バーナビーの幸せ家族 中編

「わかった! タイガ―の能力が元に戻ったのね!」
「いえ。それとは別件で……」
「なんだ」
「おーい、バニ―」
 小さな虎徹さんが現われた。
「あ、ローズ」
「あら、坊や。私のこと知ってるの?」
「知ってるも何も、俺、ワイルドタイガ―だもん」
「……アンタの子?」
「違います」
 もしそうだったらいいなぁ、とは思うけれど。
「ていうか、俺、虎徹! 鏑木・T・虎徹だよ!」
「坊やが? まっさか―」
 カリ―ナは一笑に付した。
「タイガ―がこんなに可愛いわけないじゃん」
「本当なんだってばー。後藤さんが薬を間違えて……」
「薬……?」
「ほら、ハンドレットパワーを使う時の! 能力を取り戻そうとして!」
「ああ。で、その薬できたの?」
「う……まだ……。何で人を子供にする薬は作れるのに、ハンドレットパワーを完全に復活させる薬が作れないのかわかんないけど……」
「じゃあ! この姿って、タイガ―が小さい時のなの? 可愛い~」
 カリ―ナが虎徹の頭を撫でた。
「子供扱いすんじゃねぇ!」
「悔しかったら大人に戻ってみなさいよー」
「くぅっ、後一日で大人に戻れるのになぁ」
「気安く触らないでくださいよ。ブルーローズ」
「おまえだっていっぱい触ったじゃねぇか、バニ―」
「えー? じゃあ人のこと言えないじゃない。ねぇ、タイガ―」
「だよな」
「ま、いいや。ケーキ食べようよ」
「うんっ」
 カリ―ナと虎徹さんはまるで太古の昔から親子であるように手を繋いだ。……やっぱり女性は、すごいし……少々狡い……。
「ケーキ、タイガ―、ハンサムのまで食べたそうよ―」
「……いいです。虎徹さんにあげてください」
「だってよ」
「良かったわね」
 いいんです。虎徹さんが喜ぶ顔を見られるなら、僕はそれで……。せっかく二人きりで遊ぼうと思ったけど、これでいいんです……。
「はい」
 虎徹さんが来て、僕に一口分のケーキのついたフォークを見せた。
「バニ―、生クリーム好きだろ? あーんしなあーん」
 神様……!
 僕は喜んで虎徹さんの差し出したケーキを食べた。
「美味いか?」
「ええ、とても」
「こらこら。それは私が買ってきたのよ。ったく。ところでさ、これから三人で出かけない?」
「おおっ、いいねぇ」
 虎徹さんが歓声を上げた。
「どこがいい? 遊園地?」
「デパートがいい! 俺、デパート好きなんだ」
「じゃあ決まりね!」
「あ、でも……」
 虎徹さんは僕の方を見た。
「バニ―……勝手に決めちゃってごめん」
 しょげた虎徹さんも可愛い……。
「行きましょう。僕もデパート好きですから」
「そんな話聞いたことないわよ。ハンサムは、タイガ―と一緒なら月へでも行くんじゃないの?」
 月でハネムーンか……それも悪くないですね。虎徹さんと一緒なら。
 けれど、僕達が行きたいのは月ではなく、デパートだ。

「ねぇねぇ、あの人」
「超美形じゃん」
「アンタ、バーナビーも知らないの? ほら、ヒーローの」
「お母さんも可愛い」
「え? あれお母さん?」
「子供も可愛いよねぇ」
「ええっ。あれ、バーナビー様の子供? ショック~」
「美形一家でいいわよねぇ」
 ひそひそぼそぼそと目惹き袖引きされているのが聴こえてくる。まぁ、想定の範囲内ですが……ね。
 屋上の乗り物でひとしきりはしゃぐ虎徹さんを見た後、僕達はレストランに入った。僕はグラタン、カリ―ナはサラダ。そして虎徹さんは――。
「お子様ランチー?!」
「い、いいだろ? 別に……」
 虎徹さんは、ばつが悪そうにしている。
「俺、お子様ランチ好きだったんだけど、大人の姿だと食べるの恥ずかしいだろ? だから――」
 可愛い! 虎徹さん可愛い!
 スパゲティーケチャップで口元をべとべとにしている虎徹さんを眺めている時も同じことを思った。
「あんたほんとに美味しそうに食べるわね」
「ローズももっと食ったらどうだ? 小鳥のえさぐらいしか食ってねーぞ」
「わ、私はさっきケーキ食べたから――」
「二時間前をさっきとは言わねぇぞ」
「ダイエットしてるし」
「ならどうしてケーキを食べたんですか?」
 僕が指摘してやると、
「それとこれとは別よ。タイガ―や……アンタと食べたかったんだから」
 そうか……僕も数に入っているのか。
 虎徹さんがいなかったら僕もカリ―ナに恋していたかも知れない。だって彼女は美少女だし、ツンデレだけど本当は優しいし、歌だって上手い。巨乳だろうと虚乳だろうと関係ない。
 けれど、彼女が好きなのは虎徹さんで、僕も虎徹さんが大好きで――。
 ――虎徹さんがにやにやしているのに気がついた。
「どうしたんですか? 虎徹さん」
「いや、おまえら、やっぱりお似合いだな、と思ってな」
「どこがよ!」
「どこがですか!」
 僕達はほとんど同時に叫んでいた。第一、虎徹さん貴方僕の恋人でしょうが!
 僕はカリ―ナと顔を見合わせた。
(虎徹さんは渡しませんよ!)
(絶対奪い返してやる!)
 僕達は互いにフン!と思いっ切り顔を逸らした。
「?」
 虎徹さんは訳がわからないと言った態でハンバーグを口に入れながら小首を傾げていた。
「ありがとうございましたー」
 会計を済ませた後、玩具売り場に足を運ぶ。子供が好きそうな音楽。テレビゲーム。数々のプラモデル。ミニチュアの自動車。ぬいぐるみ。僕や虎徹さん――ワイルドタイガ―のフィギュアまで置いてある。これには僕も嬉しくなった。――だが、虎徹さんが足を止めて動かなくなったのはそこではなかった。

2012.10.30

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