HS ~ある双子の物語~ 第二十七話

「今日は大活躍だったね。サービス」
 ケーキを切り分けているルーザーがおっとりと言った。
「どうせ、俺は役に立たなかったですよ」
「くさらないくさらない」
 イザベラがサービスの肩を慰めるように叩く。
 サービスとルーザーの目が合った。
 どうしても意識してしまう。サービスは赤くなって俯いた。
「ところで、明日はアンタ達、教会に行くんでしょう?」
「えー?」
 ハーレムは不満そうな声を上げた。
 そりゃ、歌うたうのは好きだけど、説教中は眠くて眠くて……。
「俺、明日デートなんだけど」
 サービスが言う。
「デート! へぇ、デート! 驚いたわね。つい最近までおねしょしてたハーレムがデートねぇ……子供の成長は早いもんだわ」
 イザベラが感嘆する。
「な……おねしょって、いつの話してんだよ!」
「あれ? ハーレムの話なのに、何でサービスが驚くのかしら?」
 イザベラが悪戯っぽくにやにや笑う。
「いや、まぁ、その……」
 ハーレムが頭を掻いた。
「で、何時頃デートなの?」
「午後一時半」
「何だ。それじゃ、朝の礼拝には出られるじゃない。ね?」
「どうしてクリスチャンでもないのに礼拝に出なきゃいけないんだよ」
 ハーレムが口を尖らす。
「神様に感謝する為よ」
 イザベラはあっさり言った。
「どうして神様に感謝しないといけないの?」
 サービスが訊いた。
「それはね……神様は私達を見守ってくださるからよ」
「見守るだけ?」
「違うわ。困った時は聖霊様を通して助けてくださるのよ」
「聖霊様って?」
「私達の近くにいる目に見えない存在のことよ。教会に行けば、聖霊様と交わることができるのよ。みんなと一緒に」
「よくわかんねぇ話だな」
 ハーレムが割り込んできた。
「……わからないならいいわ。明日の礼拝は出るでしょ?」
「もちろん」
 サービスは肯いた。
(あまり気乗りしないなぁ……)
 ちょっとお仕着せをさせられているみたいで、ハーレムは嫌だった。
「ところでアンタ達。後で部屋に行ってもいい? 話があるから」
 と、イザベラ。
「わかった」
 重要な話らしい。二人は頷いた。
「さてと」
 おやつの時間が終わって部屋に来るなり、イザベラが腰に手を当てて尋ねた。
「あんたら、何でこんないたずらしてんの?」
「え?」
 いたずらなんか何もしてない。今はまだ――ハーレムとサービスがそう思った。
「白状おし」
 イザベラが詰め寄った。
「アンタ達、入れ換わってるでしょ」
(やっぱりバレてたんだ!)
 女の勘は鋭い。再会してから少ししか経ってないのに、もう見抜かれた。大丈夫だと思ってたのに。
 ハーレムなんか、正体を隠す為に大嫌いな玉ねぎまで食べたのに。
 その努力が全て水の泡だ。
 二人は顔を見合わせた。それから、サービスがイザベラに訊いた。
「どうして、入れ換わったってわかったんですか?」
「やーっぱり入れ換わってたのね。イザベラ様の眼力を見くびんじゃないわよ。アンタ達のことは、ジュリアに任せられたと思って面倒見てたんだからね。ジュリアと私は親友だったんだから」
「どうする? ハーレム」
「ん……」
 サービスの言いたいことがハーレムにはわかった。さすがは双子である。
 イザベラには正直に言って、相談に乗ってもらった方がいいかもしれない。味方にすれば頼りになるし。
 サービスが話し始めた。
「えっと、ぼく達にもよくわからないんだけど……」
 話が終わった後、イザベラは吐息をもらした。
「なるほどね……」
 朝起きてたらこうなっていたこと、リリーのこと、そしてTomokoの存在……サービスは知ってること全部を告白した。
「よし! じゃあTomokoってヤツのところに案内して! 私がぶっ飛ばすから」
「やめてください、イザベラ先生! Tomokoさんがどこにいるんだかわかんないんだから」
「そうなんだよな。殴ってやりたいのは山々だけど」
 二人とも、イザベラの前では、いつも通りの口調に戻っている。
 ふっふっふ。イザベラにハーレム、残念でした。のこのこ姿を見せる私ではありませんことよ?
(くっそー。Tomokoめ)
 ハーレムが私に対して毒づいた。
 でも、今はまだ姿を見せられないの。ごめんね。
「俺達、本当は早く元に戻りたいんだ」
「ぼくは……」
 サービスは複雑だった。元に戻れば、リリーと別れなければならなくなる。
 仲の良いハーレムとリリーを見るのは、何となく嫌だな、とサービスは思った。
 リリーも好きだけど、本当は……ハーレムを独占したかった。
 だから、転校してきた際、
「ハーレムと同じクラスでなければ嫌です」
 と無理な注文をつけたのだ。学校には長兄マジックがたくさんの寄付をしてくれていたので、その願いは受理された。
 そのことをハーレムは知らない。その時、ハーレムは席を外していたからである。――それはさておき。
「まぁ、災難だったわね。アンタらも」
 イザベラはこほんと咳払いをした。
「いたずらなんて言って悪かったわ。アンタ達も苦労したのね」
「ええ! そりゃもう!」
 サービスが力を込めて叫んだ。
「あんだとぉ?! 俺だってなぁ……!」
「ほらほら、喧嘩しない!」
 イザベラが仲裁に入った。
「で、リリーちゃんのことはどうするの? 正直に話すの? それともサービスが『ハーレム』として会うの?」
「ハーレムとして会います」
「それはいいけど……アンタら一生このままだったらどうすんの? 入れ換わったまま過ごすの?」
 ハーレムもサービスもそこまでは考えていなかった。彼らはまた、お互いを見つめ合った。
「まぁ、アンタ達が決めることだけどね……邪魔はしないわ」
 正直に言った方がいいと思うけどねぇ――と、イザベラは独り言のように呟いた。

HS ~ある双子の物語~ 第二十八話
BACK/HOME