THA SONG OF SATHAN ISLAND 5 ジャン達が戻ってきた頃、宴会場には既にジャンの知り合いが殆ど一同に会していた。 「途中でいなくなるとは、どう云うつもりじゃね。そろそろメインイベントじゃぞ」 と、これはカムイ。 アスは、少し意地の悪い表情で腕を組んで、突っ立っている。 「羨ましい限りだな、おい。こんな美人と」 ソネが酔っ払って絡んできた。 「運命の相手は?」 ジャンが訊くと、 「振られちまったよぉ。あの娘は……いや、あいつは赤い糸の相手じゃなかったんだよぉ!」 ソネは一声吠えて、おいおいとその場に泣き崩れた。 「ライ。アンタ、どうしてジャンといるんですかぁ?」 高松の声は、ほんの少し意外そうなものだった。ジャンは二人を見比べた。 「あれ? アンタら知り合い?」 「家が隣同士の幼馴染なんです」 「腐れ縁てやつだよ」 ライが、仕方なさそうに、渋い表情で答えた。 長老カムイの隣に、青の長が控えていた。 「こんばんは、ジャン。会うことができて嬉しいね」 青の長、マジックが挨拶した。 青の一族の若きリーダーには、如才ない態度が板についていた。 「しばらくです。青の長」 ジャンが一揖した。 先ほどアスに腕相撲の勝負をしつこくせがんでいた少年が、こちらを睨んでいる。 「兄さん」 ライがマジックのことをそう呼んだ。 「おお、ライ。ジャンとは仲が良かったかな?」 「昔はね。けれど、数年ぶりに会ったら、ジャンは、僕のことすぐには思い出せなかったみたいだ」 「違うって……それはね……」 ジャンが弁解しようとした時だ。 「おい、ボケ番人」 「ぼ、ボケ?!」 「ストーム、やめないか!」 少年の言葉にジャンはびっくりし、ライは声の主を叱った。 「そうだろうがよ。ライのこと、忘れてたんだろ? 貴様、それでも番人か? 大方長生きしているうちにボケたんだろうよ」 「失敬な! そりゃ、確かに俺は物覚えが悪いけど……」 「ああ? なんだって? もう少し大きな声で言ってみな」 ストームは近づいてわざとらしく耳をそばだてた。 「確かに俺は物覚えが悪いけど!!」 ジャンは相手の耳元で思いっきり怒鳴ってやった。ストームは目を回して倒れた。 「ストーム様がやられた――」 「超音波でやっつけたぞ」 その場にいたストームの子分が、ひそひそ声で言う。 「おい。今日からアンタが俺達のボスになってくれ」 「え?」 思いもよらない展開に、ジャンは戸惑った。 「そうだそうだ。ボスはアンタだ」 「新しいボスばんざーい!」 「おまえらぁ~……」 ストームの、地獄の底から這い出たような声と、怒気のオーラに気圧されて、子分達は震え出した。 「あ、あは、あは……嘘です嘘です」 「全く……」 ライは、溜め息を吐いた。 「ストーム。その辺にしておきな。子分は大切にするものだ」 弟に諭されて、ストームは微かに舌打ちをした。 「わかったよ」 「ありがとうございます。ライ様」 「いいってことさ。今日は、せっかくのめでたい日なんだから」 高松がジャンの腕を引く。 「ほんと、ストームは弟に頭が上がりませんね。ライの一声で大人しく引き下がりましたよ」 もちろん小声で、高松が囁いた。 「はぁい。皆さん、お・ま・た・せ」 色気を振り撒きながらやって来る鯛魚人と共に、水槽に入ったイリエが連れて来られた。 「イリエ?! 待ってるんじゃなかったのか?!」 ジャンの驚きの声に、イリエは、 「この話の製作者のたっての希望さ。どうしてもここに全員集めたいらしい」 「全員て……ルーザー様はいないじゃありませんか」 「ルーザーは家で横になっている。まだ体調がすぐれないのだろう」 高松の不満そうな問いに、マジックが答えた。 「高松。ルーザー兄さんだって、祭りには来たかっただろうさ。でも仕方ないだろう?」 ライが、慰めとたしなめの混じった台詞を言う。 「ええ。だから私は、ルーザー様の為に、たくさんお土産を買ってきました」 「ふふふ。おまえはルーザーの傍にいたかったのに、言い負かされて、結局ここに来ることになったんだよな」 ストームが揶揄するように言う。だが、その声音にはどこか、親しげな優しさが含まれていた。 (類は友を呼ぶ) ジャンはこっそりそんなことを考えた。口にしたら、二人から肉体的にも精神的にも、大きな損害を受けることになるだろうから言わない。 遠くにアスの姿も見つけた。足を組みかえながら壁に寄りかかり、飲み物を吸っている。 「さぁ、始まるぞ。あやつも既にトンガリ山に登った頃じゃろうて」 カムイが言った。あやつとは、ヨッパライダーのことである。彼の火山花火で、パプワ島は新年を迎えるのだ。 「秒読み開始……120……119……」 7・6・5・4・3・2・1 パーンパパパーン ポンポンポーン A HAPPY NEW YEAR! パプワ島歴543年が、今始まったのだ。 6 BACK/HOME |