光と闇
6
『港で原因不明の大火』
 この件は、だいぶ報道でも大々的に取り上げらた。埠頭に船が誤って突っ込んできて、積み荷の中の何かが爆発したのだとか(あの時、リカード達の仲間の船が港に着いていたのだが、爆発と共に木っ端微塵になっていた)色々云われてきたが、真相は結局闇の中となった。

 「ねぇ、サービス。ハーレムを呼んできてくれるかい?」
 涼やかな声で云ったのは、ルーザーである。その声音は軽やかな響きを持ち、朝の光に溶け去る。
「うん、別にいいけど」
 首を傾げ、兄の顔を上目に見、「なんで?」という顔を、サービスはした。
「僕が呼んだんじゃ、絶対に来ないからね」
「お兄ちゃん、呼んでみたの?」
 ルーザーは困った様に弱々しく微笑み、情けなさそうに微かに頷いた。
「わかった」
 サービスは廊下へ出ると、身軽く階段を上って行った。
 二階の突き当たり、自分の部屋の隣が、ハーレムの部屋だった。
 ハーレムはよく予告もなしに人の部屋に入ってくるが、サービスはそんなことはせずに、入る前には必ずノックする。
「誰だ?」
 かん高い、子供の声が答える。
「僕だよ」
 サービスが返答する。間があいて、ハーレムが云った。
「――なんだ」
「ルーザー兄さんが呼んでるよ」
 がちゃりとドアが開いて、怪訝そうなハーレムが顔を出した。
「ルーザー兄貴が、俺に何の用があるんだ」
「え?……聞いてなかったけど」
「どうせまた下らねぇ用事に決まってるんだ。悪いけど俺は忙しいからな。――じゃあな」
 目の前でバタンと扉が閉められた。サービスは憤然として踵を返す。
 わがままだ。なんてわがままなヤツなんだ。
 あの一件以来、ハーレムは変わった。雰囲気が。立ち居振る舞いが。言動が。
 妙に肩肘張って粋がっていると思いきや、一切の毒気を抜かれた様にぽやっとしていたり。
 ひどいと思うのは、ルーザーに対する態度だ。ハーレムはもともとこの兄を好いてはいなかったようだが、事件の後から更にとりつく島がなくなった。最近サービスはなんだかルーザーが可哀想になってきていた。あんなに優しい兄なのに、どうしてハーレムは冷たく当たるんだろう。反抗期というやつなのだろうか。
「兄さん」
 サービスは次兄の部屋に戻ってきた。正確には部屋の一つと云うべきで、日当たりのいいサンルームである。
「ハーレムは?」
「どうせつまんない用だろうからって」
「そうか……」
 肩を落としている兄を見て、サービスはふと、申し訳なく思った。
「ごめんね。兄さん」
「いいんだ。ほんとに大した用事じゃなかったんだし。それに、おまえが謝ることはないんだよ」
 そうは云いながらも彼は、傍目にも気落ちしているように見えた。
「お兄ちゃん……心配いらないよ。ハーレムは、きっと反抗期なんだよ。きっと、そうだよ」
「ありがとう。優しいね。サービスは」
 観葉植物埋め尽くされたサンルームには、白いテーブルと椅子がある。彼はサービスをそこに通した。
「さあ、お茶にしようか」

光と闇 第七話
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