光と闇 『港で原因不明の大火』 この件は、だいぶ報道でも大々的に取り上げらた。埠頭に船が誤って突っ込んできて、積み荷の中の何かが爆発したのだとか(あの時、リカード達の仲間の船が港に着いていたのだが、爆発と共に木っ端微塵になっていた)色々云われてきたが、真相は結局闇の中となった。 「ねぇ、サービス。ハーレムを呼んできてくれるかい?」 涼やかな声で云ったのは、ルーザーである。その声音は軽やかな響きを持ち、朝の光に溶け去る。 「うん、別にいいけど」 首を傾げ、兄の顔を上目に見、「なんで?」という顔を、サービスはした。 「僕が呼んだんじゃ、絶対に来ないからね」 「お兄ちゃん、呼んでみたの?」 ルーザーは困った様に弱々しく微笑み、情けなさそうに微かに頷いた。 「わかった」 サービスは廊下へ出ると、身軽く階段を上って行った。 二階の突き当たり、自分の部屋の隣が、ハーレムの部屋だった。 ハーレムはよく予告もなしに人の部屋に入ってくるが、サービスはそんなことはせずに、入る前には必ずノックする。 「誰だ?」 かん高い、子供の声が答える。 「僕だよ」 サービスが返答する。間があいて、ハーレムが云った。 「――なんだ」 「ルーザー兄さんが呼んでるよ」 がちゃりとドアが開いて、怪訝そうなハーレムが顔を出した。 「ルーザー兄貴が、俺に何の用があるんだ」 「え?……聞いてなかったけど」 「どうせまた下らねぇ用事に決まってるんだ。悪いけど俺は忙しいからな。――じゃあな」 目の前でバタンと扉が閉められた。サービスは憤然として踵を返す。 わがままだ。なんてわがままなヤツなんだ。 あの一件以来、ハーレムは変わった。雰囲気が。立ち居振る舞いが。言動が。 妙に肩肘張って粋がっていると思いきや、一切の毒気を抜かれた様にぽやっとしていたり。 ひどいと思うのは、ルーザーに対する態度だ。ハーレムはもともとこの兄を好いてはいなかったようだが、事件の後から更にとりつく島がなくなった。最近サービスはなんだかルーザーが可哀想になってきていた。あんなに優しい兄なのに、どうしてハーレムは冷たく当たるんだろう。反抗期というやつなのだろうか。 「兄さん」 サービスは次兄の部屋に戻ってきた。正確には部屋の一つと云うべきで、日当たりのいいサンルームである。 「ハーレムは?」 「どうせつまんない用だろうからって」 「そうか……」 肩を落としている兄を見て、サービスはふと、申し訳なく思った。 「ごめんね。兄さん」 「いいんだ。ほんとに大した用事じゃなかったんだし。それに、おまえが謝ることはないんだよ」 そうは云いながらも彼は、傍目にも気落ちしているように見えた。 「お兄ちゃん……心配いらないよ。ハーレムは、きっと反抗期なんだよ。きっと、そうだよ」 「ありがとう。優しいね。サービスは」 観葉植物埋め尽くされたサンルームには、白いテーブルと椅子がある。彼はサービスをそこに通した。 「さあ、お茶にしようか」 光と闇 第七話 BACK/HOME |