HS ~ある双子の物語~ 第七話 「おはよーっ!」 双子は階段から、リビングにいる二人の兄の元へまろび出た。それは、さながら二つの豆大風だ。 「おお、おはよう」 マジックが鷹揚に迎える。 「サービス、今日は元気だね。何かいいことでもあったかい?」 ルーザーが訊く。 「てめぇにゃ関係ねぇ」 サービス(実はハーレム)の台詞に、ルーザーが唖然としている。 (ハーレム、言葉づかい) サービスに突かれて、ハーレムは「はっ、そうか」と思い直した。 「あ、あのですね、今日は結構なお日和ですこと。おほほほほほ」 「ぼく、そんな言い方しない」 「どうしたんだい? ハーレム、サービス」 ルーザーが訝しげな口調で問うた。 「「何でもない」」 こういう時は、気の合う双子である。 (ドジんなよ) (そっちこそ。このままだと、バレるのは時間の問題だよ) ハーレムとサービスはひそひそやる。 「座らない?」 ルーザーが椅子をひいた。長身の兄は、すらりとして格好よく見える。それに、蜂蜜をもっと澄明にしたような金髪だ。 「ああ、今座るよ」 ハーレムがサービスに向かってウインクした。 (だいじょうぶかなぁ……) サービスは何となく、先行き不安だと思った。 (ルーザーなんかはきけが出るほどきらいだけど、だいじょうぶ、このぐらいならうまくやれる) これはハーレムの心の声。 (なんたって、俺は、決める時は決めるんだから) 「サービス、今日も綺麗な髪だね」 「あ、ありがとう……」 (ハーレム、顔が引きつってる) ルーザーがハーレムの頭を撫でた。 (くっ、我慢だ、我慢……) そういえば、ルーザーは、サービスの髪をやたらと触りたがる癖があることをハーレムは思い出した。 (いつもだったら蹴飛ばしてやるところだ) ここから先は、面倒なので、サービスの姿をした方をハーレム、ハーレムの姿をした方をサービスと呼ぶことにする。 何? 充分ややこしいって。私もそう思う。失敗したかな。 いやいや、これは計算のうち――ということにしておこう。 「ハーレムも、今日はよく早起きすることができたね」 マジックがポットを抱えながら言う。 「はい。当然ですよ」 (けっ。しゃあしゃあと。イヤミなやつめ) ハーレムはあっかんべーをした。サービスは無視した。 「どうしたんだい? サービス」 「いや、そのちょっと顔の体操を……ははは」 「そんなことしなくても、君は充分可愛いよ。サービス」 (言ってろ。ひょうろく玉のおたんちんめ) ハーレムは心密かに毒づいた。 「ハーレムも揃ったことだし、今日は久々のモーニングティーとしゃれこもうか」 イギリスにモーニングティーというしきたりがあるのかどうか、私は知らない。 「きけば教えてやらんこともないぜ」 あ、これはヘタリアのイギリスだった。すまんすまん。 どうも悪ふざけばかりで話が前に進まんなぁ。語り手の性格ってこともあるけど。何かねぇ、すぐ脱線するのよ。 どうしたらいいと思う? 皆さん。 さあ! みんなで、考えよう! 「それならー、自分もー、考えろー!」 野次が飛んできたので、そろそろ本題に戻りましょう。変わり身早いんだ、私は。るんるん♪ 「あはははは。そうか。おまえは高松と立たされたか」 マジックは今朝は機嫌がいい。いつもなら怒るところだが、笑って済ませている。 「うん。でも今日からそんなことはないから。ぼく、いい子になるから」 (あっ、ちきしょ! サービスのヤツ、猫かぶりやがって) 「サービス。皿をぐちゃぐちゃにしない」 「あ、わりぃ。つーか、ごめん」 「なんなんだい? 今朝のサービスは。何か変だな」 ルーザーが首を傾げる。 (おまえが何かしかけたんじゃないのか?) そう尋ねることができれば、どんなにすっきりするだろう。いやいや、それでは計画が台無しになる。 計画といっても、具体的には何も決まっていないのだが。 「イザベラはいつ帰ってくるの?」 「そうだなぁ……しばらくあっちでのんびりしたいと言っていたから」 「僕達にとっても、長い休暇ですね」 「そうだな。ルーザー。私達もせっかく日本的な場所に来たんだから、リラックスするのが得策だな」 ちなみに、マジックは結構日本びいきである。家の庭には桜の花なんか植えちゃったりする。 実は、高松は、この頃まだ青の四兄弟と出会っていなかったっていうのがうちのパプワ小説のマイ設定であるのだが……。 「いいんじゃありませんかぁ? パラレルワールドということにすれば。私が友情出演としたという形でもいいし」 さーすが高松。グッジョブ。伊達にテストで一番取ってないね。 「テスト云々はいいですよ。小学校のテストなんて、楽勝ですから」 高松は謙遜を装っているようで、鼻高々である。そこが愛らしいところでもあるんだが。 「なんですか、愛らしいって。気色の悪い。あ、食事が終わったようですよ」 なにぃ?! 朝食の描写に時間をかけようと思っていたのに! 「とかなんとか言って、助かった、とか思ってるんじゃありません? あなたは描写は苦手……というか、はっきり言って下手くそですしね。 この~。言いたい放題言ってくれちゃって。 「ま、これから嫌というほど、描写に割けばいいでしょう」 おのれ可愛くない……。こんなに言うこと聞いてくれないキャラは……えー、結構いるか。 「アンタ、小説書きに向いてないんじゃありません?」 うっさい。 で、あっという間に学校。 「なんか不思議な展開がまざりこんでいたような気がするけど」 「気のせいだろ」 ハーレムのランドセルがかたかた鳴った。 「ハーレム。ランドセルの留め金はちゃんと止める」 「はいはい」 「――なんだか君、嬉しそうだね」 「おう。どんないたずらしかけてやろうか楽しみだからな」 「え?」 サービスの顔から血の気がサーッとひいた。 「あー、何しよっかなー。クラス中の女子全員のスカートめくってやろうかなー、窓叩き割ってやろっかなー。真っ裸でろうか走り回ろっかなー。んで、先生に怒られたらこう言うの。『先生、ぼくはわるくないんです。みんなハーレムがやれって言ったことなんです』。そうやって涙のひとつでも流せば、おとなは信じてくれんだろ?」 「ハーレム! やめて、それだけはやめて!」 「ははっ。そうだよなぁ。おまえはずーっとおとなたちの目を気にして、やりたいことやれずに来たんだもんな。ショックだろ。俺が、おまえの体で、好きなことして暴れ回るなんて」 「それ、脅迫のつもり? だったら、ぼく、ルーザー兄さんに相談する」 BACK/HOME |