THA SONG OF SATHAN ISLAND 2 秘石は不思議な力で島に資源を供給した。水、風、光、生命――。動物も植物も、二人が協力して創り上げたものだった。 やがて、人間が生まれる。 人間は物凄いスピードで繁栄し、たちまち文明を発展させていった。 彼らは秘石を自分達の創造主と認め、神殿を兼ねた城を建てて、秘石を城の中央に祀った。 二つの秘石は自分達が悪しき輩に狙われぬよう、それぞれ赤の秘石の番人と、青の秘石の番人とを生み出した。 赤と青、どちらかひとつの石が無くなれば、島は崩壊してしまう。秘石の番人とはすなわち、島の番人であった。 赤の番人に《JAN》、青の番人には《US》と名が付けられた。 そして、使命と永遠に尽きない生命とを与えられた。 肉体を持ったのは、ジャンの方が先であった。その後、アスも肉体を持つようになる。 二人は、《白亜宮》と呼ばれるその城で、寝起きを共にしていた。 「ジャン」 アスが相棒の名を呼んだ。 「外で何かあるのか?」 アスは好奇心旺盛で、疑問に思ったことは訊かずにはおれない質であった。 「夕日さ」 「夕日? また夕日か」 アスはバルコニーに出て、ジャンの隣に並んだ。 「完璧な美しさだろう」 ジャンは、誇らしげに言った。 島の様子が一望できる。家に向かう人々がまばらに散っている。風景が、見事に橙に染まっていた。日没を知らせる鐘の音が辺りに響いた。 「そうかもしれんな――」 アスは、渋々といった調子で肯った。 「なっ?」 「時々ここに景色を眺めに来る奴がいるが、そいつらからも見物料を取らないとな」 アスの冗談にひとしきり笑った後、しかし、ジャンは穏やかに答えた。 「アス、この城は皆のものだ」 「ああ」 アスは頷いた。 「そうだな」 それから、続いて彼は言った。 「もう食事の時間だぞ」 「ああ、先に食べててよ」 「さっさと戻って来いよ。でないと貴様の分まで食っちまうからな」 アスは笑いながら踵を返した。 性格は正反対でありながら、彼らの相性はそんなに悪くなかった。対で創られた存在だから当然である。 ただし、意見の不一致の為の喧嘩はしょっちゅうあった。 大方の予想通り、アスの方が頭が早く回り、口も達者で、ジャンはいつも言い負かされていた。腕力だったら多分ジャンの方が上だが、彼は滅多に相棒に手を上げることはなかった。 どちらかというと、人々にはジャンの方が人気があった。 やっと襟足を覆うくらいの真っ直ぐな黒髪。太陽の恵みを一身に受けた、灼けた肌。上向きの太い眉。いい男と称される、整った顔立ち。ジャンの容貌は、一途で寛大で誠実な性格を表わすものであったし、実際その通りでもある。目にはどこか、草食動物のような穏やかさがあった。 対するアスは計算高く、何をやるにしてもすばしこく、抜け目がない。要領もいい。 ジャンと較べるとアスは、他人に対して、冷淡で傲慢だった。他人は他人、自分は自分という、明確な哲学があった。 長い銀色の髪、白い肌。均整のとれた体つきに端正な顔立ち。鋭い眼光のアスには、どこか近寄り難い雰囲気があった。 しかし、この頃はまだ、心底まで冷たい男ではなかったアスに人々は、『お高くとまった奴』と評しながらも、歯切れ良く、自信たっぷりにものを言えるアスの強さに、心惹かれてもいた。 いつの間にか日は沈んでしまい、夜空に星が煌く。 二人は同じ時刻に眠った。今日もまた、平穏な日々だった。同じことが、長い間に何度も何度も繰り返されてきた。 ジャンは幸福だった。全てが完璧なバランスのうちに成り立っていた。誰もが幸せを享受していた。 3 BACK/HOME |