ナポリを見て死ね 皆が寝静まった頃、ハーレムはGを外に呼び出した。 「何か御用でしょうか」 「G。話がある」 ハーレムは真顔で言った。 「話、とは」 「俺は、俺の組織を作りたい」 「組織を――」 それは、マジックの意に反することを示している。Gはそう思った。 もちろん、Gは、ハーレムのやることには、全て賛成したい。 だが、マジック向こうに回して、果たしてハーレムが勝てるかどうか――Gは、自分の身ではなく、ハーレムの安否を気遣っていた。 「もちろん、兄貴の承諾は得るつもりだ」 Gの心中を察してか、ハーレムはつけ加えた。 「このままで、充分ではありませんか? あなたは既に隊長でしょうに」 Gは言った。 「兄貴の選んだ兵の長か。ふん」 ハーレムは鼻を鳴らした。 「俺は、少数精鋭の組織を作りたいんだ。仕事は戦闘中心。名前も既に決めてある」 「何でしょう」 Gの質問に、ハーレムの目がきらりと光る。 「ガンマ団特戦部隊」 「特戦……」 「おまえ、俺の右腕になってくれないか。それから、飛龍も手に入れたい」 「飛龍を」 「しかしまあ、あいつのことはこの際おいておく。――G。おまえ、俺について来るか?」 「――はい」 当然のことを訊く、とGは思った。 だが、改めて覚悟の程を試したのだろう。 ハーレムが士官学校を中退して、ガンマ団に入ってから、Gは、影になりひなたになりついてきた。 その時から、彼がGの主だった。 だから、どこまでも従って行くつもりなのは、ハーレムも知っていたはずだ。 ハーレムは、単なる上官ではなく、Gの命そのものだった。 「私は、あなたに忠誠を誓う所存です」 「そうか」 ハーレムは晴れ晴れとした顔になった。 「そう言う台詞は、普通なら胡散臭く思う俺だが、おまえの言葉なら、素直に聞けるな」 「嬉しいです」 Gの口元も、微かに緩んだ。 (ロッド……) ハーレムは横になった時、なにゆえか知らずが、あの少年を思い出した。 (面白いヤツだ) あの子が大人になった時、どんな立派な風使いになっているだろうと考えた。 あいつも戦力になってくれれば。 大きくなった時に。無理強いはしないが。 今はとりあえず、Gの協力を得て、満足なハーレムだった。Gとは長い付き合いだ。答えは予想していたにしても。 翌日、ガンマ団員は海に出かけた。 歩哨に選ばれた兵士は、自分の不幸を嘆いた。彼らだって、海で遊びたいのだ。 戦争中だと言うのに、随分余裕だが、ハーレムの率いる団員達は、やりたいことをやる、享楽的な主義なのだ。 それは、隊長の性格の反映であることは、言うまでもない。 しかも、ベルヒ軍は、ガンマ団を恐れている。 ハーレム達にとって、こんな楽な相手はなかった。 油断は禁物だが、好きなことができないなら、死んだ方がマシ。彼らは、伊達や酔狂で生きているのだった(あ、このフレーズ、前に聞いたことがあるな。気に入ってるから使わせてもらおう)。 「ロッド。あそこまで競争しないか?」 ギュスターヴが提案した。 「いいね」 「せっかくだから、なんか賭けよう」 「何を?」 「ロッド。俺が勝ったら、一晩、おまえを好きにしていいか?」 「じゃあ、オレが勝ったら、一日アンタを召使いにするよ」 「了解」 ギュスターヴはウィンクをした。 「飛龍」 ハーレムは、崖の上から遊んでいる者達を眺めている男に呼びかけた。 「どうした。おまえは見張りではなかろう」 「隊長。私が水を苦手としていることは知っているでしょう」 飛龍が笑った。 「ちょうどいい。言いたいことがある。貴様、俺の直属の部下にならんか?」 「今でも部下でしょう」 「それもそうだが。――俺が新しく作成する組織で、俺の力になってもらいたい」 ハーレムは煙草を取り出した。 「火を」 飛龍は、ポッと小さな炎を出し、ハーレムの煙草に火をつけた。 ハーレムは旨そうに煙を吐いた。 「ハーレム隊長……その組織はいつできるんですか?」 「そうさなぁ――早ければ早いほどいい」 「そうですか」 飛龍は何か考え事をしている風だった。 「どうした。飛龍」 「いえ――息子のことを考えていましたので」 「息子?」 「ええ。海龍のことです」 「ああ。そんなヤツがいると聞いたな。いくつぐらいだ」 「ロッド――そう。あの子と同じくらいです」 「そうか、まだまだ子供だな」 「いえ。すぐに大人になります」 飛龍の目が真剣な光を帯びた。 「あなたの組織に入れるなら、海龍を。あの子もかなりの力の使い手です」 「ほう。で、おまえはどうする?」 「しばらく海龍の代わりをいたします」 「そうか――そのあと、おまえはあの山寺を継ぐんだな」 「おっしゃる通りです」 「わかった。おまえの好きにしろ」 「ありがとうございます」 飛龍は、中国式の礼をした。 「いずれ、海龍にも会わせてくれ」 ハーレムが頼む――と言うより、命令だったが、飛龍は嬉しそうな顔をした。笑みを浮かべながら言った。 「はい。あの子は気難しいですが、あなたのことは気に入るでしょう」 ナポリを見て死ね 7 BACK/HOME |