HS ~ある双子の物語~ 第三十ニ話

 双子達とリリー、それに父兄たちが遊園地を堪能したその夜――
 大林が谷崎と一緒に、サービス(と見せかけたハーレム)に謝りに来た。
 大林の頭には包帯が巻かれてあった。
 マジックとルーザーはぺこぺこ頭を下げていたが、どこか嬉しそうだった。
 そして、大林も――楽しげにハーレムと会話していた。
「今度こそタイマンはろうぜ! 邪魔したな!」
 と、大林はハーレムと笑顔で別れた。
「それにしても、サービスが喧嘩とはねぇ……」
 ルーザーが苦笑しながら言った。
「まるでハーレムみたいですねぇ」
「そうだな」
 マジックもルーザーも、彼らが入れ換わっていることについては勘づいている。
 だが、知らないふりして笑う。きっかけはどうあれ、喧嘩友達ができるのは、サービスにとっていいことだろう、と二人とも思っている。
「どうですか? イザベラ先生。どう思います?」
 マジックの質問に、
「さぁ……私には何とも言えませんわ」
 と、しれっと答えた。
「サービス……部屋に行こう。ちょっと話そうよ」
「うん……わかった」
 パタンと、双子の部屋の扉が閉じられた。
「大林君、君と仲良さそうだったね」
「……そうか?」
「『そうか?』じゃないだろ! ぼくの姿で勝手なことしないでよ!」
「ごめんごめん」
 たはは、と笑ったハーレムであった。
「ぼく、ごめんだからね。大林の友達なんて」
「何で。あいつ結構いいヤツそうだったよ。それに、拳と拳でわかり合うのが、男同士の友情ってもんだろ」
「君が元の姿に戻った時にやってくれよ。――ぼくは……ごめんだからな」
「そんなに大林が嫌いか?」
「――……嫌いなのは、君のことだよ!」
 そう言って、サービスは部屋を出た。
「ハーレムの馬鹿……人の気も知らないで」
 サービスはくすんと鼻を鳴らした。
「大林なんかと……」
 サービス、妬いてるみたいだね。
(や……妬いてなんかいないよ!)
 サービスが頭の中で話した。
(た……ただ……大林があんなに親しげにハーレムと話してたからさぁ)
 面白くないの?
(うん。少し……)
 仕様がないね。今日はもう寝たら?
(Tomokoさんのせいでも……あるんだよ)
 ――まぁ、否定はしないよ。おやすみ、サービス。
(おやすみ)
 サービスは部屋に戻ってきた。
「おー、お帰り、サービス」
「ただいま」
「あ、さっきの話だけどさぁ……」
「もういいよ。おやすみ」
 サービスはベッドに潜り込んだ。彼にしては珍しく、お風呂にも入らず、シャワーも浴びず……不貞寝だった。

 翌日――
 リリーの家族は、荷物をまとめているところだった。
 ハーレムは、学校から帰る途中に、リリーのところに寄りに来たのだった。リリー本人と共に。
 サービスは「忙しい」と言って断った。
(なんだろ、あいつ……)
 どうも、昨日からサービスの様子がおかしい。その原因は、ハーレムにもつかめなかった。
「ごめんな、リリー。ハーレム、捕まらなくってさぁ」
「いいわよ。サービスくんが来てくれたんだから」
 リリーは花のようなドレスをひらひらさせていた。そして、父や母を手伝う。
 ハーレムも手伝った。すぐ疲れてしまったが。
(ちっ、ひ弱な体だ)
 ハーレムはちっと舌打ちした。
「どうしたの? サービスくん」
「何でもない……」
 その時である。
 息せききってやってきたのは、サービスであった。
「――ハーレム?」
 サービスが立ち止まった。
「ごめんね、リリー。遅くなって」
「え……あ……わざわざ来てくれたの?」
「うん。これ、摘んできたんだけど……リリーに似合うと思って」
(やるじゃん、サービス)
 こういうところは真似できんな、と、改めてハーレムは思った。
「あ……ありがと……」
 リリーがしおらしくお礼を言った。
「リリー、行くわよー」
 トラックの荷台に、家具が詰め込まれた。
「さぁ、あなたも荷台に乗って」
 リリーの母が娘を促した。子供一人が乗れるスペースは充分ある。
「うん……」
「さよなら、リリー」
 サービスが言った。
「またな……」
 これはハーレム。
「じゃあね……ハーレムくん、サービスくん……」
 トラックがガタゴトと動き出す。
 リリーは――
(これでいいの? これで……)
 と思っていた。
(ハーレムくん……ハーレムくん、ハーレムくん)
 きっと、あのサービスくんは、ハーレムくんだ。
(それを確かめずに――私は行くの?)
「ハーレムくん!」
 ありったけの想いを込めて――リリーは叫んだ。
 サービスはもう離れた場所に行ってしまっていた。気付きもしなかった。
 代わりに、ハーレムが振り向いた。
「ハーレム……く……ん……」
 リリーの目からは涙がどっと出た。
 サービスの顔をしたハーレムは、そのままずっとリリーを見送っていた。リリーは泣いていた。

HS ~ある双子の物語~ 第三十三話
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