HS ~ある双子の物語~ 第十五話

「サービ……ハーレムー、おやつだぞー」
 ハーレムがテラスにやってきた。
 そして、はっとした。
 ルーザーとサービスが、本を読んでいる。椅子に揺られながら。
 ルーザーはこの上もなく嬉しそうだ。もちろん。サービスも。
 ハーレムは何故だか胸がきゅんと痛くなった。
(どうしたんだろ……俺)
 ルーザーが普段見せない笑みを浮かべているからなのか、自分の顔をしたサービスが幸せそうだからか。
 これだと、自分がルーザーに甘えているみたいで、ハーレムは複雑な気分になった。
 そっとしておきたくなったので、ハーレムはそこから離れようとした。
 すると――
「ああ、サービス。お帰り」
 と、ルーザーの甘い声がした。
「サービス、どうしたの?」
 と、サービスが訊く。ハーレムのふりをするのにも慣れて来たらしい。
「ああ、おやつの時間だって」
「ありがとう。――じゃあ、今日はこのぐらいにしておくか。ハーレム」
「うん」
 サービスはルーザーの膝から降りた。
(おまえにはルーザーも優しいんだな)
 ハーレムは思った。それは嫉妬の混じった感情ではなかったか。
(ばかぁ言え)
 ――失礼しました。
(俺はなぁ、Tomoko。サービスに姿が変わった時、なんかいいことがふってこないかなと、きたいしてたんだよ。でも、けっきょく要は中身だということさ。あいつはますます幸せになり、俺は取り残されていく)
 じゃあ、取り戻す努力をしたら? 自分にとっての幸福をさ。
(うん。わかってるよ。まず、マジック兄貴が作ったお菓子を食ってからだ)
 そういうとこ、私は好きです。
(ありがと)
「行こうよ、サービス」
「え、ああ。うん」
 三人はリビングに向かった。
 フルーツケーキは涙が出そうなくらい美味しかった。

 ハーレムは外に出た。
 目指すはロビンが飼われている家。
「あら、サービスくん。珍しいわね」
 ロビンの飼い主とばったり出会った。
「そ……そうかな」
「何しに来たの?」
 本当に珍しかったらしく、飼い主の女の人は、笑顔でハーレムに訊いた。
「ロビンと遊びにです」
「まぁ……ロビンは気難し屋だから、家族以外の大抵の人には懐かないのよ。ハーレムくんなら別だけどね。でも、サービスくん、うちの犬のこと、好きだったっけ?」
「好きです」
「まぁ……そうなの」
 飼い主の女性は溜息を吐いた。
「まぁ、試してみてもいいけど……怪我したら言ってね。手当てしてあげるから」
 なんでそんな凶暴な犬を飼う!
 と、私なぞはツッコミたくなるが……まぁ、そんなこと言ったって仕方がない。
「ロビーン! 遊ぼうぜー」
 ハーレムがロビンを呼んだ。
(――俺はロビンが好きだ。たとえおまえが俺を嫌いでも、俺はおまえが好きだよ。俺はおまえの――友達だ!)

 飼い主の女性が心配そうに様子を見ていた。そのうち、ハーレムとロビンがじゃれ合い始めた。
「あはははははは!」
「ワン! ワン! ワン!」
「いい子だな、お前!」
 飼い主は信じられないものでも見るかのように目を丸くしていた。
 しかし、犬好きの人間は、犬にもわかるものだ。特に、ロビンは頭がいいから。
 ハーレムは思った。
(そうだ――こうして、ひとつひとつを取り戻せばいいんだ)
 ハーレムは笑っている。ロビンのことで、気付いたのだ。
 大事なのは、外見ではない。中身なのだ。
 それはハーレムもわかっていたのだが、同時にわかっていなかった。
 外見で判断され、それが納得いかないものであっても、修正は可能だということ。
 それをハーレムは学んだのだった。
「きゃははははは!」
「まぁ、サービスくんてば、ロビンとすっかりお友達になって」
もう、今までの険悪な雰囲気はない。
(ロビン――ありがとう)
 何か大事なものを掴んだ気がする。この犬のおかげだ。
 ロビンはさながら、ハーレムの恩犬だ。恩犬という言葉があるかどうかはわからないが。
 飼い主の一人娘が帰って来た。
「あら、ロビン機嫌良さそう」
 ロビンの飼い主の娘にはあまり会うことがなかったが、ロビンが嬉しそうなので、その娘も交えて遊んだ。すっかり楽しくなって夢中になってへとへとになるまで遊んだ。
 帰り際にハーレムが言った。
「おばさん。また遊びに来てもいいですか?」
「ええ。いつでもいらっしゃい」
 ロビンは、よく脱走するので嫌う人も多い。第一おっかない。飼い主の家族の人々も力は尽くしている。しかし、持てあますことも時々ある。
 心を許していたのは、ハーレムくらいか。それと、さっきの飼い主の一人娘。
 ロビンとたっぷり遊んで満足したハーレムは、今なら誰にでも優しくできそうな気がした。
「あ、ハー……じゃなかった、サービス」
 道の向こうから来たのは高松であった。
「どうしました? 先程とはうって変わっていい表情してますが……何かいいことでもあったんですか?」
「へへ、まぁな」
 ハーレムは鼻の下をこすった。
「ロビンと仲直りしたんですか?」
「そうだよ。よくわかったな」
「そりゃあね。あの犬のおかげでショックを受けたようですから」
「うん。初めは悲しかったよ。でも、ロビンとのかんけいはまた0から始めればいい、ということに気付いてさ」
「へぇ。一体何がきっかけでそれがわかったんですか?」
「マジック兄貴のおかげだよ」
 ハーレムはうーんと伸びをした。
「あ、そうだ。高松。おまえ、遊びにこないか? フルーツケーキ、余ってんぞ」
「いいんですか?」
「おうよ。サービスだって、喜ぶぜ」
「それは構いませんが、しかしねぇ……私、あの人苦手なんですよ」
「誰が?」
「ルーザー様が」
「気にするこたぁねぇよ。俺もあいつ嫌いだから」
 しかし、本当に嫌いなら何故こだわるのか――まだ子供のハーレムにはわかっていなかった。
「なんか、見透かされているような気がするんですよね。まだ一度しかお会いしたことがありませんが」
 高松が言った。後年のルーザー好きぶりからは考えられない台詞であった。

(Tomoko註:一部改訂しました)

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