Last eight years ~最後の八年間~ 10

「ピアスさんが来てるんだって?」
 カッカッとロッドが足音高く軍靴を鳴らす。
「ええ――ですから邪魔はしないでください! お願いします!」
「もし貴方が邪魔をしたら俺達ピアス少将に殺されます!」
 ビアトリクス・ピアスは今や少将になっていた。
 ティラミスとチョコレートロマンスは必死になってロッドを止めようとする。
「やかましい!」
 ロッドが怒る。ピアス少将には命を狙われた過去があるのだ。
 ――ピアスはハーレムのことが好きだ。それもロッドの気に食わなかった。
 チョコレートロマンスはガタガタと震え、ティラミスは、
「知りませんよ、もう」
 と、呟いた。

「ハーレム。どうしてもピアス少将を嫁に迎える気はないのか?」
 そう訊いたのはガンマ団前総帥でハーレムの兄のマジック。
「残念ながら」
「どうしてだ。女は言い寄るものではなく言い寄られるもの。敢えて言い寄った私を貴方はつっぱねる気ですか」
 ピアスが言った。
「お前はもう若くはないが美人だ。嫁に行く先くらいあるだろう」
「確かに私はモテる」
 ハーレムの言葉にピアスは同意した。声には自慢げな響きが潜んでいる。
「だが、好きになったのはハーレム、貴方しかいない」
「愚弟ですが」
 と、マジック。
「愚弟は余計だ」
 ハーレムはむすっとした。
「ピアス少将、これからも宜しくお願いします」
「ああ……で? ハーレム、貴方はどうしても私と結婚する気はないのか?」
「ないね」
「何故だ。絶対に私のことは憎からず思っているとばかり――」
「友達としてならな」
「おい、ハーレム。この縁談は受けた方がいい。ガンマ団もイタリア軍と手を結べば何かと――」
「兄貴は黙っていてくれ。今のガンマ団は殺し屋軍団じゃねぇじゃねぇか。そもそもピアスは組織の中の一人に過ぎないし」
「ピアスさん! 隊長!」
 ロッドが勢い良く扉を開ける。
「何だ、ロッド……」
 ハーレムは呆れ半分、ほっとしたのが半分だった。
「ピアスさん、アンタ何しに来たんですか!」
「プロポーズだ。見てわからんのか」
「わかりませんよ。マジック様にプロポーズですか? マジック様は今男やもめですよ」
「そ……そんな……私にはシンちゃんが……」
「ロッド! このクソガキ! 私がこんなオジンを相手にすると思うのか!」
 ピアスは口が悪い。
「え、えーと……じゃあ、目当てはやっぱハーレム隊長で?」
「その通りだ」
「えー? じゃあ俺のライバル?」
「お前もハーレムの周りをうろちょろしているらしいな」
 二人の間にバチバチッと火花が散る。
 ――と、そこへ。
「ボンジョルノ~」
 間延びした声が聞こえた。フェリシアーノだ。
「フェッ、フェリシアーノ!」
 ハーレムが叫んだ。
「まぁ、イタちゃーん」
 ピアスがフェリシアーノに抱き着く。さっきまでの強面もどこへやら。
「なぁんだ。フェリちゃん来てたの」
 ロッドも嬉しそうだ。何せ、イタリアはロッドの祖国であるのだ。フェリシアーノはイタリアという国の擬人化した姿である。ピザと美女が大好きなのだ。
「わーい、ピアスさーん」
 フェリシアーノは喜んでいる。
「可愛い彼女は見つかったか? イタちゃん」
「んとー、可愛い娘はたくさんいるんだけど、皆相手してくれないんだ」
「見る目ない女が多過ぎるな。イタちゃんはこんなに可愛いのに」
 ピアスはよしよしとフェリシアーノの頭をなでなでした。
「えへへ。ピアスさん、気持ちいい」
「おい、フェリ」
 ハーレムがドスの効いた声で言う。
「お前、何しに来たんだ」
「何しにって、遊びに来たんだよ~」
「そんなこったろうと思ったぜ……」
 ハーレムが溜息を吐く。
 フェリシアーノとはある一件がきっかけで知り合ったのだ。もうどのぐらい前になるだろうか。
 フェリシアーノは陽気で明るいから誰からも愛されている。例えヘタレでも。
「フェリちゃん、来てくれて嬉しいぜ」
「ロッドさ~ん」
 ピアスに抱き着かれたまま、フェリシアーノはロッドに手を振る。ピアスは憂いを帯びた表情でこう言った。
「イタちゃん……私、ハーレムにプロポーズしたのだが応えてくれないのだ」
「え~、ハーレムさん結婚しちゃいなよ~」
「……俺にも選ぶ権利くらいあるだろうが」
「酷いな。その言い方は」
「俺も反対だな」
 ロッドが口を挟む。
「ピアスさんは俺の仇だし……もう恨んじゃいないけど」
「ああ……いつぞやは悪かったな。ロッド」
「今更謝られても仕様がないんですけどね。だけど隊長は俺のもんだから」
「誰がてめぇのもんだよ」
 ハーレムがロッドの頭をゴツンと叩いた。
「あの~、喧嘩するんだったら君達出て行ってくれないかね」
「そうだな。表へ出ろ。ロッド」
「そっスね。俺もアンタとはサシで話がしたかったんですよ」
 ロッドとピアスはその場を後にした。フェリシアーノも他の人に挨拶するとかで、これもまた部屋を後にする。

 マジックの部屋には部屋の主とハーレムだけが残った。
「やぁ、ハーレム。なかなか人気者じゃないか。尤も、私の方が人気があるがね」
「言ってろよ、兄貴」
「ピアス少将との縁談は受けないんだね」
「俺よりもっと相応しいヤツがいるだろ。あいつには」
「そこまで頑なになるなんて――ははぁ、さては他に好きな人がいるね」
「さぁね」
 ハーレムは目をつぶる。
 マジックはいろいろ根掘り葉掘り聞き出そうとしたがハーレムは答えない。一筋縄じゃいかなくなったな、とマジックは言った。


2017.3.26

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