HS ~ある双子の物語~ 第二話

 キーンコーンカーンコーン。
「セーフ!」
 ハーレムが教室に駆け込んだ。
「今日は朝礼のない日で助かったぜー」
 ナイスファイトをした時のように、ハーレムはぐいと額を拭った。
「これからもうちょっと早く起きなよ」
 サービスが双子の兄をたしなめる。
「んだぁ? おまえ、お兄様に盾つく気か?」
「何が兄だよ。ぼくよりたった数分早く生まれただけのくせして。それに、ぼくの方が兄だという説もあるんだよ」
「ええー、なんで」
「ぼくの方が先に、お母さんのお腹に入ったからさ」
「どうやって?」
 そう質問したハーレムには邪気がない。
「――どうでもいいだろ」
 耳年増なサービスは真っ赤になった。
「朝っぱらから、なんて会話してるんですか」
 パイプくわえて高松登場。
「パイプなんてくわえてませんよ。それに、『林檎殺人事件』じゃあるまいし」
『林檎殺人事件』なんて、この時代にはなかったはずでしょう?
 ちなみに、この話は、1950年代後半が舞台である。
「フニフニフニフニ……」
 歌わないでくださいよ~。
「フフフ、ついね……」
「おーい、高松ー。誰と話してんだー?」
「この話の語り手のTomokoさんとですよ」
「あ、ほんと。どうも、ハーレムっす~」
「サービスです」
 二人がぺこりと頭を下げた。
 ん~ん。気分いいッ!
 これから毎回こういうスタイルで小説書こうかしら。
「こんな手が使えることは、そうそうありませんよ。他人様のキャラクターをただの自己満足の道具にしてはいけません」
 はーい……高松くんは厳しいなぁ。
 このキャラクターについて知りたい方は、柴田亜美先生の『南国少年パプワくん』と、『PAPUWA』を読んでね☆ 大きな本屋さんや、古本屋さんでも売ってると思うから。
「なんちゅう紹介の仕方ですか。まぁいいでしょう」
「あれ? 俺達何の話してたんだっけ?」
「双子のどっちが兄かでしょう?」
「ぼくは認めないからな。ハーレムが兄なんて」
「最初に出て来たのはどちらです?」
「俺だよ。兄貴に耳タコで聞かされた」
 手を上げて、ハーレムが答えた。
「ふぅん。じゃあ、サービスが兄であるという説も満更根拠がないわけでもないんですね」
「だから、どうしてだよ」
「この話は、大人の話です。よかったらサービスか、三十路直前のTomokoさんにでも訊いてくださいよ。お兄様に訊くのもいいかもしれませんね」
「高松!」
 三十路直前は余計よ。これでもまだ二十八なんですからね。
「でも、八十年代に生まれた語り手が、どうして五十年代の話にツッコむことができるんだ?」
 語り手権限は時間をも超えるのです。
「で? なんでサービスが兄になるんだ?」
 うーん。難しい問題ですねぇ。
「もういいだろ。ハーレム。ぐずぐずしてると、勉強の時間始まっちゃうよ」
「そうだな」
 うん。語り手としても、その問題から離れてくれた方が、都合が良いです。
 どうせ、大人になれば嫌でもわかることですから。
 話は変わりますが、サービスとハーレムは同じクラスです。本当は双子の場合、別々のクラスにされることが多いようですが、ここでは一緒のクラスです。
 何故かって? それは、その方が話が進めやすいからです。
「宿題やってきた?」
 サービスの問いに、ハーレムはぎくりとなった。
「わ……忘れてきた……」
「んもう、仕方ないなぁ、いつもそうなんだから」
「頼む! サービス! 写させて!」
「いやだよーだ」
 サービスはベロを出した。こういうところは、年相応の少年なんだけどなぁ。
「なんか文句ある?」
 いいえ。何にも。
「私のノート、写してもいいですよ」
「ほんとか? 高松、ありがたい!」
「その代わり、十円払ってください」
「えー?! 金取んのかよ」
「払えないなら、この話はなかったことに」
「てめぇ、そりゃねぇだろ?! 最初に餌ちらつかせておきながら」
「悪いけど商売なんでね」
「俺、もうやばいんだよ。また居残りさせられちまう」
「したらいいじゃない。少しは頭も良くなるよ」
 サービスが平然と言った。
「うう、サービスめ、他人事だと思って」
「ほら、どうするんです?」
「どうするって……高松、そのノート寄越せ!」
「ほらほらー」
 高松は、ノートをひらひらさせている。明らかに遊んでいる。
 ああ、子供の頃の高松は、可愛かったんだなぁ。
「今は可愛くないとでも言うのですか?」
 うぉっ! 現在そろそろ還暦間近の高松だ!
 そりゃねぇ……初めて会ったのが、高松が43歳の時だしねぇ……そうなると、もう立派な大人でしょ? 可愛いというのも違うかな、と思って。
「ふーん。まぁ、いいでしょう」
 そう言って、おじさ……大人になった高松は帰ってしまった。
 何しにきたんでしょうねぇ。まぁいいか。
 こっちの、子供の高松は、ノートをハーレムに取られまいと、一生懸命がんばっている。
「しつこいですよ。ハーレム。しつこい男は嫌われるんですからね」
「おまえがノートを素直に渡さないからだろ?」
 高松は椅子の上に乗ったまま、ノートを死守している。ハーレムが手を伸ばす。
 と、その時であった。
 椅子が、ぐらりと傾いだ。
「「あっ」」
 二人が声を上げた時には遅かった。
 ガターン!
 高松とハーレムは、同時にすっ転んだ。幸い大した怪我はなかったけれど。
「大丈夫?! 二人とも!」
 サービスが駆け寄った。
「たた……。少し頭を打ったようです。保健室に行って診てもらいますね。どこかの誰かさんみたいに馬鹿にはなりたくありませんからね」
 ハーレムが、「何ぃ?!」と目を剥いた。――以下、次回に続く。

HS ~ある双子の物語~ 第三話
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