THA SONG OF SATHAN ISLAND

ACT:1 JAN
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 太古の昔、地上の人類がまだ原始生活を営んでいた頃、パプワ島はひとつの大きな島だった。それは伝説の聖石と呼ばれた赤と青の秘石の賜物である。
 秘石は不思議な力で島に資源を供給した。水、風、光、生命――。動物も植物も、二人が協力して創り上げたものだった。
 やがて、人間が生まれる。
 人間は物凄いスピードで繁栄し、たちまち文明を発展させていった。
 彼らは秘石を自分達の創造主と認め、神殿を兼ねた城を建てて、秘石を城の中央に祀った。
 二つの秘石は自分達が悪しき輩に狙われぬよう、それぞれ赤の秘石の番人と、青の秘石の番人とを生み出した。
 赤と青、どちらかひとつの石が無くなれば、島は崩壊してしまう。秘石の番人とはすなわち、島の番人であった。
 赤の番人に《JAN》、青の番人には《US》と名が付けられた。
 そして、使命と永遠に尽きない生命とを与えられた。
 肉体を持ったのは、ジャンの方が先であった。その後、アスも肉体を持つようになる。
 二人は、《白亜宮》と呼ばれるその城で、寝起きを共にしていた。
「ジャン」
 アスが相棒の名を呼んだ。
「外で何かあるのか?」
 アスは好奇心旺盛で、疑問に思ったことは訊かずにはおれない質であった。
「夕日さ」
「夕日? また夕日か」
 アスはバルコニーに出て、ジャンの隣に並んだ。
「完璧な美しさだろう」
 ジャンは、誇らしげに言った。
 島の様子が一望できる。家に向かう人々がまばらに散っている。風景が、見事に橙に染まっていた。日没を知らせる鐘の音が辺りに響いた。
「そうかもしれんな――」
 アスは、渋々といった調子で肯った。
「なっ?」
「時々ここに景色を眺めに来る奴がいるが、そいつらからも見物料を取らないとな」
 アスの冗談にひとしきり笑った後、しかし、ジャンは穏やかに答えた。
「アス、この城は皆のものだ」
「ああ」
 アスは頷いた。
「そうだな」
 それから、続いて彼は言った。
「もう食事の時間だぞ」
「ああ、先に食べててよ」
「さっさと戻って来いよ。でないと貴様の分まで食っちまうからな」
 アスは笑いながら踵を返した。
 性格は正反対でありながら、彼らの相性はそんなに悪くなかった。対で創られた存在だから当然である。
 ただし、意見の不一致の為の喧嘩はしょっちゅうあった。
 大方の予想通り、アスの方が頭が早く回り、口も達者で、ジャンはいつも言い負かされていた。腕力だったら多分ジャンの方が上だが、彼は滅多に相棒に手を上げることはなかった。
 どちらかというと、人々にはジャンの方が人気があった。
 やっと襟足を覆うくらいの真っ直ぐな黒髪。太陽の恵みを一身に受けた、灼けた肌。上向きの太い眉。いい男と称される、整った顔立ち。ジャンの容貌は、一途で寛大で誠実な性格を表わすものであったし、実際その通りでもある。目にはどこか、草食動物のような穏やかさがあった。
 対するアスは計算高く、何をやるにしてもすばしこく、抜け目がない。要領もいい。
 ジャンと較べるとアスは、他人に対して、冷淡で傲慢だった。他人は他人、自分は自分という、明確な哲学があった。
 長い銀色の髪、白い肌。均整のとれた体つきに端正な顔立ち。鋭い眼光のアスには、どこか近寄り難い雰囲気があった。
 しかし、この頃はまだ、心底まで冷たい男ではなかったアスに人々は、『お高くとまった奴』と評しながらも、歯切れ良く、自信たっぷりにものを言えるアスの強さに、心惹かれてもいた。
 いつの間にか日は沈んでしまい、夜空に星が煌く。
 二人は同じ時刻に眠った。今日もまた、平穏な日々だった。同じことが、長い間に何度も何度も繰り返されてきた。
 ジャンは幸福だった。全てが完璧なバランスのうちに成り立っていた。誰もが幸せを享受していた。

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