OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 30

「アポローニャ! 本当にアポローニャなんだね?!」
 ジュダは喜びの声を上げた。
「お久しぶり。ジュダ」
「アポローニャ……」
「再会を喜んでばっかいないで、さっさと話進めろよ。こっちは野郎しかいねぇんだからよ」
 ギルベルトの言葉に、エリスはきっと眦を上げた。
「俺もか?」
「この戦いが終わるまで、女は捨てるんだろ? エリザベータ」
「う……そうだけど……」
 アポローニャとジュダは、二人の世界を作っていた。
「ああ、この香り。アポローニャの匂いだ……」
「ジュダ……」
 アポローニャは彼を抱きしめたまま言った。
「お願い。きいて欲しいの。この国を助けて」
「ああ。君が戻ってくるならね」
「私は……もう寿命が尽きたの。だからもう生き返れないわ」
「何で……! そんな不条理なこと、俺が許さない!」
「ううん。私の意思でもあるの。命が尽きた者はもうよみがえらない。それを無理矢理よみがえらせようとするのが、悪魔崇拝なの。お願い、ジュダ。K国を救って正しい方向に導いて。あなたにはそれができるんだから」
「俺は、そんな器じゃない」
「できるわ。みんなで協力すれば」
「みんなって?」
「この人達よ」
 アポローニャは『国』達に視線をやった。
「仕方ないあるな」
「そうですね」
「おい、ジュダ。これからは俺達はおまえの仲間だ」
 耀、菊、エリスが順々に言った。
「俺達を敵に回しても、愛を貫こうなんて、純愛じゃねぇか。俺もそんな恋がしたいぜ」
 エリスが言うと、ギルベルトは複雑な顔をした。ローデリヒもだ。
「俺は……おまえらを裏切ったんだぞ」
「うん」
 みんなは一斉に頷いた。
「マシューを危険に晒したんだぞ」
「うん」
「それでもいいのか?」
「私はいいと思います」
 ローデリヒが口を開いた。
「敵が味方になることなんて、よくあることではありませんか」
 そう言って、ローデリヒは微笑んだ。
「そうなんだぜ。何が何だかわからないけど、兄貴に手を出さなければ、俺はアンタの味方なんだぜ」
「イ・ヨンス……ただの馬鹿だと思ってたけど……」
「失礼なんだぜ」
「ほら。あなたにはもう仲間がいる。私がいなくても平気よね?」
「嫌だ! 君のいない世界なんてない方がいい」
「いつまでも駄々こねないの!」
 アポローニャはぴしりと言った。
「また、会える日が来るかもしれないから……それまでは……」
 アポローニャの目から、美しいニ粒の真珠がこぼれ落ちた。
「駄目ね、私……せっかく笑顔で去ろうと思ってたのに……ごめんね、ジュダ。あなたを残して悪かったと思ってるわ」
 アポローニャの体が透けてきた。
「さようなら。ジュダ。――愛してるわ」
 彼女は消えて行った。
「アポローニャーーーーーーーー!!」
 ジュダは泣きながら叫んだ。
 エリスが涙ぐんでいる。
「おい、俺達も何かしようぜ」
 ギルベルトが言った。
「何かって、何ですか?」
 ローデリヒがおっとりと訊いた。
「何って、戦いだよ、戦い。こうなったら意地でもマシューを危機から救い出す!」
「おー!」
 エリスにも、人をまとめる力が生まれつき備わっているようだった。
「ちょっちょっ、俺様が言いたかったのにな……」
 お株を取られて、ギルベルトは拗ねている。
「まずフランシス達のところへ行って……わぁっ!」
 ピンクのドラゴンが血だらけで現われて、エリス達の目の前で倒れた。
「これは……」
 菊が呆然としている。
 ジョン・フォレストが言った。
「これはドラゴンのジョーンズだ。あの魔術師、なかなか強かったんだな」
「ええ。でも、僕が勝ちました。マシューも無事です」
 ジョーンズは気絶したマシューを咥えていた。
「途中噛み殺さないように苦労しました」
 ははは……と菊が力なく笑う。笑えない冗談だ。
「乗せていけばよかったと思う……」
 とヘラクレス。
「でも、マシューが途中でずり落ちると困るから」
「そうか」
 ヘラクレスも納得したようだった。
「でも、その怪我……大丈夫か?」
 ヘラクレスが心配そうに訊いた。そして続けた。
「おまえのことは知らないが……勇敢に戦ったことはわかる。勇敢な者は好きだ」
「サディクだって勇敢だぜ」
「あいつは別だ」
 ギルベルトのツッコミに、ヘラクレスは吐き捨てるように言う。
 ジョン・フォレストは難しい顔になった。
「俺一人だとちょっと時間かかりそうだな……おい、みんな。ジョーンズに手を当ててくれ」
「こうですか?」
 まずは菊がお手本を見せた。その後、残りのメンバーが従う。
 ジョン・フォレストが綺麗な紫色の光を放った。それはみんなにも伝わり、穏やかな優しい気分にさせてくれる。力が漲ってきた。
 ジョーンズの傷口が修復されていく。血も止まった。
「う……」
 ジョーンズは、目をしばたたかせた。すっかり癒されたのだ。
「どうだ? 気分は?」
 ジョン・フォレストは心安だてにドラゴンに訊く。
「何だか……良くなってきたみたいだ」
「それは良かった。ありがとう。みんな」
 ジョン・フォレスト以外のみんなは、このドラゴンの話が聞きたくてうずうずしている。エリス一人がマシューを抱き起こそうとしている。
 ――さっきから気になることがあると、王耀が手を上げて言った。
「アルとアーサーがまだ来ないあるよ。どこにいるのかわからないある。アル達が変なことに巻き込まれてなければいいあるが。アーサーがすぐにアルを引っ張って来るかと思ったんだけど、そういう気配もないあるし」

後書き
久々の壊滅編更新です。
2011.9.14

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