THA SONG OF SATHAN ISLAND

ACT:1 JAN

 ざーん、ざーん……。
 波が穏やかに押し寄せる。夕暮れ時、空も海も薄紫に染まっている。
 海がきらきらと輝いていた。
 椰子の木が柱のように聳え立つ海岸で、ジャンは所在なげに歩いていた。時々、立ち止まって、潮の香りのする空気を吸い込みながら。足裏に、細かい砂の粒を感じる。それらは、太陽の照りつけている昼と違って、少しだけひんやりとして心地よい。陸から吹いてくる涼風も、ジャンの体を吹き過ぎて行く。
 波が岸を洗っている。この時刻、島の海はいつも静かだ。
 今まで自分のやってきたことが、不意に波にのまれてしまう感覚に、彼は慄いた。
 夢を見ているようだ。太古の昔からずっと――。
 遠い過去の幻影を目の前に映し出してみる。昔、ここではたくさんの子供達が笑い声をあげながらはしゃいでいた。今は、誰もいない。
 ジャンは、昼間は森に身を潜め、日没が近くなると、彼はもそもそと海岸に出て、夕陽を眺めたりなどしているのだ。彼の生活は、驚くほど単調なサイクルで動いている。森の匂いと海の匂い。ジャンはどちらも好きだった。
 もはやこの島に残っている人間は、最後のひとりだけとなった。自分は勘定に入れない。自分は人間ではないのだから。
 まだ、たった六歳の子供である。その子が成長するまで、ジャンはその子はおろか、島の者にも姿を見せてはいけないことになっている。今、島でジャンの存在を知っているのは、ほんの一握りの者だけだった。
 彼は、事態が動き出すのを待たなければならなかった。いつか故郷に帰る日の為に――。
 時折、ジャンは回想に耽る。士官学校時代やガンマ団での出来事。
 そして――。
 波の音が、彼らが空に浮かぶ島で暮らしていた頃のことを思い出させる。それらは、楽しかった、思い出すには辛過ぎるエピソードの数々である。しかし、今はただ懐かしく、愛おしい。
 彼を取り巻く環境がどんなに変わっても、語りかけるような海の鼓動だけは変わらない。何千年、何万年も前からずっと――。
 この波の音も、南の島の歌なのだ。

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