HS ~ある双子の物語~ 第十四話

「ただいま」
「おお、サービス。今ケーキ焼いたとこ……」
 マジックも無視して、ハーレムは自分の部屋に走って行った。
「どうしたんだ、あいつ……」
 本当にどうしたんでしょうねぇ。人一倍食い意地の張っているハーレムくんが……。
 これはやっぱり、ロビンのことが相当ショックだったんでしょうねぇ。
 そのハーレムはベッドで不貞寝をしている。
 ハーレムくん。リリーもロビンもサービスに取られたハーレムくん。
「んだよ」
 Tomokoです。この話の語り部の。
「ああ、そうだったな」
 ハーレムくん、気の毒ね。
「そんなことねぇよ……」
 やっぱり、ロビンのこと、気になる?
「ああ。会ったばかりの頃は別として、あんな態度取られたことねぇもん」
 やがて、ハーレムはひっくひっくと泣き出した。
「ひでぇ、よぉ……」
 それは、私に向かって言っているのですか?
「いや。えっと……そうじゃないかもしんねぇけど……」
 ごめんね。ハーレムくん。
「何が」
 君とサービスくんを入れ換えてしまって。
「なぁに、構わねぇよ。サービスは新しい恋を見つけたようだし」
 リリーちゃんが、本当はアンタの方が好きでも?
「じき、サービスの方が良くなるさ。あいつは優しいし」
 でも、リリーが本当のことを知ったら、どうなりますかねぇ。
「そんときゃそんとき、だろ?」
 それより、ロビンの方が気になると。
「ああ」
 ハーレムが頷いた。
「ロビンに嫌われた方が悲しいぜ」
 なるほど。ハーレムくんは動物が好きだからねぇ。なんで家では飼わないの?
「俺のせいでルーザーに殺されたら困るだろ」
 あ、納得。
「だから俺は……動物は飼わないことにしてるんだ。人が飼っている動物を見ている、それだけで……」
「誰と話しているんだ、サービス」
 部屋のドアが開いた。
「マジック兄貴……」
「兄貴?」
「あ……」
 ハーレムは慌てて口を押さえた。
(今の俺はサービスだった)
「どうした? サービス」
「別に……それより、ノックくらい、しなよ。普段あんなに口酸っぱくして言ってるくせにさ」
「したさ。おまえが気付かなかっただけだろ」
「そう?」
「誰と話していた? サービス」
「独り言だよ」
「学校で何か嫌なことでもあったのかい?」
「学校では……ねぇよ」
 その時、ハーレムはアライ先生のことを思い出した。
「ササキ先生とアライ先生、結婚するんだってよ」
「めでたい話じゃないか」
「うん。俺もそう思う」
「なんだ。それでふさいでたのか?」
「そうじゃねぇよ」
「じゃあ、何があったんだ? 僕でよければ聞いてあげるよ。ん?」
 マジックが包み込むような目でハーレムを見つめた。
(言った方がいいのかなぁ……)
 よし、言おう。
 ハーレムが決心をした。
「実は……ロビンに嫌われちまってさ」
「ロビン? 誰だい? それは」
「犬だよ」
「そう言えば、近所にそんな名前の犬がいたね。何かい? サービス。君その犬と仲良かったのかい?」
「ああ」
「なんで嫌われたんだい?」
「わかんない」
 きっと俺がハーレムだってわからなかったせいだ――そう思っても、何となく釈然としない。
「でも、ロビンは悪くないんだ」
「――そうか……」
 マジックはベッドに寝ているハーレムの隣に座った。そして、頭を撫で始めた。
「誤解なら、いつかとけるはずだよ。おまえがロビンにまた歩み寄ればいい」
「そうかな」
「そうだよ」
 マジックは笑った。
「おまえがロビンをまだ好きなら、ロビンだっておまえのこと、見直すさ」
「――そうだな」
 動物に対して怯えるな。そう教えてくれたのは、マジックだった。そのマジックが言ったことなら、間違いはないだろう。
 ハーレムはマジックを頼りにしていた。
「おやつはケーキだぞ。降りといで」
「うん。わかった」
「おまえの大好物のフルーツケーキだぞ」
「ん」
 ハーレムは涙を拭いた。元気が出た。

 ルーザーは、テラスで本を読んでいる。ロッキングチェアーに座りながら。
 その格好は絵になっていた。
「ルーザーお兄ちゃん……じゃなかった、ルーザー兄貴」
 ハーレムの姿のサービスが、ルーザーに話しかけた。
「なんだい? ハーレム」
「本、読んでほしいんだけど」
「珍しいね。君がそんなことをねだるなんて」
「いや?」
「全然。嬉しいよ」
 ルーザーの顔がぱっと輝いた。
「それでさ……その……兄貴、膝に座っていい?」
「サービスみたいなこと言うね。もちろん、大歓迎さ」
 ルーザーは無邪気に喜んだ。ハーレムのことも、嫌いではないからである。
 やっとハーレムが僕に懐いてくれた。そう思うと嬉しくさえあった。相手が愛しく思えた。

HS ~ある双子の物語~ 第十五話
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