HS ~ある双子の物語~ 第三話 その時、クラスの担任の先生が、ガラッと扉を開けた。 「おはよう、みんな」 児童達はガタガタッと席に着いた。 「おはようございます」 「おや……?」 先生は、ハーレムと高松の二人に目をとめた。 「サービスくん。あの二人は、また一体何をやらかしたんだ?」 サービスは手短に経緯を説明した。そういうことになると、語り手の私より、よっぽど上手く、生き生きと喋りますからねぇ、この子は。 「いえいえ。そんなことありませんよ」 ご謙遜なさらずとも。 ま、そういうところが、サービスのいいところですが。 「ふん、甘いですね、Tomokoさん。控え目に振る舞って、美味しいところを持っていくのが、あの人の手なんですから」 まぁ、私と高松とどっちが正しいかは、読者の判断に譲るとして。 先生は、ハーレムに、 「ハーレム。ちゃんと宿題やってこなくちゃだめじゃないか。罰として廊下に立ってなさい」 高松は、ハーレムに向かって、べぇ、と舌を出した。 「高松くん。君もだぞ」 「ええー。私、被害者ですよ。見てください。このたんこぶ。怪我が元で、アッタマ悪くなったりしたらどうするんですか!」 「それだけ憎まれ口が叩ければ大丈夫。保健室には、授業が終わってから行きなさい」 「……何かあったら、治療費払ってもらいますからね」 「おう、いいとも」 先生はこゆるぎもしない。 「――仕方ないですね。行きましょ。ハーレム」 「おう」 「待て」 先生が制止した。 「今度は何です」 高松が、いらいらしながら言った。 「バケツを持って行きなさい。水を張って」 水入りのバケツは、廊下に立つ時の定番アイテム。 「……わかりました」 こういうことには慣れているハーレムと違い、高松はいささか悄然としていた。 「んだよー。元気出せよー。高松」 「あなたはお気楽でいいですねぇ」 高松が溜息を吐いた。 「私は優等生ですし、滅多に立たされることはないんですから」 「おまえも悪いんだぞ。ノート素直に見せやがらないから」 「宿題しない方が悪いんですよ」 「う……そ、それはまぁ……」 ハーレムはいささかたじろいだ。が、ここで引き下がる彼ではない。 「あんな方法で金取ろうなんて、おまえだっていけないことしてるじゃねぇか。校則違反だぞ」 「そうかもしれませんけどね。私はアンタ方とは違って、貧乏ですからね」 高松が、養父母の元で育っているのは、同じクラスの児童達には、周知の事実であった。 (高松くんて、ほんとうのお父さんお母さんがいないの?) (そうよ。だから、一緒に遊んじゃダメですよ) (うるさい、うるさい、うるさーい!) 「……高松」 高松は、ハーレムの声で我に返った。 「あ、ハーレム」 「どうした? 何かあったのか? 保健室、行った方が良かったか?」 「いいえ」 高松は首を横に振った。 「何でもありません」 考えてみれば、最初に対等に自分と付き合ってくれたのは、ハーレムと――それから彼の双子の兄弟、サービスだった。 彼らのおかげで、高松はクラスメートとも友達になれた気がする。 (ハーレム……サービス……ありがとうございます) 「おし! 顔色良くなったな」 ハーレムが満足げに頷く。 高松は笑った。 「な……何だよ」 「いえ……あなたって本当に……」 (いい人ですねぇ) その台詞は胸にしまっておいて、 「馬鹿ですねぇ」 とだけ、高松は言った。 「何でだよー!」 (馬鹿ですよ。私なんかをこうやって気遣ってくれて……) 高松の目に、涙が出て来た。 「ん? 今度はどうしたんだよ」 「目にゴミが入ったんですよ!」 そう言って、高松は涙を拭う。 あれ? この話は、ハーレムとサービスの双子が主人公じゃなかったっけ? いつの間にか高松が主役になっている……。 「ふふふ。油断してると、主人公の座、奪っちゃいますよ」 「げげっ! それは大変だ! サービス! 高松から主役の座を守る為、がんばろうぜ!」 「うん!」 でも、このやり取りは、単なる閑話。 話に戻ろうか。 「高松……なんかおまえ、変だぞ。保健室に行くか?」 「いいえ……これは、別に、頭を打ったからじゃありませんから……」 しばらく、無言の間が続いた。 校庭には桜が咲いている。窓からはそれがよく見える。 「ごめんな、高松」 「なに。いいってことですよ」 「あー。それにしても、早く勉強終わんねぇかな。肩凝ってしゃあねぇや」 小鳥が飛んでいる。あの小鳥のように自由になれればな、と、ハーレムは思った。 やっと、授業の時間が終わった。 「おい、サービス。高松を保健室に連れて行ってやれ」 「え? でも……」 「いいから。こいつ、なんか様子が変なんだ」 「自分で行けばいいのに……」 だが、さっさと友達の輪の中に入ってしまったハーレムを見て、サービスは諦めて高松と保健室に向かった。 「高松は保健室に行ったか?」 先生がハーレムに訊いた。 「おう。サービスが連れてった。なんかおかしかったから」 「そうだったか……。先生も少し心配になってきた。様子を見に行くよ」 「そうしてやってください」 ハーレムは、にこっと笑った。 (いつもこんな感じだと、可愛い生徒なのにな) 先生は思った。そうして、休み時間が終わらないうちにと、先生もまた、高松達が行った先へと急いだ。 BACK/HOME |