HS ~ある双子の物語~ 第九話 大好きって言ってもらえたけど、やっぱりぼくは子供なんだな――多少落ち込みながら、サービスが歩いていると―― 「おい、アライのババァとなに話してたんだよ」 ハーレムがどやしつけた。 「君には関係ないよ。それに、アライ先生はババァじゃない」 サービスが反論する。ハーレムがフンと鼻を鳴らした。 「ま、どうでもいいけどよ」 君は本当はどうでもよくないんじゃないかい?――サービスはそう訊こうとして、やめた。 ハーレムも、アライ先生が好きなのだ。表には出さないけれど。 サービスにはそれがわかっている。 (なんたって双子だもの) 同じような好みをしていても、不思議ではない。 (けれど、アライ先生は、ハーレムなんかには渡さない) もっと大きくなったら――プロポーズしたい。その前に、結婚してしまうかもしれないけど。 (あんなに、美人なんだもんなぁ) サービスは深く長い溜息を吐いた。 「……なんだよ。落ち込んでんのか? こっちまで暗くなるじゃねぇか」 憎まれ口も、自分を心配してくれてのことだと、今はサービスにもわかる。 「元気出せよ」 そう言って、ハーレムはサービスの肩をどついた。 「いったいなぁ、もう」 (こいつはきっと、素直じゃないから、女の子にモテないんだ) サービスはこっそり思う。 時間はあっという間に過ぎて行き―― キーンコーンカーンコーン。 「やったぁ! 太陽の時間だ!」 太陽の時間。それは、この学校の自由時間のことだ。 十時十五分から三十分まで。外に出て遊ぶことができる。 ちなみに、語り手Tomokoの母校のシステムを参考にしている。その学校では、マラソンもやらされたが、ハーレム達の通っている学校では、自由にしていていい。 外に出なくても、読書をして過ごす者、マンガを描く者、次の授業に備える者――いろいろである。 もちろん、ハーレムは遊ぶことを選ぶ。 「おーい、ドッジしようぜ! ドッジ!」 「おっ、珍しいな。サービスがそんなこと言うなんて」 「いつもだと、『服が汚れるから』なんてほざくのにさ」 「ハーレム……おまえも来るだろ?」 「あ……うん」 「ちょっと。ハーレムくん」 クラスの女子だ。 「あなた、今日は日直でしょ?」 「あ、ごめん。忘れてた」 「……ったく、遊ぶのはいいけど、ちゃんと仕事やってよね」 「ごめんごめん」 「おい、ハーレム。女子の言うことなんかきかなくていいぞ」 「そうだそうだ」 「男には男のつきあいってもんがあるんだからな」 「まぁ!」 その女の子は、怒りながら、サービスとすれ違った。サービスのところに来ると、鼻息荒く、顔を背ける。 (ああ、こんなかっこうだからしかたないけれど……嫌われるのって、つらいな) サービスの心が痛んだ。 しかし、まぁあれだ、女子諸君も、男の子の言うことなすことにあまり目くじら立てない方がよろしい。気持ちはわかるが。 女子にだって、男が邪魔だということがあるのだから。 いや、今はなくとも、そのうちそんな場合が、ちゃんと来るから。 「行こうぜ、ハーレム」 「う……うん」 「俺も行く」 「サービスは女どもの手伝いでもしてろよ」 「何でだよー!」 「だっておまえ、お高くとまっているから嫌いなんだよ、俺達」 「そんな……入れてあげてもいいじゃないか」 「甘いぜ。サービスなんか、女どもにキャーキャー言われてればいいんだ」 「そうだぞー! この女男!」 「何だと?!」 ハーレムが相手に飛びかかって行った。 「行け! やれ! ハーレム……じゃなかった、サービス!」 サービスも応援する。 「ちょっと、喧嘩はやめなさいよー!」 「そうよ! サービスくん、今日はどうしたの? いつもはあんなにいい子なのに」 女子達も騒ぎ始める。 「へっ、いい子だってよ。サービス、女のところに行っていい子いい子されて、ままごとでもしてな」 「だーれが! 冗談じゃねぇ!」 「はいはい、そこまで」 ぱんぱんと高松が手を叩く。 「あぁ?! 高松、いったいなんだって……あっ!」 高松の背後には、ササキ先生がいた。ハーレムは、思わず驚きの声を上げた。 「おまえら……仲良く遊んで来い。ハーレムは日直の仕事が終わったらな」 「はい」 サービスが真面目に返事をした。 「先生……サービスくん、今日おかしいんです」 女子の一人が言った。 「ああ、先生もそう思う。いつもはさらさらと解ける問題も解けなかったりするしな。なんとなく――変だと言うのはわかる。だが、今はそれは重要な問題ではない」 (重要な問題だよ!) サービスが反発を込めて、心の中で怒鳴る。どうも、ササキ先生は苦手だ。 (ぼくのつみあげたもの、全部こわしやがって!) それは、ササキ先生ではなく、ハーレムのこと? 「そうだよ!」 これは、私、Tomokoへの返事だったが、大きな声を出したサービスは、「しまった!」と思った。 だが、ササキ先生は構わずに、 「おまえらだって、おかしくなることあるだろ? まぁ、思春期ってやつだ」 と言った。 (ちがうって……ぼくたちはとくべつなかんきょうに今いるんだからさ) 早熟なサービスは、思春期がどんなものか、或る程度はわかる。そして、自分がそろそろその時期にさしかかろうとしていることも。 (でもこれは、思春期とはかんけいないはずだし――それとも、かんけいあるのかな。だったら、まだ助かるんだけど――) いいえ。これは語り手の私の趣味です。 (Tomokoさんめ……) うふふ。まぁ、そう怒りなさんな。君にもいいことあるって。 (こんなナマハゲになって、怒るなという方がムリだよ。それとも、なんか『いいこと』の予定でもあるの?) それはね……あ、誰か来た。 「えっ?!」 教室の扉がからりと開いた。ふわふわの長い金髪にリボン、可愛らしい顔に、ピンクのドレス姿の女の子が現われた。隣のクラスのリリーだ。男子どもも、はっと一瞬目を奪われる。それほど綺麗な子だ。 「あの……ハーレムくん、いますか?」 BACK/HOME |