HS ~ある双子の物語~ 第十話

「ああッ?! んだよ」
「すごむなって。何か用事があって来たんだろ、ね、リリー」
 サービスがハーレムをたしなめてから、リリーに尋ねる。
「あ、あの……ハーレムくんにお話があるんだけど」
「俺に話?」
 すっかりハーレムになるのにも慣れたサービスが言った。
「ええ……」
 わかった、とサービスが頷いた。
「それであの……二人きりになりたいんだけど……」
 ヒューヒューと、クラスメート達がはやしたてた。
「やるじゃん!ハーレム!」
「うまくいけば結婚までいったりして?」
「おめでとーう!」
「うるさいよ、君達!」サービスが同級生達を睨みつけた。
「こわーい」
「あとで結果おしえてな」
「わかったよ、モテない諸君」
 そう悪い気分もしないサービスは、一瞬の怒りが過ぎると、元の彼に戻った。
「リリー、俺、日直の仕事があるんだけど」
「え? ハーレムくん、仕事してくれるの?!」
 日直の女子が目を丸くする。
「だけど、今はわたしがやっておくわ。ハーレムくんは行ってらっしゃい。その代わり、放課後はよろしくね」
 日直の女子が、笑顔で言った。さっきと態度が違う。女の子は恋の話になると、途端に協力的になる。たとえ子供でも。それに、日直の用事を積極的にやろうとする姿勢が、ポイントを稼いだらしい。悪いね、とサービスが手を振る。それをじっと見ていたサービスの外見をしたハーレム。
(俺は女にモテないと思っていたんだがな……サービスは俺の顔でもうコイビトができたのか)
 まだ、恋人とは限らないと思うんですけど……。
(でも、あいついやにモテるじゃん)
 はあ、ハーレムにはそう見えますか。
(ジジツだろうがよ!)
 わかったわかった。んで、二人きりになったサービス達の方は、どうなっているかなあ?
(んなの、俺に訊くなよ。俺、遊びに行ってくるから。どうせリリーとサービスのことはたがいの気持ちしだいだろうし)
 違いない。じゃ、サービスとリリー達のところへワープ!
 彼らは……体育館の裏にいた。
「で、なんなの?話って」
「ハーレムくん……」
 リリーは、いささか躊躇していたようだったが、やがてサービスの目を見て言った。
「私、ハーレムくんのこと、好きです」
 サービスは……しばらく意味が掴めずにいた。
「……は?」
「だから私……」
「いや、二度言わなくていいって。……俺のどこが好きなの?」
(ぼくだって、こんな風に告白されたことなかったのに……あいつのどこがいいんだか)
 サービスはちょっと面白くなかった。が、ハーレムと双子なだけあって、立ち直るのも早い。なんでリリーはハーレムが好きなんだろう。好奇心の方が勝った。
「あいつ……じゃなくて俺、君に親切にしたことあったっけ?」
 まさか、そんなはずはないと思いながら、サービスが訊くと……
「あります!」
 と、リリーが自信たっぷりに断言した。
「俺……どんなことしたっけ」
「私を助けてくれました」
「へぇー……」
 それは意外だった。ハーレムが女の子を助けるなんて。というか、そんなことがあったら、ぼくに話さないか?
