OVER THE TROUBLE ~組織壊滅編本編~ 31

 一方、アルフレッドとアーサーは――
「わぁっ! 何か近付いてくるんだぞ!」
 黒い衣装の人間達は近付いて来る。
「邪魔なんだぞ」
 何か敵視されているようだった。
 ぞわぞわとアーサーの背筋に悪寒が走る。こちらも一発かましてやらなければ気が済まない気持ちになってきた。そんな本能を刺激するような何かが、この黒い姿の者達にはある。
「くっそう……邪魔だって言ってんだよ!」
 バキッ!
 アルフレッドは相手方の一人を殴った。アーサーにはアルフレッドの気持ちがわかった。
「おい! おまえら、この部屋は何なんだ」
 男達は答えない。ただ、ぶつぶつと低い、気味の悪い声で呟いているだけである。
「こいつら、雑魚だな。雑魚に用はない! 逃げるぞ! アルフレッド」
「了解!」
 しかし――
「くそっ、きりがないんだぞ!」
 アルフレッドが悲鳴を上げる。アーサーは相手を蹴り飛ばしながら言った。
 彼らは、道を切り開こうとしていた。
「泣きごと言ってないで、戦え!」
「でも……」
「おまえはヒーローなんだろ!」
「……うん、そうだね! 俺はヒーローだ!」
 黒衣の人物達は、攻撃らしい攻撃はしてこない。だが、寄り集まって圧迫してくる。
 ――例の経を唱えながら。
「こいつらちょっと怖いんだぞ」
「言えてるな」
 アルフレッドの言葉にアーサーは簡潔に答えた。
 彼らは黒衣の男を殴り飛ばし、蹴りを入れて気絶させる。
 だが、敵は無限に湧いてくるようだった。
「くそっ、どっから来てるんだ! こいつら!」
「そんなこと、今はどうだっていいだろう!」
「でも、このままでは……」
 アルフレッドとアーサーは、そんなやり取りをしながら、黒衣をやっつける。
「これが黒魔術ってものかい? アーサー」
「だから! 俺はこんなの知らねぇよ!」
 悪魔崇拝の国だから何だってあるんだろ! ――と、アーサーは内心毒づいた。
「でも、黒魔術は君の十八番だろ?!」
「……ま、それは言えてるけどな。こいつらのは邪教の匂いがするぜ、よっ」
 アーサーは、また一人倒した。
「さっすが元ヤン!」
「元ヤン言うな! 今の俺は紳士だ!」
「にしちゃ、戦い方が上手いけど」
「仕方ねぇだろ。非常事態だ! 言っとくが、暴力が好きなわけではないんだからな!」
 しかし、血が滾ってくるのはわかる。昔の勘が甦る。
 楽しそうだね、と言うアルフレッドの言葉に、うるせぇ、と返した。
「こいつら、全員男かい?」
「らしいな」
 世界が誇る超大国、アメリカの化身であるアルフレッドと、元海賊あがりのイギリスの化身であるアーサー。
 彼らにかかれば男達は敵のうちにも入らなかったが、何せ数が多過ぎる。攻撃してこないのも不気味だった。
「こいつらは何を目的としてるんだ」
「それがわかれば苦労はしないね」
 相手側の人海戦術で、アーサーもアルフレッドも疲弊してきた。
 二人はドアの傍まで追い詰められた。
「開けるぞ、アーサー!」
「ああ!」
 アルフレッドが体当たりでドアをぶち破ると、明るい日差しが彼らを包む。ずっと暗いところにいた二人には眩しかった。アーサーは思わず手をかざした。
 目が慣れてきた。彼らは一目散に走ろうとした。
「アーサー、あれ」
「あん?」
 アーサーが振り返ると、入り口で男達が固まっていた。
「あいつら、あの部屋から出られないんだぞ」
「良かった、助かった」
 ふうっと、アーサーは汗を拭った。
「あの人数を相手にするのはしんどかったんだぞ」
「そうだな」
 気のない返事をしながら、アーサーは考えた。
(あのタペストリ……何なんだったんだ)
 あのタペストリは、確か竜の絵だった。聖書では、確か竜も悪魔のつかいである。
(まるで黙示録の世界だな)
 この国は……一体何なんだ。
 人間兵器はあるし、悪魔崇拝はあるし。
(悪徳の塊じゃねぇかよ)
 今までよく世界がこんな国をほっといたもんだと、アーサーは呆れながら思った。
「何黙ってんだい、アーサー」
「おまえがどうしてほんとにアホなんだ、ということを考えてた」
 アーサーは咄嗟に嘘をついた。
「君だってアホじゃないか!」
 アルフレッドは抗弁した。
「俺はアホじゃない!」
「違う! アホだ! 耀達とはぐれたじゃないか!」
「俺のせいじゃない! 道がくね曲がってるし、だいたいあの時、シークレットサービスみたいな野郎らが邪魔しなければ……!」
「君が逃げなければ……!」
「弾が当たったらいてぇじゃねぇかよ!」
 だんだん声のトーンが上がって来る。いつもの口喧嘩に発展していくかと思えば――
「やめよう、こんなことしてる場合じゃねぇ」
 アーサーがおりた。
「どうしたんだい? アーサー。元気がないんだぞ」
「いや……ちょっとな……」
 アーサーは気が気でなかった。早く耀とヨンスに会わなければ。
「ドラゴンの間に行くぞ!」
「え? でも、どうやって……」
「ドラゴンの間なら、ここの警備員でも知ってるだろ」
「随分ガラの悪い警備員だよね……殺し屋と言った方が近いんじゃない?」
「取り敢えずまずそいつを捕まえて吐かせる。さっきの部屋のあの男どもじゃ、人間の言葉が通じそうにないからな」
「……君、凶暴だね。それに、あのライフルを持った男達から逃げたのは君じゃないか」
「不意打ちを食らわなければ大丈夫だ」
「ねぇ、アーサー。今のはドラゴンの間ではないのかい?」
「多分違う。俺の勘が正しければ」
「結局勘かい」
 馬鹿のアルフレッドに馬鹿にされ、アーサーはむかついた。自分の勘は当たるのに。
 それにしても、不気味なやつらだったぜ――アーサーはまた体がざわっとしてきて、自分の体を抱き竦めた。

後書き
アーサーもアルも苦労してたんだね……。

2011.10.17

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