THA SONG OF SATHAN ISLAND

ACT:1 JAN
4
 神殿に続く森の小道――。
 さっきの東の森とは違い、さほど深い森ではない。緑の葉や木の株が光を受け、柔らかいパステル画のようだ。
 ジャンは、大きくのびをして、乾いた木の匂いを吸い込んだ。
 大きくしなった木の枝の上に、アスは寝転んでいた。時折草笛を出して吹く。草笛の音色は風に乗って森を満たした。
 ジャンがそこを通り過ぎようとしたときだった。
「ジャン」
 こうもりのように足を木の枝に引っ掛けてぶら下がる。長い髪がジャンの鼻先に垂れた。柑橘類を思わせる爽やかな匂いがぱっとたった。
 ジャンは驚いて二、三歩後ずさる。
「脅かすなよ」
「朝っぱらから仕事か?」
「そうだよ」
「大変だな」
 アスは身を起こすと、木の枝から飛び降りた。
「おまえは?」
 ジャンが訊いた。
「退屈だよ。暇を持て余しているんだ。誰かさんが遊んでくれないからな」
「退屈なら、島の広場へ行けば?」
 広場は神殿からさほど遠くない位置にある。昼間は何人かの若者が集まって屯しているのだ。
「ふん。あんなガキども、遊び相手にもなりゃしない」
 アスは鼻を鳴らした。
「ジャン。俺も少し、貴様の仕事手伝ってやろうか?」
「いや、いい」
 ジャンは素早く手を振りながら答えた。
「おまえに手伝わせた日にゃ、何もかもメチャクチャにされるのがオチだからな」
「薄情だな」
 アスは不機嫌に言い捨てた。光の反射でか、瞳がちかりと輝いた。
「そうか? 俺にはおまえの方が薄情に思えるが」
「それは認める。だけど、貴様も冷たいぞ。自分じゃ気付いてないかもしれんがな」
「そんなこと……」
 ジャンが台詞を最後まで言うか言わないうちに、アスは脇を通り抜けて、木々の向こうに姿をくらましてしまった。
「ったく。言いたい放題言ってっからに。怒ったのかな、アスの奴」
 ジャンはくしゃりと髪を掻き上げた。

5
BACK/HOME