THA SONG OF SATHAN ISLAND 2 楽団が、いろいろな楽器を奏で、それに合わせてみんなが踊っている。友人や恋人達が、リズムに合わせて、足音を鳴らしている。 仮設ステージでずっこける人、怪しげな見世物(例:鯛魚人のストリップ)、様々なアトラクション。 まさに無礼講であった。 「おい、あれ」 ソネが指差した。アスがいる。金色の硬い髪を無造作に振り分けた、負けん気の強そうな少年が、アスにまとわりついている。 「ちっくしょう。もう一回だ。もう一回」 「だめだめ。何度やってもおまえの負けだ」 アスは陽気に笑いながら、こちらに近づいてくる。 「やぁ。ひどいじゃないか。誘っておきながら、来ないなんて」 アスは上機嫌な様子である。 「すまん。ちょっとそんな気分になれなかったんでね」 ジャンは頭を掻いた。 「俺がムリヤリ引っ張って来たんだぜ」 とソネ。 「気分?」 アスは、じろりとジャンを睨んだ。 「おまえ、気分でころころ予定を変える気か」 「悪かった、悪かった」 「おい貴様。悪いが勝負はお預けだ。俺はこいつに話がある」 アスがそう言うと、少年は不服そうに帰って行った。 「ガキどもは遊び相手にならないんじゃなかったのか?」 ジャンがからかいの混じった口調で言った。 「イキのいいのが一匹いたんでね。おかげで楽しめたよ」 「さっきの子かい? 名前は何と言うんだ?」 「知らん。訊いてないからな」 「相変わらずだなぁ」 ジャンが呆れた声を出す。そして訊いた。 「何やってたんだい?」 「腕相撲大会。商品がっぽりせしめてきたぞ」 「悪い奴だなぁ。おまえが出たら優勝するのは当たり前だろ」 アスは見かけによらず強い。秘石の番人なのだから、それも当然であるが。 「ところが、さっきの奴は、何度勝負がついてもまた挑みに来る。目が本気だったぞ。驚いたよ。今時ああいう目をした奴は貴重だ」 「嬉しいのか?」 「何が?」 「あんまり楽しそうなもんだからさ。気に行ったのかい?」 「さあな。羨ましいのかもしれん」 アスは、他人事のように言いながら、ふっと寂しそうな目をした。 「俺には何かに真剣になるなんてことはないからな」 それは、ジャンにも云えた。 何かに本気になる、と云うのが、いまいちぴんと来ない。だが、使命を与えられている身分の彼には、そちらの方が都合がいい訳で、むしろ何かに気を取られて、役目を疎かにする方が問題だった。 彼の思考は別な方向に走る。 さっきの少年、この間見かけた少年にどこか似ていなくはなかったか。 どちらも金髪碧眼。青の一族に見られる顕著な性質である。二人とも青側の人間であることは間違いない。 別人だ。だが似ている。ジャンの意識はせんだっての少年の面影を求めてふらふらと彷徨っている。 「おい、ジャン、ジャン」 ソネの手を叩く音で、ようやく気がついた。 「今度はぼうっとしてなんなんだよ、一体。アス。こいつ宴会場まで連れてってくれよ」 「俺は貴様とは確か初対面のはずだ。だのに、なんで呼び捨てで呼ばれなければならんのだ」 「有名なんだからいいだろう。敬称略で。あ、俺ちょっと行ってくるわ」 「ちょっと待て。どこ行くんだよ」 ジャンが呼び止めようとした。 ワルツの音楽は、軽快なジルバに変わっていた。楽団の気紛れで、しっとりとした感じになったり、いかにもお祭り騒ぎと云う演奏に、水の流れのように変わったりする。 「運命の赤い糸の相手が俺を呼んでるんだ。イヤッホーッ!」 ソネは踊りの輪の中に消えて行った。 やれやれ、とジャンは苦笑した。 (あいつ、またあの中の誰かに一目惚れしたな) 「あいつ、ダンスするのか? あの足で」 アスは目を丸くして言った。 「あの足が有利に働くのは、せいぜいキックボクシングのときぐらいじゃないのか?」 「うん。俺もそう思う」 ジャンは笑いながら答えた。 祭りの雰囲気に影響されたのか、ジャンはもうすっかり元気になっていた。ソネの作戦は見事に功を奏したようだ。 3 BACK/HOME |