ハロウィン! 後編

 外が俄かに騒がしくなった。
「はっはっは。そうですかぁ」
「そして、その時シンちゃんがね――」
「妬けますね。シンタローくんに」
 近藤イサミがマジックと談笑している。山南もだ。
 心戦組の局長、近藤イサミと、ガンマ団元総帥のマジック。そして、仲間割れして、一度は近藤を裏切った山南ケースケ。この三人が仲良くしているところを見たら、大抵の者は不思議に思うだろう。
 だが、時は憎しみを洗い去ってくれるものなのだ。
 近藤は三角頭巾のお化け、マジックは、『Magic』の語源となったゾロアスター教のマギ、つまり魔術師、そして山南は、マジックファンクラブのド派手なピンクのハッピを着ていた。
 ひとり、粋な着流し姿の土方トシゾーだけがクールな無表情であったが、リキッドの姿を認めると笑顔になった。
「よぉ、リキッド」
「あ、トシさん」
「やれやれ。まただよ」
 エルフの斉藤ハジメが呆れたように言う。山崎ススムはネズミ、永倉シンパチは狐だ。
「こんばんはっす。ネズミ―忍者さん」
 ――まめまめしく働いていたリキッドが、山崎を見た時にすごく嬉しそうになったのは気のせいなのかそうでないのか。途端に、土方が面白くなさそうに眉を顰めた。
「こんばんは。心戦組のみなさん」
 サナ子は頭を下げた。
「おお。サナ子殿。こんばんは。ご丁寧に、いたみいりますなぁ」
 近藤は上機嫌である。
「やれやれ。オッサンの相手は疲れるなぁ」
 星の王子様に扮した沖田ソージが、言葉の割には嬉しそうに言う。
「がおーっ」
「きゃっ」
「何じゃ?」
「ははは、ウズマサ、サナ子ちゃん、驚いたか?」
「なぁんだ。ジュニアかぁ」
 パプワの息子、パプワ・ジュニアである。ジュニア、と人からは呼ばれている。
「それなぁに?」
「ああ。これはゴジラだ。パーパが気に入ってなぁ」
 パーパとはもちろん、パプワのことである。
 そしてまた、次々と客がやってくる。
「ウズマサ、サナ子。パプワ殿」
「はーい。元気だっちゃかー」
「オラ達も楽しむべ」
 コージ、ミヤギ、トットリの伊達衆三人がやってきた。彼らは、普段の服が仮装のようなものである。トットリなんか忍者だ。
「でも、シンタローが大変な時に、遊んでいていいっちゃか?」
 トットリが呟く。
「シンタローには同情はいらんじゃろう。それに帰ったらわしらが倍働けばいい」
「トットリは、さっきからそのことばかり気にしてるべなぁ。シンタローはオラ達に『楽しんでこい』と言ったんだから、その通りにすべ」
 ミヤギは、自分に言い聞かせるように言う。
「あ、いたいた。おーい! みんなー!」
「……ハロウィンおめでとう」
「グンマ様、キンタロー様、とてもおかわいらしゅうございます」
 グンマとキンタローは猫耳と猫尻尾をつけている。
「まーったく、相変わらずだな、高松は」
 三人のやり取りの様子に、ジャンは苦笑した。彼はジェイソンである。
「あなただけフルチンでも良かったんですよ」
「そんな姿、サナ子ちゃんに見せられるか! マッドサイエンティスト!」
 高松は怪しげな科学者の格好をしている。――いつも通りといえばいえなくもない。
「おまえら――仕事はどうしたんだよ。ガンマ団に帰ったんじゃなかったのか?」
 ハーレムが出てきて、玄関の扉に寄りかかった。
「ハーレム、あなたに言われたくありませんね。私達は忙しい中、時間を割いてきたんですよ。ところで、サービスは?」
「――吸血鬼だ」
 サービスも現われた。
「こんな綺麗な吸血鬼なら、襲われたって構わないぜ」
 無精髭のジャンがサービスに真剣に目を据えたが、
「すまないが、私は美形の血しか飲まないんだ」
 と、あっさりかわされる。
「え? それって俺が美形じゃないってこと? ちょっと待てよ。サービス」
 パプワハウスに戻って行くサービスを、ジャンが急いで追いかける。
「パプワくーん」
 島の生物達も訪ねてきた。くり子が言う。
「家には全員入りきれませんわね」
「いつものことだ。みんな、外に出るぞ」
 と、パプワが片をつけた。
「そうですわね」
 くり子もパプワの言う通りにした。

