THA SONG OF SATHAN ISLAND

ACT:2 祭りの夜
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「お帰りーっ」
 ジャン達が戻ってきた頃、宴会場には既にジャンの知り合いが殆ど一同に会していた。
「途中でいなくなるとは、どう云うつもりじゃね。そろそろメインイベントじゃぞ」
と、これはカムイ。
 アスは、少し意地の悪い表情で腕を組んで、突っ立っている。
「羨ましい限りだな、おい。こんな美人と」
 ソネが酔っ払って絡んできた。
「運命の相手は?」
 ジャンが訊くと、
「振られちまったよぉ。あの娘は……いや、あいつは赤い糸の相手じゃなかったんだよぉ!」
ソネは一声吠えて、おいおいとその場に泣き崩れた。
「ライ。アンタ、どうしてジャンといるんですかぁ?」
 高松の声は、ほんの少し意外そうなものだった。ジャンは二人を見比べた。
「あれ? アンタら知り合い?」
「家が隣同士の幼馴染なんです」
「腐れ縁てやつだよ」
 ライが、仕方なさそうに、渋い表情で答えた。
 長老カムイの隣に、青の長が控えていた。
「こんばんは、ジャン。会うことができて嬉しいね」
 青の長、マジックが挨拶した。
 青の一族の若きリーダーには、如才ない態度が板についていた。
「しばらくです。青の長」
 ジャンが一揖した。
 先ほどアスに腕相撲の勝負をしつこくせがんでいた少年が、こちらを睨んでいる。
「兄さん」
 ライがマジックのことをそう呼んだ。
「おお、ライ。ジャンとは仲が良かったかな?」
「昔はね。けれど、数年ぶりに会ったら、ジャンは、僕のことすぐには思い出せなかったみたいだ」
「違うって……それはね……」
 ジャンが弁解しようとした時だ。
「おい、ボケ番人」
「ぼ、ボケ?!」
「ストーム、やめないか!」
 少年の言葉にジャンはびっくりし、ライは声の主を叱った。
「そうだろうがよ。ライのこと、忘れてたんだろ? 貴様、それでも番人か? 大方長生きしているうちにボケたんだろうよ」
「失敬な! そりゃ、確かに俺は物覚えが悪いけど……
「ああ? なんだって? もう少し大きな声で言ってみな」
 ストームは近づいてわざとらしく耳をそばだてた。
「確かに俺は物覚えが悪いけど!!」
 ジャンは相手の耳元で思いっきり怒鳴ってやった。ストームは目を回して倒れた。
「ストーム様がやられた――」
「超音波でやっつけたぞ」
 その場にいたストームの子分が、ひそひそ声で言う。
「おい。今日からアンタが俺達のボスになってくれ」
「え?」
 思いもよらない展開に、ジャンは戸惑った。
「そうだそうだ。ボスはアンタだ」
「新しいボスばんざーい!」
「おまえらぁ~……」
 ストームの、地獄の底から這い出たような声と、怒気のオーラに気圧されて、子分達は震え出した。
「あ、あは、あは……嘘です嘘です」
「全く……」
 ライは、溜め息を吐いた。
「ストーム。その辺にしておきな。子分は大切にするものだ」
 弟に諭されて、ストームは微かに舌打ちをした。
「わかったよ」
「ありがとうございます。ライ様」
「いいってことさ。今日は、せっかくのめでたい日なんだから」
 高松がジャンの腕を引く。
「ほんと、ストームは弟に頭が上がりませんね。ライの一声で大人しく引き下がりましたよ」
 もちろん小声で、高松が囁いた。
「はぁい。皆さん、お・ま・た・せ」
 色気を振り撒きながらやって来る鯛魚人と共に、水槽に入ったイリエが連れて来られた。
「イリエ?! 待ってるんじゃなかったのか?!」
 ジャンの驚きの声に、イリエは、
「この話の製作者のたっての希望さ。どうしてもここに全員集めたいらしい」
「全員て……ルーザー様はいないじゃありませんか」
「ルーザーは家で横になっている。まだ体調がすぐれないのだろう」
 高松の不満そうな問いに、マジックが答えた。
「高松。ルーザー兄さんだって、祭りには来たかっただろうさ。でも仕方ないだろう?」
 ライが、慰めとたしなめの混じった台詞を言う。
「ええ。だから私は、ルーザー様の為に、たくさんお土産を買ってきました」
「ふふふ。おまえはルーザーの傍にいたかったのに、言い負かされて、結局ここに来ることになったんだよな」
 ストームが揶揄するように言う。だが、その声音にはどこか、親しげな優しさが含まれていた。
(類は友を呼ぶ)
 ジャンはこっそりそんなことを考えた。口にしたら、二人から肉体的にも精神的にも、大きな損害を受けることになるだろうから言わない。
 遠くにアスの姿も見つけた。足を組みかえながら壁に寄りかかり、飲み物を吸っている。
「さぁ、始まるぞ。あやつも既にトンガリ山に登った頃じゃろうて」
 カムイが言った。あやつとは、ヨッパライダーのことである。彼の火山花火で、パプワ島は新年を迎えるのだ。
「秒読み開始……120……119……」
 7・6・5・4・3・2・1

 パーンパパパーン ポンポンポーン

 A HAPPY NEW YEAR!

 パプワ島歴543年が、今始まったのだ。

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