ハロウィン! 前編

 十月三十一日。パプワ島も今日はハロウィン!
 ちなみに、この風習は今は赤の番人となった、アメリカ人リキッドが持ち込んだものである。
 今はもう、既に日が暮れ始めていた。
「見て見てー。サナ子は妖精だよー」
「わしは狼男じゃ。がおー」
「二人とも可愛いどすよ~」
 親バカたっぷりの表情で、アラシヤマがやにさがる。
「アラシヤマー。わしはどうじゃ」
 アラシヤマの妻、ウマ子がアラシヤマに訊く。
「おお。ウマ子はん。よく似合っておりますぇ。その熊男の衣装」
「姫のつもりなんじゃがなぁ」
「どっからどう見ても熊男どす」
 アラシヤマがきっぱり言った。
「アラシヤマも仮装せぇ」
「もう着てるどす」
「わー、お父様綺麗。その格好なぁに?」
 サナ子がつぶらな瞳で尋ねる。
「花魁どす」
「アラシヤマは美人じゃけん。似合っとるよ」
「おおきに。ウマ子はん」
 美女と野獣ならぬ、美形と野獣カップルである。
「じゃ、わし達は菓子もらいに行くけん」
「そうだね。行こ、ウズマサ」
「行ってらっしゃい」
 子供達は家を出た。
「二人っきりどすな」
「そうじゃな」
 ウマ子がアラシヤマにキスをした。
「口紅、取れるさかい……」
 口付けの後、アラシヤマが照れたように言った。

 パプワハウス――。
「トリック・オア・トリート!」
「やぁ、ウズマサ、サナ子ちゃん。いらっしゃい」
 某アヒルの扮装をしたリキッドが出迎える。
「そろそろ来る頃だと思ってたよ」
 悪魔の角はつけているが、基本的にはいつもと同じ姿のパプワが年取ったチャッピーを撫でている。その傍にはくり子が。
「わぁ。くり子さん可愛い」
 サナ子が歓声を上げた。
「クリスマスの妖精ですわ。私はサンタクロースの娘ですから」
「妖精なら、サナ子と同じだー」
「似合ってますわよ。サナ子さん」
「ありがとう」
「こんばんは。お菓子用意してあるよ」
 コタローが満面の笑みを湛えている。
「ところで、根暗なお父さんと逞しいお母さんは?」
「今、二人きりで過ごしておるところじゃろう」
「へぇ……熱々だね」
 魔神の格好をしたコタローが感心したように言う。角はパプワとお揃いである。
「こんばんは、二人とも」
「あ、サービスおじ様だぁ」
「久しぶりじゃけん」
 サナ子とウズマサは嬉しそうな声を上げる。この美貌の男は嫌いではない。また、サービスも、子供を懐かせるのが上手なのだ。
「今日はシンタローが仕事で来れないからね。代わりに私が来たんだ」
「ふぅん。ハロウィンまで仕事だなんて、シンタローさん大変なんだね」
「ああ。文句ばっかり言ってたよ。サナ子ちゃんに会えなくて残念なんだ。サナ子ちゃんのこと好きだからねぇ。シンタローは」
「ええっ?! でも、困るなぁ。サナ子、リキッドさんのお嫁さんになりたいのに」
 そう言われて、リキッドは複雑な顔をした。
「サナ子ちゃん。俺は君とは結婚できないかもしれないんだ」
「ええ~?! どうして? 男の人と女の人は結婚できるって、お母様言ってたよ」
「ま、そりゃそうなんだけどさ。俺は一生年取らないから」
「どうして? どうして?」
「詳しいことは、サナ子ちゃんがもう少し大きくなってから話すよ」
 そう言うリキッドの顔は、浮かないものであった。
 ウズマサは話を切り替えた。
「ところで、ジュニアはどうしたんじゃ?」
「ああ。みんなを迎えに行っているよ」
 リキッドは笑顔に戻った。
「どんな格好していったんじゃ?」
「戻ってくればわかるよ」
「楽しみじゃのう」
 その時、
「トリック・オア・トリート! お菓子くれなきゃいたずらするぜ!」
 ハーレムの大きな声が辺りに響いた。ぞろぞろと、ロッド、マーカー、Gがパプワハウスに入って来る。
 ハーレムはキメラ、ロッドはピエロ、マーカーはキョンシー、Gは――ウマ子とは違って、本当に熊男である。
「ハーレム殿……いい年して人にたかるなんて、はずかしくないんか?」
 ウズマサの尤もな質問に、
「今日は年に一度のハロウィンだからな」
 と答えた。
 サービスは頭を抱えた。
「情けない……これが双子の兄だとは」
「まぁまぁ。元気出して。サービスおじ様」
 サナ子が近寄って行って慰める。
「ハーレム隊長……いつも食料恵んでやってるでしょうが」
「今日は特別だ。リキッド、ハロウィンのご馳走、作ってくれてんだろ?」
「そりゃ、作ってありますけどね……」
 はーっとリキッドが溜息を吐いた。
「ところで、ハーレム殿の仮装は、獅子舞か? ナマハゲか?」
 ウズマサはわざと言ってやる。
「やだなぁ、ウズマサちゃん。それだったら隊長は地でやれるでしょうが」
 ロッドはいつも通りへらへら。
「給料減らすぞ、ロッド」
「今はもうアンタに仕えてる身分じゃありませんのでね」
 じゃあ、なんでいつも一緒にいるんだと、ウズマサは訊ねたくなった。
 現役を引退しても、ハーレムは未だに『隊長』らしい。
「かぼちゃのタルト、ありますけど」
「ようし。早速持ってこい」
 ハーレムは傍若無人だ。
 へいへいと、リキッドは台所へ向かった。
「それから酒だな」
「ウズマサとサナ子ちゃんには、飲ませるなよ」
「わぁってるよ」
 サービスの言いつけに、ハーレムは案外大人しく従う。ハーレムは、この双子の弟に弱いのだ。
 それなら、ジュニアにならいいのだろうか。ウズマサ達より、ジュニアの方が年上で、もう立派な青年に近くなっているが。

ハロウィン! 後編へ続く→
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