ミヤギのお姉さん 前編 「大変だーーーーーー!」 ミヤギが大きな叫び声を上げる。 「どうしたっちゃか?! ミヤギくん!」 「出入りじゃろうか?!」 アラシヤマを除いた三人の伊達衆が騒ぎ始める。なお、アラシヤマは一人遠方で指令をこなしている。 「姉貴が……姉貴が来るべ!」 ミヤギは手紙を持ったまま、この世の終りを迎えるみたいに脂汗を流している。 「何じゃ。そんなことか」 「ミヤギくんのお姉さんだらぁか?!」 落ち着いたコージとは対照的に、トットリは青くなっている。 「ほうか。けどミヤギの姉って……おなごじゃろ? そうびくつくことなかろうが」 「甘いべ。コージ」 「だっちゃ」 「それにしても、ミヤギの姉か……」 ミヤギとトットリに構わず、コージは悠然と顎を撫でた。 「しかし、ウマ子には敵わんじゃろう」 「油断は禁物だべ」 「だっちゃ。実はミヤギくんが顔だけの男になったのもあのお姉さんが原因だと囁かれる始末だっちゃ」 コージの不見識を戒めるように、ミヤギとトットリが怯えながら説明する。 「どうして、顔だけの男になったんじゃあ、ミヤギは」 「幼い頃からお姉さんの攻撃を受け続けて、頭が悪くなったっちゃ」 「頭悪くなったは余計だべ! トットリ!」 「あ、ごめんだっちゃ。ミヤギくん」 「強いんじゃな。けど、おなごには違いないじゃろう。まぁ、おなごといっても、わしのウマ子は逞しい上に美しいと来ているがの」 「ウマ子が……美しい?」 「シスコンだっちゃ。コージは」 げんなりしたミヤギとトットリの二人はふぅっと辛気くさい溜息を吐いた。 「ウマ子も強力だべ。けど、もっと強いかもしれねぇべよ」 「いくら強くても、おなごと争う気にはなれん。つまらんのぉ」 「コージ……甘く見ない方がいいべ」 「知らないと言うことは恐ろしいっちゃ」 「そら、オラの姉貴だ。美人であることに違いはないけんどもよぉ」 「ミヤギくんもシスコンだらぁか?」 「でも、それを帳消しにするぐらい強いべ」 「だっちゃ」 ミヤギの言葉に、トットリはうんうん、と頷いている。 「何て言う名前なんじゃ?」 「ああ……姉貴の名前は……東北イワテだべ」 東北イワテ。またしても田舎自慢な名前である。 しかし、恐怖の足音が近付いていることをミヤギとトットリは感じ取っていた。コージは煙管をふかした。 「なぁにぃ? この殺風景な建物」 金髪碧眼の女性がガンマ団を眺めやりながら言った。長い髪をひっつめにして、眼鏡をかけている。なかなかの美人だし、スタイルも良い。 「これがこの東北イワテ様を迎えてくれる建物なわけ?」 彼女が東北イワテ。ミヤギとトットリの恐怖の源である。 カッカッとハイヒールを鳴らして、ガンマ団のガードマンに近寄る。 「ここ、ガンマ団ね?」 「はい。そうですが」 眼鏡をかけていてもわかるイワテの美貌に、ガードマンの一人がぽおっとなった。 「馬鹿。女に見惚れている場合か」 もう一人のガードマンが相棒を叱咤した。 「ねぇ。ここにうちの愚弟がいるんだけど、会わせてくれる?」 「ぐ、愚弟……?」 「そ。東北ミヤギと言うんだけど」 「東北ミヤギ様なら建物の中にいらっしゃいますよ。あなたは?」 「私は東北イワテ。ミヤギの姉よ。ああ、そうそう。弟に『様』つけなくていいから」 勝手に入らせてもらうわ。そう言ってハイヒールを鳴らしてガンマ団に入って行こうとした。 「あ、だめですよ。許可証持ってなければ入れません」 「面倒だわねぇ……許可証どこに行ったかしら……あ、あったわ。はい」 イワテがにっこり笑った。もともとイワテに好意めいたものを感じていたガードマンは、即恋に落ちたらしい。 彼女は、まっすぐにガンマ団の正面玄関に向かう。 (ふっ、ちょろいわね) そんな黒い考えを彼女が抱いたことも知らずに、後ろの方からは「綺麗だなぁ」とか「ラッキーだな」という声が聞こえてきた。 「ちょっとミヤギー!」 バァーン!と派手にイワテが登場する。 「あ……姉貴……早速来たべ!」 「だから、早く逃げようって言ったっちゃ。ミヤギくん」 「探したわよ~」 「な……何の用だべ。姉貴……」 「うちのお祖母ちゃんが危篤でさぁ……ミヤギに呼びに行けって言うのよ」 「嘘だべ!」 ミヤギは0,3秒で否定した。 ミヤギの祖母も、イワテに負けず劣らず女傑なのである。 「そう……殴られたいって言うのね……昔みたく」 イワテがぼきぼきと手を鳴らす。 「どうしたんじゃ?」 「わぁっ。コージ。今出て行くと危ないっちゃ」 ひょいと覗き込んだコージをトットリが止める。 「あなた達は……」 「と……トットリだっちゃ。お久しぶり……だっちゃ」 「ほう。これがミヤギの姉さんか。ウマ子ほどではないが、まぁ美人の方じゃのう。わしゃあ武者のコージ。この中では最年長じゃあ。宜しく頼む」 「トットリにコージさん。いつもうちの愚弟がお世話になってます」 イワテが深々と頭を下げた。 (くっそ~、相変わらず外面だけはいいべ!) ミヤギが鼻血を垂らしながら悔しがった。 「ほう。礼儀正しい娘さんじゃのぉ」 コージの言葉に、トットリは、「違う違う」とジェスチャーしている。 「ミヤギを連れて帰って行っていいか、シンタロー総帥に話するわね」 「お、おら……嫌だべ。せっかくこのガンマ団に馴染んだところだし」 「ああ、そう。お姉様に逆らうというわけね。でもミヤギ、この私から逃れようとしたら――」 イワテはひやりとするような笑みを浮かべた。 「アンタ、すまきにして海に放り込むわよ」 ミヤギはぶんぶんと首を振った。イワテは部屋の扉を勢いよく閉めた。 「ああ……おら、どこにも逃げ場がないべ」 ミヤギはがくがくと震えている。 「質問なんじゃが、あのおなご、そんなに強いのか?」 コージの質問にミヤギは答えられる状態ではない。代わりにトットリが説明した。 「強いのなんの。ビンタした岩に手の痕がつくほどの怪力だっちゃ」 「ほうは見えなかったがのぉ……人は見かけ通りじゃないつうことじゃな。わしの妹ウマ子は、見かけ通りのスーパーレディじゃがのぉ」 コージの独り言に、しかし、反応する者は誰もいなかった。 ミヤギのお姉さん 後編へ続く→ |