THA SONG OF SATHAN ISLAND

ACT:2 祭りの夜

「どうした? ジャン」
 酒をぐびりとあおぎながら、ソネが訊いてきた。
「いや……」
 ジャンはうかない顔で答えた。杯に注がれた酒の表面に、ジャンの顔が映り、時折ゆらゆらと揺れた。
 ここのところ、ずっと、調子が狂っていた。あの少年を見た時からだとは、考えもしなかったが――。
「ソネ。ジャンにだって具合の悪いことぐらいあるよ」
 岸辺にいるソネの仲間、オットセイ男のイリエが言った。クセのある長い髪と、強靭な尾鰭を持っている。
 今、彼らは広場からさほど遠く離れていない、小さな湖の側に陣取っていた。祭囃子の太鼓の音が、こちらにまで届いてくる。
「なにシケた面してんだよ!」
 ソネにどんと背中をどつかれたおかげで、酒が気管に入り、ジャンがげほげほとむせ返る。生憎と火のような強い酒であった。腹の中がかっと燃えた。
「人生は祭りだ。楽しまなきゃソンソン」
「それは、おまえにとってはそうだろうが……」
 イリエが口を挟む。
「ん? なんだ? おまえは気に入らないか? こういうお祭り騒ぎは」
 ようやく落ち着いてきたジャンがイリエに向き直る。
「騒々しいのは嫌いだ。俺はデリケートだからな」
と、イリエは答えた。
「なぁ、おいおい。こんな所でかたまってても仕方ねぇだろ。広場へ行こうぜ。広場へ」
 口火を切ったのはソネだった。
「行っててくれ。俺はここで待ってる」
 イリエが言った。
「俺も……」
「おまえは来るんだよ!」
 ソネはジャンの首根っこをむんずと掴み、今にも引き摺っていきそうな格好になる。
「おまえさ、ここ数日、とーっても暗いんだよ。おまえが元気ねぇと俺達まで不機嫌な顔になっちまうんだよ。おまえがほんとは暗いのは知ってる。落ち込むのは勝手だが、おまえを元気づけようといろいろ考えている俺の努力まで無にする気か!」
 ソネはジャンの首根っこを放した。ほっとしたジャンが体勢を整える。すると、ソネがジャンの肩口に手をかけ、がっと大木に押し付けて詰め寄った。ジャンはたじたじとなったが、心の中にいるもうひとりの自分の方は、存外冷静であった。
(こいつ、少し酔ってるな)
 だが、彼は彼なりに心配してくれるのがわかって、ジャンは嬉しかった。
「行くよ。行く行く。だから、その手を放せ、な?」

2
BACK/HOME