HS ~ある双子の物語~ 第五話

「いやー、今日も俺達の圧勝だったな」
 ハーレム達は、同級生達と草野球をしたのだった。
 ちなみに、チーム名は『コンドルス』である。
 仲間達に囲まれてわいわいやっているハーレムを見て、サービスは羨ましくないこともなかったが、
(ぼくの方が女の子にモテる)
 と、自分に言い聞かせた。
「ちょっと待ったー!」
 なんですか? 急に。ジャン。
 私が訊くと、
「サービスには、俺がいるじゃないか」
 との答えが返ってきた。
 でも、この頃のサービスとは、まだ会ってなかったんだから。
「俺とサービスは、運命共同体だ」
「でも、先のことはわかんねぇじゃねぇか」
 ハーレムが口を出す。
「おまえ、サービスを幸せにすることができるのか? 不幸にしたら承知しねぇぞ」
 ハーレムがそう言うと、ジャンは、その勢いに押され気味になったようです。
「未来でもちゃんと、幸せにできるんだな?」
「えーと……それは、いろいろあることだしぃ……そのぉ」
 なんだか歯切れが悪いようです。
 まぁ、未来の彼らのことについては、C5でおいおい明らかになっていくでしょ。連載が再開すればの話ですが。
 待ってますよ。
 さぁ、話に戻ろう。
 サービスは、運動音痴ではないが、泥まみれになってまで野球をすることに、どうも気が乗らなかったのだ。
 誘われても、断り続けた。
 そしたら、お高く止まっている、と言われた。
(ぼくは、ぼくなりに意見を通しただけだったのに)
 ハーレムは楽しそうだ。こうなったら、仲間に入れてもらうんだったと後悔したが、後の祭りである。
 結局、高松と見学だ。
 高松も、子供の相手は嫌だと言う。彼の方こそ、お高く止まっているんじゃないかと思ったが、黙っていた。
 高松は、孤高を保てる人間だ。サービスは、そんな彼を強いと思う。
 本当は、精いっぱい虚勢を張っているだけかもしれないのに。
「おや、ずいぶんですねぇ」
 だって、そう見えるんだもの。
「悪かったですね。人のテリトリーに必要以上に足を踏み入れないだけです」
 ハーレムの気遣いに泣いたくせに。
「それとこれとは、関係ありません!」
 あ、そ。
 やっぱり素直じゃありませんね。高松も。
「うるさいです」
 ぎろりと睨まれてしまった。こあいこあい。
 とりあえず、サービスと高松は、いい友達といおうか、腐れ縁といおうか、そんな仲だったのです。
 思考回路もどこか似てますしね。
(少年野球なんて……くだらない)
 そうは思ってみても、サービスだって遊びたい盛りのお年頃。
 野球で駆け回っている少年達を見て、(やっぱりあの時、仲間に入れてもらえばよかったかな)と思う時もある。
 それを救ってくれたのが、高松であった。
 高松は、泥だらけで試合するなんて、愚の骨頂だと思っていたから、時々サービスと話したり、観戦したりしては、まぁまぁ自分なりに楽しんでいた。
 それだったら、最初から試合を見になんか来なきゃいいのに……しかし、サービスも高松も、野球を見るのは好きだった。
 しかも、『コンドルス』がボロ負けしてる時には、二人して溜飲を下げていた。
 二人とも、ハーレムのことは嫌いではないが、勝って得意顔されるのも癪だったのだ。
 あれ? 第五話になるのに、ちっともサービスとハーレムが入れ換わりませんねぇ。
 まぁ、二人の境遇を書く為に、仕方なく……です。無駄にだらだら長くなってしまいましたね。
「俺、このまんまでいいよ」
「ぼくだって、今の自分に満足さ」
 本当かな?
 私はにやにやしながら、ハーレムとサービスに言う。
 確かに、そうかもしれないけれど、お互いのこと、もっとよく知りたいと思わない?
「思わない」
 綺麗にハモった。そんなに嫌かね。
 でも、あんた方がどんなに嫌がってもやるぞー!

「じゃあなー」
「また明日ー」
 家に帰ったハーレムとサービスは、対照的だ。
 ゲームに夢中のハーレムとは違い、サービスは宿題をきちんとやる。もちろん、予習復習は忘れない。
 サービスの宿題をみるのは、ルーザーの役目だ。ルーザーがいない時は、マジックがやる。
 それは、ハーレムの気に入らなかった。
 ところで、私は、前にイザベラという家庭教師のことを書いた。ルーザーもマジックもいない時は、彼女が面倒を見る。
 ルーザーもマジックも、できるだけ家にいるようにしているが、イザベラに頼むこともある。
 ハーレムも、イザベラに対しては素直に振る舞う。宿題も何とかこなす。
 だが、今日はそのイザベラもいなかった。
 ハーレムは遊んで過ごした。
 マジックがいないのは寂しかったが、サービスと軽口を叩き合いながら、長兄の作った料理をつついた。
 ルーザーに関しては……。
「あいつはいない方がいい。せいせいするぜ」
 それは本心?
「あったりまえだろ? たった数年、早く生まれたってだけでいばってさ」
 ハーレムは顔をしかめる。
 本当にルーザーのことが嫌いなんだね。
「僕、ちょっと寂しいな」
 ルーザーが言う。
「ふん……勝手にしろ」
 ハーレムも浮かない顔をしているね。素直じゃないんだから、全く。
 ルーザーが、サービスに対してどんな顔で接しているか、知りたくない?
「知りたくない!」
 サービスになれば、そのことがわかるんだよ?
「だから、興味ないってば」
 うん。でも、中身、入れ換える予定だから。
「もう決まったことなのか?」
 決まったことです。だって、前口上で約束したしぃ。
「そうか……でも、サービスになるって、どんな気分だろうな」
「ぼくは入れ換わりたくないけどね。死んでも。ハーレムの気持ちなんて、わかりたくない」
 でも……草野球の時、ちらっと、仲間に入れて欲しいなんて、思わなかった?
「う……そ、それは……」
「なんだ。言ったら、入れてやるのによ」
「メンバー決まってるんだろ? いいよ」
 ハーレムとサービスは、ベッドでいろいろな話をする。学校のこと、友達のこと、将来の希望のこと――。そうやって、楽しく寝入る。
 翌日、早く起きるのはサービスの方だ。
「なんか、変な夢見たなぁ……ってあれ?!」

HS ~ある双子の物語~ 第六話
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