Last eight years ~最後の八年間~ 20

 ガンマ団の飛行船が悠々と空を飛んでいる。その中には特戦部隊の面々が。
「G、どうして私達まで隊長について行く必要があるのだ?」
 マーカーが仏頂面で訊く。彼はいつもこう言う表情だが。
「――長年の付き合いだからわかるだろう」
 Gが突き放すように言う。マーカーも答えはわかっているのだ。ロッドはそれを知っている。
「Gとも長い付き合いだよな。――仲間として」
 ロッドがニヤニヤしながら独り言つ。Gが長年の付き合い――と言ったのはハーレムとのことだ。
 体格のいい熊のような大男のGと、細身の頬に傷を負っているマーカー。
 因みにマーカーの頬の傷は暴走しかけた弟子アラシヤマを止める為に付いたものだ。高松に整形手術を勧められたが、何を思ってか断ったらしい。
 ロッドは相変わらずニヤニヤしている。
「俺達、一応護衛ということになってるけど、ハーレム隊長一人でも充分強いもんね。でも、隊長、寂しがり屋だからねぇ。一人でいたくなくて俺達とか侍らせときたいんだよ」
「私は隊長のお守りをする為に特戦部隊に入ったわけではない」
「んもー、ツンデレなんだから。マーカーちゃんは」
「ツンデレとは何だ」
「おい、お前らうっせーぞ」
 ハーレムが団員達の談話室に入って来た。ロッドが小さく、「やべ」と呟いた。
「隊長。そろそろ私達から独立して下さいませんか?」
 マーカーがはっきり言い切った。
「依存してるように見えるか?」
「見えます」
「まぁまぁ、マーカーちゃんも。隊長に構うことができなくなったら寂しいく・せ・に」
「ロッド……その口調はやめろ」
「む……ロッド。隊長が俺達に依存しているかどうかはともかく、今の語尾については俺もマーカーに同感だ」
「ちぇー、Gまで敵に回っちまった」
 ロッドがぶすくれる。
「ねぇ、隊長。隊長は俺達がいなくなったら寂しいっすよね」
「新たに仲間を見つけるから大丈夫だ」
「酷い! 隊長まで俺を捨てる気?!」
 ロッドが持っていたハンカチを噛み締めた。
「隊長。それは隊長では無理かと……」
 マーカーが口を挟む。大胆な男である。
「仲間を見つけることか? 俺は結構人気あるんだぞ。これでも」
「でも、リキッドちゃんに捨てられたじゃないすか」
 すんすんと鼻を啜りながらロッドが指摘する。
「あいつはあいつで自分の道を見つけただけだ。それとも何か? お前らはここより他に居場所を見つけたのか?」
「う……」
 ロッドは痛いところを突かれた。――そうこのはぐれ者の群れ以外にはロッドも行くところがないのだ。
 マーカーがふ、と笑った。
「確かにありませんね」
「……ん」
 マーカーとGが殆ど同時に返事をした。
「――隊長が意外と人気あるのはわかるけどさぁ……」
 ロッドが言葉を紡ぐ。
「そういや、キンタロー様のプロポーズ、受けたんですか?」
「はぁ? 受ける訳ねぇだろ」
「――ですよねぇ」
 そう相槌を打ってから、ロッドはほんの少し口角を上げた。
「でも、ちょっとキンタロー様可哀想ですねぇ。まぁ、シンタロー総帥の方が強敵ですが」
 ロッドが言葉を続けた。ハーレムが答える。
「あいつらは他に伴侶見つけるだろ。そのうちに」
「じゃあ、何でシンタロー総帥は未だに独身なんでしょうかねぇ」
「知らねぇよ」
「隊長は誰かと結婚する気はないんですか?」
「ないね。俺はずっとこのままだ。一生独身貴族だよ」
「リキッドちゃんに老後をみてもらうんじゃなかったんスか?」
「ふ……あんな鼻たれにおしめ変えてもらうのか? それも楽しそうだが、俺は一生現役だ」
「俺はリキッドちゃんの世話になりたいなぁ。リキッドちゃんが世話してくれたら、爺ィになっても俺勃っちゃうよ」
「ふん」
「んで、隊長が傍にいてくれたらもっと最高なんだけどなー。ねぇ、俺、隊長が好きだったんすよ。皮も剥けてないガキの頃から」
「今もそう変わっちゃいねーだろ」
「あら。心外なお言葉。じゃあ、見せてあげましょうか。どうせここには知った仲しかいないし」
 ロッドがパンツを下げようとすると――。
「下品だぞロッド」
 マーカーの低い声と共にロッドは燃やされた。
「よくやった」
 ハーレムが煙草を取り出そうとする――が、酒も煙草も止めたことを思い出したらしい。ロッドが自分を指さして叫ぶ。
「よくやったじゃないっすよ、隊長! 俺、黒焦げっすよ?」
「おい、マーカー、こいつ焼き尽くしても良かったんだぞ。何で加減した」
「まぁ、こいつもこいつで使い道がありますからね」
「はっ、そりゃそうだ」
 ハーレムとマーカーが笑い合う。
「もう――二人とも俺のこと何だと思ってんすか。G、お前だけは友達だよな。ほら、俺、ルートちゃんとも仲いいじゃん?」
「ルートヴィヒか……だが、俺もお前の下品なとこは好きになれん」
「ドイツにだってヒワイなところがあるくせに。人間なんてどんな国行ったってそう変わんないじゃん」
「……根本的には似たり寄ったりだな」
「でしょう。Gは話わかるなー。どっかの頭固い男と違って」
「また燃やされたいか。ロッド」
「マーカー、今度は俺も参加させろ」
 と、ハーレム。
「えー? 隊長真人間になるんじゃなかったんですか?」
「今だけ忘れる」
「そんなのないっしょ」
「これ以上変なことを言ったら眼魔砲だからな」
「前にそれで飛行船壊したのアンタでしょーが!」
「わぁってる。兄貴にしこたま叱られた。んで、文句たらたら言いながらも修理に出してくれた」
 マジックはハーレムに甘い。ハーレムにはハーレムでまた言いたいことがあるだろうがそれは我儘というものだろう。ハーレムは子供の頃からマジックに面倒を見てもらっていた。
「マジック様は甘いっすよねぇ」
「何か言ったか?」
「別に」
「反抗期か? お前も昔はかわい……くなかったな。生意気な小僧だったよ。ロッド、てめーは。子供の頃から。食えないガキだった」
「ひっでーな。隊長、本気で怒りますよ。ン年前、俺のことその野性の美しさで魅了したのは隊長でしょーが」
「隊長、猫の子拾うみたいに未来ある少年をホイホイ拾って来ないでください」
 マーカーがロッド達の話に割り込んで意見する。一理ある。
「セリザワとかね……」
 ロッドが溜息混じりに呟いた。
「あれはあいつが勝手に懐いて来たんだ」
 ハーレムが頭を抱える。ハーレムにとってもセリザワは頭痛の種らしい。数十年経った、今でも。
「セリザワってカモって名前じゃないんすよね。心戦組のヤツらは皆元ネタがあるのに。つか、あいつ若いまま? 超羨ましいんだけど」
 ロッドはぺらぺら喋っていたが、どうでもいいだろそんなこと、とハーレムの一言で片づけられた。
 ――目的地が近づいていた。飛行船が徐々に地上に下降しようとしている。


2017.7.23

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