光と闇
3
 一週間後――。
 ハーレムとサービスは、高級ホテル”スタッカート”の最上階のスイートルームにいた。
 兄二人は『用がある』と云って揃って出かけている。もちろん、すぐに帰ってくるつもりだった。
 弟達が自分のいない間よく留守番していたご褒美にと、マジックは海辺に遊びに連れて行ったのである。
 双子は、藍と緑の入り交じった海を眺めたり、キングサイズのベッドでくつろいだり、壁一面に広がる大画面のテレビでアニメを見たりしながら、暇をつぶしていた。
 ドアにノックの音がした。
 ハーレムがドアを開ける。
「……リカードさん!」
 ハーレムはぱっと顔を輝かせた。友達のリカードさんが、自分の退屈を慰めるために遊びに来てくれたのだ。
「中入んなよ。ね」
 ハーレムは男の手を引っ張り、部屋に招き入れようとする。
「ハーレム、誰か来たの?」
 奥からサービスの声がする。
「いや、お二人とも退屈でしょうから外にお連れしようと思いまして」
「聞いた?サービス。リカードさんが外へ連れてってくれるって?」
「外?」
 サービスが訝しげに訊いた。
「――外ってどこ?」
 サービスは玄関に来た。
「勝手にここを動いちゃいけないって、お兄ちゃんに云われただろ」
「心配いらないよ。リカードさんと一緒なんだから」
 サービスはちょっと迷って、リカードに近付いた。
「ね、リカードさん。悪いけど僕たち、お兄ちゃん達が帰ってくるのを待ってなくちゃ――……う……――……」
 強烈な甘い花の香り。
 それを吸い込んだ途端、二人の意識は遠くなり、体は麻痺したように重くなる。
「リ……リカードさん……」
 目の前が真っ暗になる直前、遠ざかる意識の下から、ハーレムは呟いた。
「ただいま。ハーレム、サービス」
 兄たちが部屋に帰ってきた。双子に渡そうとお土産を携えて。
「―――ハーレム?」
 玄関に残された甘い匂い。つけ放しのテレビ。床に散らばったままのトランプ。
 厭な予感に、マジックは胸をはまれた。
「サービス?」
 二人はいない。
 マジックは愕然とした。
「兄さん!」
 兄の様子が変なのを感じ取ったルーザーが、鋭い声を上げて兄の肩を揺さぶる。マジックは我に返った。
「――リカードを呼んでくる」
 すぐ下の階には、リカードと、その他数人のボディーガードが居るはずだ。マジックはリカードの部屋の前に行くと、力を込めて扉を叩き始めた。
 反応は、なかった。
 いくら待っても扉の開く様子はない。沈黙が、部屋の主の不在を知らせていた。
 マジックはこのときはじめて、深刻に眉を寄せた。
「――……いない……?」

光と闇 第四話
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