端書き(未完) ~南の島の歌シリーズ~
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 さて、と。何から始めればいいのかな。
 一言で云や、これは俺のある時期の日々を連ねた日記をまとめた物だ。
 手記? ……いやいや、そんなものではない。これは端書きだ。しかも、日記の分量からして、おっそろしく長い端書き。他愛もなく、とりとめのない物なのだ。
 俺のことをちょっと書こうか。俺は……まぁいいや。そのうちおいおい明らかになる。
 書き出しはこうしよう。
 昔、昔のことだった。……こう書くと、なんだか年寄りじみているように思われるだろうが、俺を指して年寄りだと云う人はまずいないだろう。
 だが、俺は、本当は年寄りなのだ。しかも、世間一般に年寄りと云われている人達より、もっとずっと年寄りなのだ。俺の本当の年齢を知ったら、皆仰天するであろう。尤も、俺自身、年齢を忘れているぐらいだ。
 この日記は誇張なし、掛け値なしに大昔の物だ。が、俺はそれより前から、ずっと生きているのである。
 俺にとって一日一日なんてものは、普通に生きてる人間の、自分が生きていたと云う意味のある一日一日ではなく、ただ単に過ぎ去っていく一日一日以上の何物でもない。(だから、本当は時間の単位も、俺には何の意味もなさない)過ぎた日の思い出を繋ぎ止めておく為に、日記をしたためるなど、無意味だった。俺はこれまで、日記をつけたことなどなかった。
 だが、この一時期だけは別だ。俺が日記をつけていた時期なんて、この俺にも日記に書けることがあった時期なんて、後にも先にもこれっきりだろう。(現在より後の方はどうだか知らんが)
 変化があった。愛すべき人達がいた。俺の永い永い人生の中で、一番起伏に富んでいたろう。
 その間ずっと、幸せだった訳じゃあ、ない。密かに何かに怯えたこともあったし、ところどころ、おかしな箇所があるかもしれない。
 これを書くにあたっては、色々な本を参考にした。何しろ時間だけはめいっぱいあるので、本はたくさん読めるのだ。
 もう忘れてしまった出来事や、誰かの心情を理解する為に、多少のフィクションをこの中に交えた。
 ここまで、まるで他人に話すかのように書いてきたが、実はどこに出すというアテがある訳でもない。いつか、誰かの目に留まることもあるだろう……とも思うのだが、そんなに期待していない。ただ、不意にふっと、書き留めておいてみたくなった。
 さっき云ったことと矛盾しているようだが、満更意味のないこととは思えない。確かに、俺にもこんな時代があったのだと云うことの……証明みたいなものだ。
 それに……ここん所、夢中になれることも少なくなったので、暇潰しの代わりでもある。
 珊瑚礁の海に囲まれた、楽園のような南の島の話。タイトルは既に決まっている――『南の島の歌』

 故郷の海に
 この話の登場人物に
 そして俺に
 愛を込めて

      ジャン


端書き2
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