士官学校物語・夏
2
「サービス、やった、やったぞ」
 その日、期末試験の結果発表があった。ジャンの成績は中間の百番台から五十番台へと、驚異的な伸びを示した。
「良かったな、ジャン、おめでとう」
「おまえは十番以内だよな。……五番か。大した成績じゃないか」
「中間の成績よりは、落ちてしまったよ。この次はもっと頑張らなくちゃ」
 サービスはいそいそとプリントを仕舞う。
「ふうん。そんなもんかね」
 ジャンは頭の後ろで手を組む。
「まぁ、いいんでないの。そういうときもあるさ」
 ジャンは、サービスの肩の力を抜かせようと、ぽんぽんと気楽に叩いたが、サービスは浮かぬ顔をしていた。
 サービスは、焦っていたのだ。
 マジックもルーザーも、責めることはないであろう。「少し落ちたみたいだが、五番とは、よくやったな」と、ねぎらいの言葉のひとつもかけてもらえるかもしれない。
 しかし、それでは満足できないのだ。
 せめて、学校での成績はトップクラス――三番以内は常にキープしておきたかったのだ。そうでないと、兄達に負けてしまうような気がして。自分には彼らのように、際立った才能はないのだから、そのぐらいはしないと、自分で自分が許せない。
 サービスにとっては、兄たちの存在はプレッシャーだった。追いつけないのはわかってる。でも、それでも何とか追いつく努力だけはしたくて。
 それに、ジャンの存在もある。サービスにとって、ジャンは脅威だった。
 ジャンは実力をつけつつある。昨日よりも今日、今日よりも明日、そんな感じで。自分と肩を並べるようになるのも時間の問題だ。何故かそんな気が、サービスにはした。
 そうそうのんびりもしていられない。
「なぁ、どうしたんだよ、サービス」
 その一言で、サービスは我に帰った。
 目の前のジャン。彼なら、わかってくれるだろうか。自分のこの焦りを。
「…………」
「サービス?」
「ジャン、悪いけど、先に帰っててくれないかな」
「……ああ」
 云えなかった。
 ジャンが去った後、サービスは机の上に鞄を投げ出した。

士官学校物語・夏 第三話
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