそのまま一生ずっと家族サービスしててくれ。
「家族サービス……あいつが使うと友情パワーと並んで虚しい言葉だべな」
「我慢しろミヤギ。俺だって腹が立ってる」
「アラシヤマも父親らしくなってきたのう。さすがウマ子の選んだ婿じゃ」
 コージはずれたところで感心している。
「あいつ、サナ子ちゃんの世話もしてるのか」
 シンタローが言った。それを聞いてコージが慈悲深い伯父の顔になる。
「ああ、あのこんまい娘」
「ウズマサくんもいい子だっちゃよ」
「本当に、二人ともアラシヤマの子供とは思えないくらいめんこい子供だったべ」
「ウマ子の血も流れてんだろ? ウマ子は性格いいからな。外見はともかく、性格はウマ子に似て欲しいよなぁ」
「ほうほう。シンタローもウマ子の魅力がわかるんじゃの」
 コージがうんうんと頷きながら一人合点をする。
「と言ってもあれと結婚はごめんだけどな」
「うれすぃべ! シンタローもおらと同じだべ~。なぁ、シンタロー。おめもおらと同じで理想が高くて結婚できないんだべ?」
「まぁ、なぁ……」
「ほら。シンタロー程の男だって結婚しねぇんだ。おらだって独身貴族でも悪かねぇと思うべ。なぁ、トットリ。姉貴もシンタローのこと好きだけんどな」
 シンタローはミヤギに甘酒を勧められながら、イワテは暴力さえ振るわなければ圏内なのにな、と密かに心の中で呟く。
 鍋はあっという間に空っぽになった。シンタローは何だかんだ言いつつこいつら嫌いじゃない――アラシヤマでさえ――と考えていた。

2017.1.11

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