Last eight years ~最後の八年間~ 24

Last eight years ~最後の八年間~ 24

「ハーレム様――」
 ハーレムの墓の前に青年がいる。ティラミスであった。元総帥マジックの側近の。
 顔には憂いを帯びているが、泣いてはいなかった。
 ハーレム様――ずっと貴方のことが嫌いでした。まさかいなくなってから自分の気持ちに気付くなんて……。
 貴方のことが……本当は好きでした……。
 でも、貴方は私のことなど歯牙にもかけていなかったのでしょうね……。
 ――人の気配がした。
「誰ですか!」
「ティラミス、俺だ」
 それはシンタローであった。
「シンタロー総帥……」
「よぉ、ちょっと話さねぇか。――ここはまだちょっと寒い」
 シンタローは近くの喫茶店でティラミスに紅茶を勧めた。自分はコーヒーなのに。
「ハーレム叔父さんな……まさかこんなに早く亡くなるとはな――」
「ええ――」
「でも、叔父さんが生きていた間が俺達も一番充実して楽しかった。そうは思わねぇか?」
「そう考えてなかったら墓前にいません」
「そうだな――」
 シンタローはブラックコーヒーを流し込みながら、追憶に浸っていた。少なくとも、ティラミスにはそう見える。
 でも、ティラミスにはまだマジックがいる。ハーレムが亡くなったのは残念だが。
 ハーレムは、ティラミスにとって重要人物となりつつあった。彼が死んだのはその時のことだった。
「何か……済まねぇな」
「何がですか?」
「いろいろ」
 シンタローは自分のせいでハーレムが死んだと思っているのだろうか。それは間違っている。それは、ハーレムの選択だったのだから――
(なんて考える僕は冷たいのだろうか)
 でも――ハーレムにはもっと生きて欲しかった。それこそ百を超えるまで……。
 ティラミスは、ハーレムとのデートらしきことをした思い出を振り返っていた――。

「ティラミス。喫茶店でデートとしゃれこもうじゃねぇか」
 あの日、ティラミスはハーレムに捕まっていた。
 ティラミスは大仰に溜息を吐いた。
「貴方には特戦部隊の方々がいるじゃありませんか」
「おう。あいつら冷たくてよ。実家に帰ったり遊びに行ったりしてるんだぜ」
「だからって何で僕――」
「いいじゃねぇか。お前にはチョコレートロマンスがいることは知ってる。だからこれは――暇潰しだ」
「僕は忙しいんです。他当たってください」
 去って行こうとするティラミスの腕をハーレムがガシッと掴んだ。
「逃がさねぇぜぇ~」
 ハーレムは脅すような怖い顔をしていた。何だってこんな男に人気があるんだ?
「――ああもう、わかりましたよ。付き合えばいいんでしょ、付き合えば」
「話がわかるじゃねぇか」
「――酒場とかじゃないですよね。日の明るいうちから酒を飲む気にはなれませんよ」
「……喫茶店て言ったじゃないか。結構記憶力悪いんだな」
 ハーレム様、アンタが行くところと言うと酒場しか思いつかないんですよ!
 ――ティラミスは心の中で叫んでやった。
「いい店見つけたんだぜ~。マジック兄貴も絶賛するような」
「どこです?」
「『キャットパラダイス』という猫カフェだ」
 ……猫カフェ?
「へぇー……」
「どうした? ティラミス」
「貴方、猫好きだったんですね。意外な感じがしました」
「まぁ、犬の方が好きだけどな。猫も悪くないな」
「行きましょう!」
 チョコレートロマンスとマジックしか知らない事実だが、ティラミスは大の猫好きであったのだ。
『キャットパラダイス』は、何度か一人で行ったことがある。そこで可愛い猫と戯れるのだ。
「まぁ、お前が乗り気になると知っているから誘ったんだが」
 ハーレムが笑みを浮かべるように口元を歪ませた。
「デートだからな……今回は俺がおごるぜ」
「ええっ?!」
 ティラミスが素っ頓狂な叫び声を上げた。
「……何だよ」
「ケチで有名なハーレム様がおごってくれるなんて……」
「――そうだな。でも、ケチは俺にとっては悪口じゃねぇ」
「僕なんかにおごるより、隊員達の給料上げた方が良くはないですか?」
「あいつらの給料上げて何が面白いんだよ。特典はあんのか?」
「――そういうところが嫌われるんですよ」
「嫌われたっていいぜ。俺は俺の道を行く」
 やり取り自体は下らないものであったにせよ、ティラミスは少しだけハーレムのことを見直した。
 確かに自分の道を曲げない男はかっこいい。マジックもそうだった。
「けれど、少しは部下に優しくしておいた方がいいですよ」
「考えておく。俺の生き方に反しない限りではな」
 ハーレムがにこっと笑った。笑うと存外、強面で通っているこの男も可愛い。
 こんな男が可愛いなんて――。
 だが、せっかくなので、ハーレムと一緒に猫カフェに行くことにした。

「ここで時々心の疲れを癒してんだって?」
 ハーレムが言った。ハーレムとこう言った話をするのはチョコレートロマンス? それともマジックだろうか。
「チョコレートロマンスから聞いたんですか?」
「そうだ」
「ふぅん……」
 ハーレムの膝の上の愛嬌ある猫はすっかりリラックスしてゴロゴロと喉を鳴らす。
「ははっ。猫も可愛いよな」
「貴方は犬が好きなんでしょう?」
「動物だったら割と何でも好きだぜ」
 ティラミスの傍にいた猫がうーんと伸びをする。ハーレムは膝の上に乗っかった猫の首の下を撫でながら言った。
「この猫、前に俺が行った時も懐いて来たんだぜ。前世で気が合っていたのかもな」
 前世……この男の口からそんな言葉が聞けるとは。
「ハーレム様――貴方は『人間死ねばゴミになる』というような死生観の持ち主だと思ってましたが。まさか前世を信じているなんて」
「ゴミになるのは肉体だけだ」
 ハーレムが猫を窓の外に近付ける。
「そうかもしれませんね」
 魂は永遠に滅びない――そんな言葉を聞いたことがある。
 もしかしたら来世があるなら、マジックやチョコレートロマンス、そして、目の前のハーレムという男に会えるだろうか。この猫達とも。
 必ず、会いたい――。
「どうした? 黙りこくって」
「猫があんまり可愛いので夢中になってました」
 その台詞は半分は本当で半分は嘘だ。猫に夢中なのは本当だが、猫のことばかり考えていたわけではない。ティラミスは黒と白の斑の毛皮の仔猫の頭を撫でた。
 来世でも素敵な縁に恵まれますように――。


2017.9.4

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