THA SONG OF SATHAN ISLAND

ACT:1 JAN
5
「オーライ、オーライ」
 指示に従って広場に荷物が運び込まれる。
 パプワ島では年一回、島をあげての祭りが行われる。この時期、島ではどこもかしこも、このカーニバルの話題でもちきりになる。パプワ島では、祭りや行事は珍しくはないのであるが。この祭りは、新年会と忘年会を兼ねている。
 特に広場は賑やかになる。ここが中心なのだから。祭典では様々な屋台が立ち並び、宴会が催され、飲めや歌えの大騒ぎになる。
 その祭りまで、後一週間である。
 前夜祭としての祭りが、ちょうど三日ぐらい前から始まる。今はその準備なのだ。仮眠室も急いで設置される。ここで夜を明かそうという者が大勢いるからだ。
「準備は順調に進んでいるか? ジャン」
 カムイが陣中見舞いにやってきた。
「はい、順調です」
「おい、ジャン。来てやったぞ」
 聞き覚えのある声が言った。アスである。
「よぉ。アス。よく来たな」
「ふん、島中こう慌ただしくては、俺もじっとしているわけにはいくまい」
 アスは会場を指差した。
「見ろよ。普段はなんのかんの理由をつけて怠けたがる奴らが、今日は率先して働いてる。見ろよ。あの生き生きした顔。どれ、俺もちょっと応援に行ってくるかな」
 そう言うと、アスは物陰から仮設ステージに登場した。
「あっ、アスじゃん」
「あ、ほんとだ」
「おーい、アスーッ!」
「こっち向いてーっ!」
 アスはステージの上から皆に手を振る。
「やれやれ、大変な人気じゃのう」
 彼の奔放さと容姿とを考え合わせれば、それも当然であった。特に、若い者や女性には、人気が高い。一部にはジャンよりうけがよいほどだ。
「まぁ、なんだかんだ言っても、優しいですからね。彼は」
 ジャンが言った。
「お。お主がアスを褒めるのは、滅多にないことじゃのう。どうしてそれを本人に言ってやらん」
「言うとつけ上がりますからね。あいつは」
 そのとき、アスが戻ってきた。
「何話しているんですか? 二人とも」
「いや、何でもない。何でも」
「いやぁ、すごい騒がれようじゃのう。びっくりしたぞ」
「俺はたまにしか姿を見せませんからね」
 アスもカムイに対しては、いつものぞんざいな口調では話さない。
「アス、今年の祭りには、おまえも出るだろう?」
 ジャンが訊いた。
「もちろん、そのつもりだ。ここんとこご無沙汰だったものな」
「おーい、ジャーン。これどこに置けばいい?」
 誰かの呼ばわる声が聞こえる。
「じゃ、行ってきます」
 ジャンは、アスとカムイを残して、すたすたと声のした方へ向かった。

 ジャンが荷物を運んでいる最中のことである。
「ん?」
 どこかから、自分を見つめる視線を感じた。辺りを見回しても、みんな自分の仕事をやっているだけで、少なくともジャンのことを気にしている者はいない。
「気のせいかな」
 ジャンはダンボール箱を置くと、会場の隅っこに目を移した。
 少年が立っていた。
 後ろで束ねた柔らかい金色の長い髪、布の服から突き出している細いが肉付きの良い腕。遠目にもなかなかの美形とわかる。近くで見たらさぞかし――。
「なにぼーっとしてるんだ!!」
「はいはーい! 今やります!!」
 負けじと大声で叫び返し、再びさっきの少年に目を遣ると、少年の姿は跡形もなく消えていた。
 ただ、椰子の葉が風に吹かれて揺れているだけ――。

後書き
これも高校のときに書いた、南の島の歌シリーズの一部です。
ACT:2まで書きましたが、途中で挫折してしまいました(汗)。
でも、ACT:2まで続けて書けたことに、当時の私の根性を見ます。
ACT:1は、何度も書いてきたシーンがあるので、「またこれか……」と云う気持ちがなかったとは言えませんが。
少し修正を加えたつもりです。文章の言い回しの中などにも。
THA SONG OF SATHAN ISLAND』は、訳すとそのまんま『南の島の歌』です。多分そうです。

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