 それからは、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。
 祭りで火照った体を冷まそうとしているのか、マジックは中心から距離を置いたヤシの木の根元に腰かけている。山南もついてきているようだ。
「マジック」
「父さん」
「やぁ、パプワくん。コタローも一緒かい」
「マジック様は私のです。貴方がたには渡しませんよ」
 山南がパプワ達とマジックの間に割って入る。
「いいんだ。マゾヒストの山南くん」
 ひどい言われようである。だが山南は、一旦引き下がってからも、マジックのことを、尊敬の念を込めた熱い視線で見守っている。
「父さんなんて、山南さんにあげるよ」
 コタローも容赦ない。
「シンタローは来ないのか?」
 パプワが訊いた。
「パプワくん……シンタローは仕事なんだ」
「ふぅん。寂しくないか?」
「寂しくないことはないが――この間、あの子の背中を見て思ったんだ。あの子の背中はずいぶん広くなっていたよ――私からはもう、離れる時が近いかもしれんな」
「大丈夫です! マジック様にはこの山南がついております」
「ありがとう。熱烈ストーカーの山南くん――それに、ティラミスとチョコレートロマンスもついているからね。私には」
 そう言って、マジックは微笑む。
「シンタローは、仕事を一手に引き受けて、がんばっているよ」
「そうか……あいつは責任感が強いからな」
「あの子はいつも、パプワくんは親友だと言っていたよ」
「シンタローは僕の友達だ」
「友達がどうかしましたってぇ?」
 アラシヤマがウマ子と共に姿を見せる。一体どこで聴き付けて来たのか。
 マジックが言った。
「君達、今来たところかい?」
「そうどす」
「遅かったじゃないか」
「ウズマサとサナ子を迎えに来たんじゃ」
「そうだな。連れて行ってやってくれ」
 マジックが促した時だった。
「あっ……! シンタローはんや!」
「アラシヤマ……ウケ狙いは面白くないぞ」
 マジックが呆れ顔でツッコんだ時だった。
「だってほら……」
 視界に赤い制服と黒コート、長い黒髪が映る。
「シンタロー!」
「兄さん!」
 パプワと、パプワ達を呼ぼうと近付いたコタローが同時に叫んだ。
「シンちゃん……」
 マジックが立ち上がる。
「よぉ。パプワ、コタロー……親父。ついでにアラシヤマ」
「ついででも、名前を呼んでもらえて嬉しいどす~」
「うおおおお。夫の浮気相手は男じゃ~」
 アラシヤマとウマ子はそれぞれ別々の理由で涙を流す。
 シンタローは、山南とウマ子には声をかけなかったのだから、確かにアラシヤマは付け足してもらっただけでも、マシかもしれない。
 尤も、山南はマジック、ウマ子はアラシヤマを愛しているので、シンタローに挨拶されなかったところで、痛痒を感じなかったかもしれないが。
「どうした? シンタロー、仕事は」
 パプワが訊く。
「それがさぁ……本部の部下達が、俺に、『仕事は任せて行ってください』って」
「……それで、任務を放ってきたのか?」
 マジックの顔が険しくなる。そういうことには厳しい親なのだ。
「いや。全部片付けてきた。俺の分は。早くパプワやコタローに会いたかったしな」
「シンちゃん。パパには?」
 マジックが耳を寄せる。
「ああ? いつも会ってるだろうが」
「冷たいねぇ、シンちゃん」
「マジック様! 貴方の事はこのマジックファンクラブ会員番号3番の山南ケースケがお慰め申し上げます。L・O・V・E! マジカルマージック!」
「シンタローはんといつも会ってるなんて、羨ましいどす~」
「うるせぇ奴らだぜ」
 シンタローは、マジックや山南やアラシヤマをばっさり切り捨てた。
「兄さん……もう夜が明ける頃だよ。ハロウィンも終りだ」
 今やすっかり美青年に成長したコタローが言う。
「うんうん。いいんだよ。おまえらの顔を見れただけで」
 鼻血を垂らしながら、シンタローが相好を崩す。
「兄さん、鼻血」
 コタローがティッシュを渡す。
「ああ、すまんすまん」
 シンタローが鼻を拭う。
「本部もこっちに引っ越してくればいいのに」
「いや……この島にはあのものものしい建物は似合わないよ。それにだ。ガンマ団の敵もまだ多くいるからね。これは前総帥の指揮が悪かったからだが」
「し……シンちゃん?」
「マジック様にあてこする気ですか!」
 シンタローはマジックと山南を無視する。そして続けた。
「――そんな奴らにこの島を荒らして欲しくなんかないだろ?」
「……そうだね」
「シンタローはん。皆はんには会って行きまへんの?」
 アラシヤマが優しい口調だ。
「料理だったら家政夫起こして何か作らせるよ」
 コタローは、すっかり女王様として育ってしまったらしい。
「そうだぞ。せっかく久々に来たんだからな」
 パプワがシンタローに、有無を言わさぬ口ぶりで言う。
「じゃあ、およばれにあずからしてもらうか」
 シンタローが答えた。
 くり子が少し離れた場所から、
「パプワ様ー」
 と、甘い声で呼んだ。彼女の隣にはチャッピーがいる。
「今行く」
 パプワはそう返すと、シンタローと顔を見合わせた。
「大人になったな。パプワ」
「会えばそればっかりのような気がするぞ。その台詞は」
 シンタローとパプワは似ていた。子供の頃の顔立ちは全然違う彼らだったが、成長したパプワは、どことなくシンタローを思わせた。
 海の向こうから太陽が昇ろうとしている。

後書き
長くなったので、前編と後編に分けました。
ちょっと辻褄合わせが大変でした。
会話は、アニメのように、目の前で展開されるので、追いつくのが大変でした。
ちなみにシンタローの言う『うるせぇ奴ら』とは……まぁ、お遊びだと寛大な心で見て下されば(汗)。
他には……そうだな。おかしなところがあったら、指摘してくだされば。
読んでくださった方、ありがとう!
2010.11.1


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