Last eight years ~最後の八年間~ 12

 今日はバレンタインデー。シンタローの叔父、ハーレムとサービスの誕生日である。二人は双子なのだ。
 よし、これでいいか。
 鏡の中のシンタローはタイピンでネクタイを飾る。東北ミヤギが入って来た。
「シンタロー、用意はできたべか?」
「おう。――ノックぐらいしろよ」
「すまねっす」
「で、どうだ? このかっこ」
「かっこええべ。馬子にも衣装だべ」
「てめぇは一言多い」
 シンタローがミヤギの頭にチョップを食らわす。
「いてぇっ!」
 そういう割には嬉しそうだ。
 何だこいつ。Mに目覚めたのか?
 シンタローが首をかしげていると。
「サービス様達が待ってるべ。早く行くべ」
 と、ミヤギがシンタローの背中を押した。
「ちょ、ちょっと、待てっての! プレゼントプレゼント」
 ミヤギが離れるとシンタローは二人分のプレゼントを手にした。そして廊下に出る。
「ミヤギくーん! シンタロー総帥!」
 明るいトットリが手を挙げて走って来た。いつもの忍者の格好である。最初、シンタローは忍者のコスプレかと思った程である。
「トットリ……もう少し静かにしろ」
 シンタローが注意する。
「あ、ごめんだっちゃ」
 トットリが笑った。トットリもミヤギも大切なシンタローの仲間である。
「皆もう来てるっちゃよ」
「そっか……遅くなっちまったかな」
「まぁ、謝ればいいべ」
「俺はお前みたいな適当な男とは違うんだよ」
「おらが適当だって?」
「ミヤギくん……怒らない方がいいっちゃ。ほら、笑って笑って」
 トットリはにこっと微笑む。このトットリの笑みに癒されている団員が何人いることか。
「そうだべな」
 ミヤギもトットリの笑顔に絆されたらしい。シンタローがニヤニヤしている。それにミヤギが気が付いた。
「何だべ。シンタロー」
「いや、お前らほんと仲いいなと思ってさ」
「当たり前だべ。何たって俺らベストフレンドだべ」
「だっちゃ」
 ミヤギとトットリはパン、と手を叩き合った。
「遅刻したのがシンタローならサービス様もハーレム隊長も怒らないべ――あ、ハーレム隊長は怒るべかもなぁ」
 ミヤギが言う。
「さぁさ、行くべ。シンタロー」
 ミヤギはシンタローの袖を引っ張って行った。

 誕生日の飾りつけはいつもより派手だ。ハーレムとサービス、二人分の誕生祝いだからだ。
「叔父さん!」
「やあ、シンタロー」
 シンタローの叔父の一人、サービスは息を飲む程の美男子だ。ジャンと異様に仲が良いのが気になるが。
(ジャン、か)
 シンタローは自分によく似た男を思った。
 シンタローはジャンに殺されたことがある。文字通り殺されたのだ。いろいろあってシンタローも生き返ったがジャンには恨みがある。サービスと仲良しなのも気に入らない。
「よーお、シンタロー」
 ジャンがどこから現れたのか、サービスの肩に頭を載せている。
「こら、重いぞ。ジャン」
 そう言いながらもサービスは満更でもないようだ。
「おう」
 そう答えながらもジャンはどこうとしない。
「サービス叔父さん、プレゼント持ってきました」
「ありがとう」
 サービスがシンタローの贈り物を受け取り、美しい笑みを返した。
 ――けれど、シンタローの本命はサービスではない。サービスにはジャンがいる。面白くないがそれは事実だ。
 本命は――
「よう、シンタロー」
「ハーレム叔父さん!」
 シンタローは顔がにやついていないか気になった。
「俺は隊長だといつも言っているだろう」
「でも、俺の叔父なことは確かだから――お誕生日おめでとう」
「おう、ありがとう」
「はい、これ。ノンアルコールのスパークリングワイン」
「――高かったんじゃねぇか?」
「俺だって稼いでますよ」
「そうだったな」
「シンタロー」
 従兄弟のキンタローが話しかける。キンタローとも何やかやあったが、従兄弟というところで落ち着いている。
「おう、キンタロー。ハーレムと話したいのか?」
「ああ」
 何だろうな、とシンタローが思っていると。
「ハーレム。これ」
 キンタローが指輪を差し出した。
「結婚してくれ」
「なっ……!」
 シンタローは絶句し、ハーレムは気絶した。

「うーん、うーん……」
 ハーレムはまだ呻いている。シンタローはハーレムの世話をしている。
「ハーレム叔父さん、倒れる程キンタローのプロポーズが嬉しかったの?」
「んな訳あるか!」
 ハーレムががばっとはね起きた。
「おい……いいから寝てなよ」
「おう……わりぃな。しかし、こんな風に甲斐甲斐しく俺の看病を――。お前はコタローしか目に入ってないと思ってたんだがな」
「コタローは可愛いからな。アンタと違って」
「ふん。どうせ俺は可愛くねぇよ」
 可愛いよ。
 シンタローはこっそり思った。シンタローは若いハーレムに会ったことがある。その頃から全然変わっていない。
 でも、キンタローもハーレムが好きで……。
「冗談はともかくさ、アンタ、キンタローと結婚する気はないの?」
「ない!」
 良かった……。
 シンタローは一瞬ほっとして、安堵した自分に嫌になった。
 キンタローはシンタローのせいで24年間という長い貴重な月日を奪われたのだ。だから、キンタローにも幸せになって欲しいのに……。


2017.4.25

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