HS ~ある双子の物語~ 第二十三話

「ねぇ、リリーとハーレムはもうデートしたの?」
 女子の一人が訊く。
「もうしたに決まってるよな、な」
「キスもした?」
「ああ、もう! 次々に質問しないでくれよ」
 そう言いながらも、サービスは満更でもなさそうだった。
「いいから答えなさいよ~」
「そうだぞ。なんせ、ササキ先生とアライ先生はケッコンするんだかんな」
「まだ婚約の段階なんだけど……」
 アライ先生は顔を赤らめながら訂正する。
「私達、日曜日に遊園地でデートするのよね」
「うん。舞浜のね」
「へぇ、やるじゃん!」
「がんばって!」
 何をがんばるのか知らないけれど、今は『ハーレム』のサービスが頷いた。
「報告、宜しくな」
「写真も見せてね~」
 だが、お祭りムードの中に入って来ない連中もいた。ボスと呼ばれた少年とその子分である。
「ちきしょー。ハーレムの奴。あいつだけにいい目を見せてたまるかよ」
「やっぱり邪魔してやりますか?」
「当然!」
 ボスは手をボキボキと鳴らした。
 それをこっそり見ていたハーレム――。
(大林か……面倒なヤツに目をつけられたもんだぜ。あいつもよぉ)
 ハーレムは、自分一人なら何とかなるんだが――とこっそり思った。
(毎度毎度Tomokoに世話になる訳にもいかねぇし)
 私だったら、ちっとも構いませんが。
(いや、大林組とは一度対決してみたかったんだ)
 あっ、そう。じゃあ、私の手助けは要りませんね。
(いや……、万が一という場合もあるから、その時は手を貸してくれ。あいつらに少しでもかすり傷負わせたくない)
 わかりました。ハーレム。あなた、優しいですね。
(そうか?)
 ええ。数十年後にはいい男になりますよ。
(そんな先のことはわからねぇさ)
 そう想いながらハーレムは遠い目をした。私には、そんなハーレムが大人びて見えた。
 少なくとも、リリーに夢中のサービスよりは、『男』に見えた。
 サービスも、いい男になるんだけどなぁ……でも、今はハーレムの方が好きなの。私。昔はサービスの方が良かったんだけどね。時の流れというものは不思議なものよ。
 これは、私の独り言だから、ハーレムには聴こえないのだ。語りかけは彼にも聴こえるけど。
 んで、ハーレム、大林組はどうすんの? ちなみにこれは語りかけ。
(何ごちゃごちゃ言ってんだよ。ぶっ飛ばすだけに決まってんじゃねぇか)
 あらま、結構イージーだね。
(まぁ、あいつらが何もしない時はうっかり手を出せねぇが、サービスに暴力ふるってみろ。覚悟しとけよ)
 今は手を出せないんですか。
(証拠がねぇ)
 ハーレムが即座に思った。
(それに……今はササキとアライの婚約パーティーだ。邪魔しちゃ悪いだろ?)
 へぇー。そんなことも一応考えてたんだ。
(たりめーだろ? でもあいつら、サービス達には何かしかけてくるかもしれねぇから、俺もこっそり遊園地に行くぞ)
 それって……ただ遊びたいだけなのでは?
(違う! ……と言ってもおまえは信じないだろうから、そういうことにしてやっても良いぞ)
 何か、えらく遠回しな言い草で念を押してません?
(うるせぇっ!)
 ハーレムが強くそう想った。……うん、つまり、私は迫力負けしたわけ。

 あっという間に夜になった。ハーレムとサービスは、家の自室で枕の投げ合いっこをしていた。キャーキャー言いながら。
「ハーレム、サービス。もう寝なさい」
 若きマジックが長男の威厳で双子に注意した。
「だって、今日はお祝い事があった日なんだよ」
「そうそう。素直に寝られるわけないじゃん」
「ああ、そうかいそうかい。じゃ、ルーザー呼んでくるね」
「ゲッ! 何でルーザーなんか呼ぶんだよ!」
「いいじゃない、ねぇ」
「なかなか寝付けないんだろう? ルーザーに添い寝してもらえ」
「ぼく、兄貴の方がまだマシだー」
「ふん。僕に逆らうとどうなるか、わかったか」
 バタン、と扉が閉まった。
「ちぇー。まぁ、おとなしくしとくか」
「バレないようにだよ」
「サービス……おまえ、ルーザーにはほんとのこと話すって言ってなかったっけ?」
「気が変わったんだよ。言ってなかったっけ?」
 二人は顔を見合わせて、くすくす笑った。
「あー、何か、君見てると、ほんとにぼくって美少年だったんだと思うよ」
「俺のライオンヘアーもかっこいいぜ」
「ねぇ、ぼく達これからどんな大人になるのかなぁ」
「さぁ……Tomokoは俺がいい男になるって言ってたぜ」
「それはどうかなぁ」
「――なぁ。おまえもリリーと結婚するのか?」
「何だい? 急に。……したいけど」
「じゃあさ、じゃあさ。俺とりもち役するよ」
「えー。遠慮しとく」
 サービスの顔は笑っていた。
「何でだよ」
「だって、君にかかると、まとまるものもまとまらなくなりそうなんだもん」
「言ったな! えいっ!」
「きゃー。やめてやめて! くすぐったいよー!」
 二人がじゃれ合っていると。
「あのぅ。二人とも」
 いつの間にか、髪を真ん中分けにしている、年齢の割には長身の白皙の美形の少年が立っていた。
「ああ、ルーザー兄貴か」
「ルーザーお兄ちゃん!」
「二人とも楽しそうだねぇ。ササキ先生とアライ先生が婚約したことがそんなに嬉しいのかい?」
「嬉しいよ、ね?」
「ああ」
「それから、ハーレムは初デートだって?」
「ルーザー……兄貴。何で知ってるの?」
 サービスが頬を赤らめた。
「君、ずっとそのことばかり喋ってたじゃないか」
「ああ。あんまり嬉しくて、秘密にしておけなかったんだよ♪」
「そう? 他に秘密にしていることってない?」
 ルーザーが言った。ハーレムは背中に冷たい汗をかいた。

HS ~ある双子の物語~ 第二十四話
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