士官学校物語・夏 その日、期末試験の結果発表があった。ジャンの成績は中間の百番台から五十番台へと、驚異的な伸びを示した。 「良かったな、ジャン、おめでとう」 「おまえは十番以内だよな。……五番か。大した成績じゃないか」 「中間の成績よりは、落ちてしまったよ。この次はもっと頑張らなくちゃ」 サービスはいそいそとプリントを仕舞う。 「ふうん。そんなもんかね」 ジャンは頭の後ろで手を組む。 「まぁ、いいんでないの。そういうときもあるさ」 ジャンは、サービスの肩の力を抜かせようと、ぽんぽんと気楽に叩いたが、サービスは浮かぬ顔をしていた。 サービスは、焦っていたのだ。 マジックもルーザーも、責めることはないであろう。「少し落ちたみたいだが、五番とは、よくやったな」と、ねぎらいの言葉のひとつもかけてもらえるかもしれない。 しかし、それでは満足できないのだ。 せめて、学校での成績はトップクラス――三番以内は常にキープしておきたかったのだ。そうでないと、兄達に負けてしまうような気がして。自分には彼らのように、際立った才能はないのだから、そのぐらいはしないと、自分で自分が許せない。 サービスにとっては、兄たちの存在はプレッシャーだった。追いつけないのはわかってる。でも、それでも何とか追いつく努力だけはしたくて。 それに、ジャンの存在もある。サービスにとって、ジャンは脅威だった。 ジャンは実力をつけつつある。昨日よりも今日、今日よりも明日、そんな感じで。自分と肩を並べるようになるのも時間の問題だ。何故かそんな気が、サービスにはした。 そうそうのんびりもしていられない。 「なぁ、どうしたんだよ、サービス」 その一言で、サービスは我に帰った。 目の前のジャン。彼なら、わかってくれるだろうか。自分のこの焦りを。 「…………」 「サービス?」 「ジャン、悪いけど、先に帰っててくれないかな」 「……ああ」 云えなかった。 ジャンが去った後、サービスは机の上に鞄を投げ出した。 士官学校物語・夏 第三話 BACK/HOME |