HS ~ある双子の物語~ 第二十一話

 二人の女子が喋っていた。仮に女子Aと女子Bとする。
「ねぇ……ハーレムくん、変じゃない?」
「何が?」
「だってさぁ……急に器用になるんだもん」
「サービスくんだって変よ」
「変よねぇ」
「何かあったのかしら」
「二人の器用さが入れ換わったとしか思えないわ」
 それを、高松が聞くともなく、聞いていた。

「ハー……じゃなかった。サービス」
 高松は走って、遥か前を行っていたハーレムの腕を掴む。
「何だ? 高松」
「いいから来てください」
「???」
 ハーレムと高松が男子トイレに入ると、高松が切り出した。
「女子の方々も、あなた方のことについて訝しがってます」
「訝しい?」
「このままだと、正体がバレるのも時間の問題かもしれません」
「それは、ヤバいなぁ。俺達、一応は隠してるんだから」
「気をつけてくださいね」
「わかった。ありがとう。――ああ、そうそう」
「何ですか?」
「いくらだ?」
「は?」
「情報料。いくらだ?」
 ハーレムがそう訊いた時、高松の顔の表情が、能面みたくなった。
「私が金目当てだとでも思ってんのか?」
「――違うのか?」
「――アンタなんか大っきらいですーっ!!」
 高松はそう叫んで、トイレを出て行った。
 ちょっと、高松の心に焦点を当ててみましょう。
「ハーレム……ハーレムの馬鹿……ほんとにあの人は馬鹿なんですから……」
 高松は校庭の大木の傍で、ひっくひっくとしゃくり上げていた。
(みくびらないでくださいよ……せっかく好意で教えてあげたのに、情報料なんて……)
 はぁ、でも、それは仕方ないんじゃ。
(あっ! Tomokoさん! びっくりするじゃありませんか)
 高松、あなたのことが気になってね。
(何で、あなたは私に語りかけるんです?)
 ――あなたのことが、好きだから、ですよ。
(冗談言わないでください)
 いやいや、冗談でなく、ほんとさ。
(ありがとうございます。――でも、さっきはほんとに悔しかった。ハーレムめ、私を金の亡者みたいに)
 そこまでは思ってないでしょう。
(いいえ! 絶対そう思ってるに決まっています! あの人とは――あの双子とは、友達だと思ってたのに……もうだめです)
 ネガティブな発言は控えなさい! 大丈夫。ハーレムは何とも思ってないから。
(だといいんですけれど――)
 高松は鼻を啜った。
(あの双子は――私の数少ない友人なんですよ。昔の私は本ばっかり読んでました。友達づきあいなんて、全然なかった……)
 ふんふんそれで?
(クラスメート達は近付いてこなかった。そんな時、声をかけてくれたのがハーレムです)
 なるほど。
(その関係で、サービスとも親しくなりました。私はそれが、嬉しかったんですよ。――私は、孤児ですしね)
 ああ、そうだったね。
(今の家族は優しくしてくれますがね)
 それは何より。
(友達ができるようになったのは――あの双子のおかげです)
 ハーレムとサービスが、心の扉を開いてくれたのね。
(まぁ、そうです)
 私の声も聴こえるようになったし――私の声は、心を開いている人にしか聴こえないものなんだよ。
(そうなんですか)
 嬉しそうな顔だね。
(そ……そんなことないですよ)
 照れなくても。
(でも、Tomokoさん。あなた一体何者なんです?)
 なぁに。しがない語り手よ。
(それに……あの双子を入れ換えて、どうするつもりだったんです?)
 あ、やっぱり私の仕業だって、わかった?
(わかりますよ。そんなことしそうなのは、あなたしかいません)
 うん。まぁ、そうだね。双子が自主的に入れ換わったとかは考えなかった?
(最初はそう思ってたんですがねぇ……でも、二人をよく観察していたら、違うみたいだな、と思って)
 高松は鋭いからねぇ。
(で、どうしてなんですか?)
 さぁねぇ。……見たかった、からかな。
(何を)
 あの二人を入れ換えたら、どんなことが起こるか。
(早く元に戻してあげてくださいよ)
 うーん。まだその時期は来てないんだよね。
(どうしてですか)
 サービスはリリーちゃんに惚れてるし、ハーレムはハーレムでなんだかんだ言ってエンジョイしているし。
(リリーさんにも本当のこと話せばいいんですよ)
 私がサービスに恨まれますよ。
(いいじゃありませんか。サービスにとっては、棚ぼただったんですから。今までのことは。それに、サービスはモテるから、すぐ彼女ができるでしょう)
 そうだといいんだけどね。でも、私は、もっと見たい。
(あなたはいたずら好きですね。私も好きですが。まぁ、面白いことは確かです。このままお気の済むまで続けてもいいです。さっきのセリフと矛盾しますが)
 どうも。それにしても、ハーレムのことはどうするつもり?
(――謝ってきます)
 その必要はありませんよ。
(何?)
 ほら、ハーレムくんが来た。サービスの姿で。
「よぉ。高松」
「ハーレム……」
「さっきは、金のこと言ってわるかったよ」
「え? ……何言ってるんですか?」
「あれ? 金払うって言ったから、怒ったんじゃねぇの?」
「その通りですが……なんであんたにそれがわかったのです?」
「あのなぁ、馬鹿にすんなよ」
「してませんけど……そうですか。そこに気付きましたか」
「ほんとうに心配してくれたことがわかったから。――俺達、友達だよな」
 ハーレムの顔に微笑みが浮かんだ。機嫌が直った高松の顔も綻んだ。

HS ~ある双子の物語~ 第二十二話
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