リョーマの戦い 15

「親父……親父はさ、弱気になった時、どうすんの?」
「あ? まず、人に話す、だろうな」
「誰にも話せなかったら?」
「それでも、誰でもサインは出してるさ。でも、相談する時は人を選べ」
 南次郎が久々に真面目な顔になった。
「桃城ってヤツは合格だな。後、昨日だったか一昨日来たキノコも及第点だ」
「俺、跡部さんに話しました――」
「跡部か……なかなか話せそうなヤツだったな。お前に肘鉄食らわせられたんだって?」
「え? いや……」
「ははっ、冗談冗談」
 南次郎は後ろを振り向いた。天井を見上げているらしい。
「実はな――お前は俺達に真っ先に相談するものと思っていたんだよ。でも、お前は傷つきながらも戦っていた。その戦いの邪魔はしないと母さんと菜々子と決めて、お前には何も言わなかった。でも――お前にはあんないい仲間がたくさんいたんだなぁ」
「たくさん……?」
「氷帝学園て知ってんだろ? 青学と対決して負けた」
「ああ……」
「氷帝のヤツら、跡部のダチな、皆して俺ん家に来たんだぜ。お前を送りに。樺地の見舞いの帰りだって言ってたな」
「え――?」
 忍足さんや向日さん、宍戸さんや鳳さん、ジローさんや――日吉さんも来たんだろうか。
「もう遅いからすぐに帰ってもらったがな。跡部は残ろうか、と訊いて来たが」
「それでも良かったけど……」
 南次郎が妙な顔をした。
「お前、まさか、恋、とかしてねぇだろうな――」
「恋?!」
 南次郎には読心術があるのだろうか。そういえば、小さい頃からの秘密は全部知られていた。幼い頃はおねしょしたことまで――。
「いやぁ、やっぱりそうか」
 南次郎はニヤニヤと笑った。何で知ってんの?と問えば、
「父親としての勘だ」
 と返されるのがわかっているから言わない。
 でも、跡部には樺地がいる。どうせ壊れる筈の恋なのだ。けれど、リョーマを本当に心配しているらしいことはわかった。
「青学のヤツらも来たぜ。氷帝のが来る前にな。留守番してた菜々子から聞いた」
 そっか――。リョーマは何故となくほっとした。何と言っても青春学園は古巣の学校だ。
「あ、そうだ。跡部から伝言。樺地が心配していた。元気になったら連絡を入れるように、と」
「俺、樺地さんに連絡するよ」
「へー、番号わかるんか?」
「う……」
「大丈夫。跡部から聞いて知ってる。これ、氷帝のヤツらの連絡網」
「――ありがと」
 まず最初は樺地からだろうか。でも、もう寝ているかもしれない。彼は事故に遭ったのだ。でも、ほんの一言ぐらい。ツィッターで『心配してくれてありがとう。樺地さん話を聞いてくれてありがとう』と伝える。
 後は跡部――彼とは電話で話したかった。南次郎達はもうとっくに部屋を出ている。
「もしもし、跡部さん?」
「あーん? 越前か」
「――今日は、ありがとうございます。話、聞いてくれて」
「別にいいぜ。俺も気になったことがあったら樺地や忍足に話す」
 忍足侑士。樺地崇弘を除いたら、跡部の一番の友人であるかもしれない。
「俺には――そんな仲間は……」
 いた。
 堀尾だ。堀尾は身を挺してリョーマをリンチから救ってくれた。後で堀尾にもLINEを入れよう。掘尾は見てくれるだろうか。
「あーん。お前には堀尾がいるだろうが」
「そうだね。まだ連絡は入れてないけど」
「薄情な友人だ。でもまぁ、しばらく安静にしていた方がいいようだからな」
「樺地さんには入れたよ」
「そうか。樺地に代わって礼を言う。ありがとう」
「氷帝、皆で来たんだって?」
「そう――滝も呼んだんだけど、あいつは来なかった。まぁ、仕方ねぇさな」
「受験もあるだろうしね。――ところで、跡部さん。『何か俺にできることはないか』と言ってたけど……」
「そういや言ったな」
「俺の戦いを見ていてください」
「――わかった。おう、越前、今日のお前見て思ったんだけどな、すっかり男の顔になってたぜ。何か覚悟を決めたような。まぁ、その後倒れて台無しになったけどな」
 アンタの責任もあるんだよ。あんなに煽るから――そう言えたらどんなにいいだろう。
「悪かったっスね」
「で、俺はそんなお前に何かやることはないかとかき口説いた訳だ。お前に置いて行かれるのが怖かったんだな」
「そんな、跡部さん! 俺だって!」
 このままアンタに追いつけないんじゃないかと不安になった。試合に勝っても次は負けるんじゃないかと、敗北の予感に怯えた。
「俺、跡部さんのこと、好きっス!」
 言った。――言ってしまった。
「――いつでもそんな直球なのか? お前は」
「え……いや……俺……こんな感情は初めてで……」
「そうか。俺も男に告られてしかもそれがそんなに嫌じゃねぇ、なんてのは初めてだな。ふん、樺地は何にも言わねぇしな」
 樺地崇弘――跡部の後ろには必ず彼の影がある。
 大変かもしれないけれど、樺地はリョーマの知らない跡部を知っている。
「忍足の告白はどうも本気で受け取ることができなくてな――」
 やはり忍足は跡部のことが好きなのだ。何となく忍足に同情した。忍足が本気なのはリョーマが知っている。
「ねぇ、跡部さん、アンタの恋バナ聞いてる場合じゃないんだけど」
「おお、そうだな。つい、な――堀尾は心配いらねぇ。俺様の病院は名医ばかりだからな」
「アンタが俺様って言うの、久々に聞いた気がする。樺地さんにも宜しくね」
「わかった。無理せずのんびり寝てろよ」
「そうだね」
 明日の戦いの為に――。リョーマは電話を切った。
 今日はいい一日だった。堀尾には最低の日だったかもしれないが。
 いや、彼には朋香がいる。
「由美子さんの占い――当たったな」
 けれど、跡部のことは言い当てなかった。まぁいい。当たるも八卦当たらぬも八卦だ。
 早く明日に備えなければならない。堀尾にLINEを入れると、リョーマは掛布団にくるまって瞼を閉じた。

「よっ、越前」
 桃城が迎えに来た。今日も自転車はない。
「桃先輩! おはようございます!」
「昨日貧血起こして倒れたんだって? 大丈夫かよ」
「うん。大丈夫。俺は入院するまでもなかったから家に帰されたよ」
 友達がいるから大丈夫。仲間がいるから踏ん張れる。俺は――逃げない。
 早くテニスしたいな、とラケットバッグの重さを感じながらリョーマは思った。彼にはやはりテニスが合っている。
 顔の腫れも大分ひいた。絆創膏や湿布は相変わらずだが。
「桃先輩、俺、桃先輩の自転車に乗るの、大好きです」
「そっか――でも、怪我の痛みとかで手を放して事故、なんてことになったら大変だろ?」
「はい。でも、掴まっているだけっスから」
「事故といえば――氷帝の樺地、事故に遭ったんだって? 早く治るといいな」
「実は昨日も見舞いに行ったっス」
「堀尾についてったんじゃなかったのか?」
「堀尾と同じ病院に樺地さんも入院してたんです」
「早く治るといいな――堀尾も、樺地も。俺、樺地嫌いじゃねぇから。氷帝の勝利の為に一生懸命になるなんてテニス部員の鑑だな、鑑だよ」

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2016.7.17

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