光と闇 一週間後――。 ハーレムとサービスは、高級ホテル”スタッカート”の最上階のスイートルームにいた。 兄二人は『用がある』と云って揃って出かけている。もちろん、すぐに帰ってくるつもりだった。 弟達が自分のいない間よく留守番していたご褒美にと、マジックは海辺に遊びに連れて行ったのである。 双子は、藍と緑の入り交じった海を眺めたり、キングサイズのベッドでくつろいだり、壁一面に広がる大画面のテレビでアニメを見たりしながら、暇をつぶしていた。 ドアにノックの音がした。 ハーレムがドアを開ける。 「……リカードさん!」 ハーレムはぱっと顔を輝かせた。友達のリカードさんが、自分の退屈を慰めるために遊びに来てくれたのだ。 「中入んなよ。ね」 ハーレムは男の手を引っ張り、部屋に招き入れようとする。 「ハーレム、誰か来たの?」 奥からサービスの声がする。 「いや、お二人とも退屈でしょうから外にお連れしようと思いまして」 「聞いた?サービス。リカードさんが外へ連れてってくれるって?」 「外?」 サービスが訝しげに訊いた。 「――外ってどこ?」 サービスは玄関に来た。 「勝手にここを動いちゃいけないって、お兄ちゃんに云われただろ」 「心配いらないよ。リカードさんと一緒なんだから」 サービスはちょっと迷って、リカードに近付いた。 「ね、リカードさん。悪いけど僕たち、お兄ちゃん達が帰ってくるのを待ってなくちゃ――……う……――……」 強烈な甘い花の香り。 それを吸い込んだ途端、二人の意識は遠くなり、体は麻痺したように重くなる。 「リ……リカードさん……」 目の前が真っ暗になる直前、遠ざかる意識の下から、ハーレムは呟いた。 「ただいま。ハーレム、サービス」 兄たちが部屋に帰ってきた。双子に渡そうとお土産を携えて。 「―――ハーレム?」 玄関に残された甘い匂い。つけ放しのテレビ。床に散らばったままのトランプ。 厭な予感に、マジックは胸をはまれた。 「サービス?」 二人はいない。 マジックは愕然とした。 「兄さん!」 兄の様子が変なのを感じ取ったルーザーが、鋭い声を上げて兄の肩を揺さぶる。マジックは我に返った。 「――リカードを呼んでくる」 すぐ下の階には、リカードと、その他数人のボディーガードが居るはずだ。マジックはリカードの部屋の前に行くと、力を込めて扉を叩き始めた。 反応は、なかった。 いくら待っても扉の開く様子はない。沈黙が、部屋の主の不在を知らせていた。 マジックはこのときはじめて、深刻に眉を寄せた。 「――……いない……?」 光と闇 第四話 BACK/HOME |