端書き(未完) ~南の島の歌シリーズ~
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 昔々のことだった――……いや、今は昔の物語とした方が、格好いいかもしれない。
 書き出しから迷ってんなよ、俺。まぁいいや。
 まだ、二つの秘石が揃っていて、島も、一つの大きな陸だった時のことだ。赤の一族、青の一族、両族は仲良く共存し、繁栄し、島に独特の文明を発展させていた頃――……。
《白亜宮》、そう呼ばれている城があった。文字通り、見事な白亜の城だった。
 長老や島の代表者が、この城にて政を行うのだ。
 広い庭園があった。庭園の周りは森で囲まれ、庭には世界中の四季の花を配した。
 コスモス、バラ、ユリ、ハイビスカス、グラジオラス、サルビア、ダリア、アヤメ、カキツバタ、アジサイ、パンジー、極楽鳥花、キンモクセイ、ハクモクセイ、スズラン、カーネーション、リンドウ、サクラ、カトレア、シンビジュウム、デンドロビウム、ベボニア、マリーゴールド、インパチェンス、ジャーマンアイリス、アマリリス、ノースポール、マーガレット、サイネリア、サンフラワー。
 それらが豪華絢爛に咲き乱れている。全体に調和を少しも乱していないというのは、これはひとえに庭師の功績だ。
 この庭園にないのは、人の体に害をなすものだけである。
 庭師は、俺の部下にして友人のソネという男である。本職は別にあるが、副職にそういった仕事も行っている。植物に関しては、割とうるさい男だ。
 彼の仕事の方法は変わっている――どころか、人間界の常識を外れているので、ここには書かない。
 芝草は綺麗に刈りそろえられ、そこかしこにあずまやや、黒いつる草のベンチ、中央付近に五重の受け皿を連ねた、見事な噴水がある。先端に塔のような物があり、そこから水が噴き出している。夜は淡いライトの光を受け、仄かな金色に輝く。それはまるで光の滝。
 裏には俺の菜園がある。ソネの力を借りないで、自分で作った菜園だ(助言はしてもらったが)。水捌けの良さも適度で、日当たりもいい。
 キュウリ、トウモロコシ、メロン、カボチャ――……作れる物は全部ここで作っている。
 イチゴ畑もある。少なくとも、野菜に関しては自給自足だ。
 さて、畑を作り、何がしかの作物を育てる際に、雑草の問題がある。俺の畑では、雑草は抜かない。いや、抜くことは抜くが、苗にとって有益な草は残しておく。
 植物の世界も共存共栄――そう教えてくれたのはソネである。
 最近はいちいち雑草を抜かなくても良くなった。と云うのは、もし、ある畑に、そこに植わっている野菜とあんまり相性の良くない草の種が紛れ込んできても、もう既にその野菜と相性のいい草がはびこっていて、なかなか根を下ろすことはできない。よしんば根を下ろしたとしても、すぐに栄養を吸い取られ、やがてひっそりと枯れていく。
 それでは、あんまり可哀想なので、そうなる前に、他の場所に移し変えてやる。
 おまえに罪はない。ただ、生えてきた場所が悪かったのだと。
 白亜宮の西の棟の一角は、俺達の住むエリアになっている。ベランダ(ベランダと云っても、一室ぐらいの広さはゆうにある)
 部屋数十二、居間、台所、食堂、寝室二、書斎、サンルーム。他は全部空き部屋である。
 ここに俺は、同居人と一緒に暮らしていた。同居人の名はアス。

端書き3
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