THA SONG OF SATHAN ISLAND

ACT:2 祭りの夜
6
「おめでとう!」
 軽快にグラスのぶつかり合う音が響く。
 またしても陽気な音楽が流れる。人の輪が踊り始めた。今度はフォークダンスのように、皆が踊れるものである。
 河童の吟遊詩人、キムラがしゃしゃり出てきて、ブーイングと歓迎の拍手をかっさらっていた。
「ライ、ちょっといいかな」
 ジャンがとんとんと相手の肩を叩く。 
 二人は、人の流れに逆らって抜けてきた。
「何だい? いったい。何か用事でもあるのかい?」
 ライが上目遣いで訊く。ライはまだ、ジャンより背丈がない為、自然に見上げる格好となる。
 ジャンは、どうしてこんな行動に出たのか、自分で理解しがたかった。ただ、わかっているのは、これが自分にとって大切なことだと云うこと。
「新年……おめでとう。今年もいい年だといいね」
「それだけ?」
 ライは拍子抜けしたように答えた。
「大事なことだと言うからてっきり……」
「それだけじゃないんだ。ええと……昔のことは水に流して、改めて、俺の友達になってくれないか?」
 かなりどきどきして、ジャンは相手の返答を待つ。
「うん。いいよ」
 ライが頷いて笑った。屈託のない笑顔である。
 ジャンは、頭の中で、昔の、少年時代のとば口に立っていた頃のライを重ね合わせた。
「あのときは……僕の方が大人げなかった。まぁ、子供だから、大人げないのは仕方ないと思って欲しいけど。それより、さっきからガチガチだぞ。こんなおまえは見たことなかったがな。いつもは友達の前で、そんなに気張ったりしないだろ?」
 ライが拳で二、三度軽く、ジャンの胸を突つく。気分がほぐれて、ジャンも口角を上げた。
「ああ」
「僕は、踊りたいから、そろそろ戻ろうか。あ、でも、あの河童がいるんだよな」
「え? おまえ、キムラのこと嫌いだったっけ?」
「悪趣味だよ」
「じゃあ、俺が止めさせてこよう」
 ジャンはキムラと交渉し、明日ジャンが、相手のメドレーを一人で聴くことで手を打ってもらった。
 それにしても、ライは、結構素直で好奇心が旺盛な普通の少年に育っていたようだ。
 幸先がいいぞ、とジャンは思った。年も変わったことだし、これからは何かいいことが起こるはずだ。
 ジャンは、年が変われば、運も変わるだろうと云う、極めて単純な考えを持った男である。
 今までだって、不幸だと思ったことはなかったが、これからますます幸せになっていけるだろう。

 大理石の椅子に座ったジャンは、大きく伸びをした後、ごしごしと目を擦った。窓際に立っているアスも、流石に眠そうである。
 彼らは、夜っぴて騒いだ後、明け方――つまり、つい今しがた白亜宮に帰って来たのだ。別々にだが。
「楽しかったか?」
「ああ」
 眠気まじりのジャンは欠伸をしながら答えた。
 そう、楽しかった――と云うより、昨日、ライに会って、嬉しくて、愉快で――なんだか昂揚した気分が心の中をぐるぐる回っている。祭りの熱気がまだ体の中にあるのに、そのときに起こったことはほとんど忘れてしまった。
 窓から差し込む朝日が綺麗だ。鐘は、もうとっくに鳴り終わっている。
(ライがちびだった頃――)
 ジャンが回想に耽る。
(俺が青のエリアに行ったとき、あいつは背を向けて駆け出して行ったなぁ……その時は、こんなに長い間離れ離れになるとは、思ってもみなかったよ)
 ライのことが気になることもあったけど、今まで忙しくて、それどころではなかった。
(マジックと同じパターンだな)
 マジックが子供だった頃、出会って別れて、再び己の前に現れた時は、青の長として、堂々たる立派な青年になっていた。
(まぁいい)
 昨日まで、ライのことなど、追憶の中にしかなかったくせに、今は、彼のことをより多く考えていたい。
(こんなことを言ったら、あいつは嗤うだろうか)
 だけど、キムラのライブのことを考えたら、眠って体力をつけておいた方がいいかもしれない。――あれの歌は嫌いじゃないけど、ついて行けないとこもあるからな。
 アスにお休みを言い、ジャンは自室に引き下がった。

後書き
高校時代に書いた『THA SONG OF SATHAN ISLAND』をベースにした話は、これで一応終わりです。
変えたところもありましたね。サービスをライに。ハーレムをストームに。
「ライ」って書かなきゃいけないところを、「サービス」って書いたりしましたね(笑)
後、マジックとルーザーはそのままです。
ウミギシくんはいないけど、キムラは登場させたと云う……全員登場じゃないじゃん!と自分にツッコんでみる。
それから、後から足したエピソードもあります。ジャンがストームに怒鳴るところとか、ルーザーのこととか。
また、このシリーズ書くかもしれません。そしたら、新作ですね。

BACK/HOME