 ちょっと裏切られたような気持ちを覚えながら、サービスは言った。
「俺、なにかした?」
「忘れているんですか……」
 リリーは呆れたように言ったが、その後、くすっと笑った。
「ハーレムくんらしいわ」
 そう言って、リリーは説明を始めた。
「私ね……この間、犬に吠えられていたでしょ。すごく大きな犬。私怖くて動けなくて……そこに現れたのが、ハーレムくん、あなただったの」
 ヒーロー登場ってわけか。「それで?」と、サービスは促した。
「『ロビン、お座り』と言ったわよね。そしたら、その犬さん、吠えるのやめて、尻尾を振りながら、ハーレムくんの言う通りにしたの。覚えてない?」
「んー、覚えているような、いないような?」
 サービスは歯切れが悪い。
「そしたら、飼い主の方が来て、あやまりながら帰って行ったのよ。私、お礼言いたかったけれど、ハーレムくん、その前に行ってしまったの」
 ハーレムがそんなことしていたとはねぇ……あいつも、やっぱり可愛い娘には弱いのだろうか。
「あ、それからハーレムくん、こうも言ったわよね。『犬に対しておびえていると、そのおびえが犬にも伝わるんだ』って。それから、『町内の犬はみんな、俺の友達なんだぜ』と」
 あいつらしいや。サービスは微笑んだ。
「どう?思い出した?」
 リリーの問いにサービスは、
「ああ。ばっちり思い出したよ」
 と言った。
(ハーレムごめん。おいしいところは全部ぼくがもらっていくことにするよ。君のすがたになったという、不幸なアクシデントが起こったんだから、少しくらい、いい目を見なきゃ、バランスが取れないよね)
 なんだか、ものすごいこと言ってるなぁ、サービス……。
「それで……よかったら私とおつきあいしてください!」
「喜んで!」
 即答だった。
(Tomokoさん、ありがとう! いいことって、これだったんだね)
 ん、まあ、そのつもりだったんだけど……それにしても、現金なやっちゃ。
 それに、アライ先生はどうしたのよ。
(ササキ先生にゆずるよ。ぼくとじゃ年がはなれれすぎてるし、なにしろ、アライ先生は、ぼくのこと、子供としか見てないし。ぼくとリリーだったら、けっこうおにあいだろ?)
 へぇ、へぇ、そうですねっと。
(なんだよ。もうちょっと祝福してくれたって、いいじゃないか)
 祝福だったら、ハーレムがするでしょ? 彼、わりと弟思いだから。サービスが幸せになったと聞いたら、きっと喜ぶよ。
(そうかな。……ありがとう、Tomokoさん)
 その後のサービスとリリーの話は割愛しよう。とにかく、二人はめでたく仲良くなったというわけだ。
「おっかえりー、ハーレム」
「どうだった?」
「ね、ハーレムくん、どうだったの?」
 女子も集まってきた。みんな恋バナに興味津々だ。
「上手く言ったんでしょう?顔が輝いてますから」
 高松もうりうりと肘でサービスをつつく。
 サービスは何も言わず、笑顔でVサインした。
「おおおおおっ!」
 地響きに似た歓声が鳴った。
「よかったな!ハーレム!」
「リリーのこと、大事にしろよ!」
「いじめたらゆるさないんだからね!」
 わらわらと児童達が詰め寄ってきた。サービスは笑っている。
 しかし、それを快く思っていない人もいた。
「ちっ!ハーレムのヤツ、いい気になりやがって」
「ボスもリリーさんのこと、気に入ってましたよね」
「あの女は、俺様が狙っていたのによぉ」
 ボスと言われた大柄な少年が舌打ちした。
 顔のパーツがやたらでかくて、美少年とは程遠い。だが、力はある。前々から、ハーレムをライバル視していた。
 ボスと呼んだ小さな男子の方は、出っ歯でねずみを思わせる。
 キーンコーンカーンコーン。
 チャイムが鳴って、どやどやとハーレム達が入ってきた。
「今回も大勝だったな」
「すげぇよ、サービス!ハーレムが乗り移ったみたいだったぜ!」
(まあ、俺はハーレム本人だしな)
 ハーレムが心の中でこっそり呟いた。
「まあ、サービスも運動神経抜群だしな」
 友人の一人が言った。
「ハーレムも仲間に入ったら、負け知らずだぜ!」
(よーゆーよ、こいつら……)
 俺を女男と言ったくせに……。たとえサービスと中身が入れ換わっていることを知らなかったにしても。
 ハーレムは土埃などで服を汚していたので、普通だったらサービスが注意するところであろう。だが、サービスは上機嫌だった為、そんなことは気にしなかった。

HS ~ある双子の物語~ 第十一話
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