リョーとケイのアイドルユニット 5

 ストーカー事件も無事解決し、今が正に絶好調! もうとことんまでやるっきゃない! ――な、越前リョーマ達に比べて。
「はぁ……」
 マネージャーの関の元気がない。いつもは元気だけが取り柄の男なのに。
「どうしたんスか? 関さん」
「ああ、リョーか。……参ったよ。ほんと」
「何かあったんですか?」
 跡部景吾が訊いた。
「ああ、ケイ――お前ら知ってるか? 遠山金太郎のこと」
「――四天宝寺の? 今、人気がすごい勢いで伸びてるって噂の……」
「ああ。それで渡邊オサムは左うちわよ。そうじゃなくってさぁ……」
「――金太郎に問題があるんですか?」
「そう、今だって――」
「コシマエー!」
「……え?」
「コシマエ、会いたかったでー。何や、相変わらず小さいやんなぁ。ワイと同じくらいしかないやん。でも、ワイも少しは伸びたんやで~」
 そう言ってぎゅっとハグする。リョーマも目を白黒させている。リョーマは関に訊いた。
「あのー、関さん? 何で遠山がここに? 保護者はどうしたのさ」
「さてな。知らんわい」
「俺や楓と……同い年だったっスね。確か」
 リョーマが言う。金太郎も中学一年生だ。何だかちょっと明星楓みたいなところがあるな、とリョーマは思った。
「あー!!」
 いつの間にか楓が来ていたらしい。金太郎の度を超えた友情表現を見て平静でいられなかったらしい。
「何してるんだよ。リョーさんは俺のだって!」
「おー、メイセイやん。ほんまもんやー」
「わっ、何する! ――俺は『みょうじょう』だって言ってるだろ――離せこら!」
 金太郎は楓にも抱き着く。
「どうやらいいヤツみたいですからね。関さんが気にすることありませんよ」
 跡部が如才なく言う。
「そうだろう? あいつは自然児なんだ。でも、些か快活過ぎてな――僕も付き合ってて疲れたよ」
「あ、そうだ」
 跡部は姿を消し――しばらくしてから戻って来た。
「はい。疲れた時にはココア」
「ありがとう。ケイ。君は気遣いの出来る人だね」
「どうも」
 ココアの甘い香りが辺りに広がる。跡部もちゃっかり自分の分も持って来ている。
「あー、二人だけココアずるいやん!」
「どうでもいいじゃないか、そんなこと!」
 金太郎と楓がやって来た。ついでに元気を吸い取られたらしいリョーマも。
「わかった。持って来るから待ってろ」
「あっ、王様やん」
「王様……?」
 リョーマは跡部の方を見て、それから金太郎に言った。跡部を指差して。
「って、この人?」
「せや。ケイさん、自分で自分のこと王様や言うてたもん」
「ふっ、わかってんじゃねぇか。――キングは俺だ」
 跡部は垂れさがる前髪を掻き上げた。
「跡部さん、行きましょ。関さん、すぐ戻るから」
 リョーマは跡部を引っ張って行った。
「ああ、ちょっと、離せ、遠山! リョーさんが行ってしまう~」
「また帰って来るさかい心配せんでええて」
 金太郎が楓を説得している。跡部が苦笑しながら言う。
「ふふっ、あいつら、いいコンビだな」
「まぁ……そうスね」
「お前もココア飲むか?」
「――Pontaの方がいいっス」
「ははっ、リョーマ、お前も相変わらずだな」
「何で。Ponta美味しいでしょ」
「不味いとは言わんが、俺はココアの方がいい」
 二人が言い合っていると――。
「おっ、跡部のボンボンにサムライボーヤやな」
 金太郎の世話係、渡邊オサムが通りかかった。
 何故リョーマがサムライボーヤと呼ばれているか――それは、リョーマの父南次郎がかつて二つ名をサムライと呼ばれたテニスプレーヤーだからである。
「何だよ。渡邊さん。四天宝寺の方はどうしたよ」
 跡部の質問にオサムはにっと歯を見せた。
「当分遠山のお守りや。四天宝寺でテニスを見てんのもええが、遠山の起こす騒動眺めてた方がおもろい」
「――四天宝寺にはつくづく人材ねぇんだな」
 跡部も負けてはいない。
「この点についてだけは俺も跡部さんと同じ意見っス」
 リョーマが珍しく跡部と意見が合った。
「つれないねぇ、リョー。でも、これにはお前にも責任があるんやで」
「え?」
「あいつ、リョーに憧れて芸能界に入ったんや」
「――俺はいい迷惑っスよ」
「まぁ、仲良くしてやってくれや。遠山もあれで結構気働きが出来る奴なんやで」
「そうは思えないけどな――……」
「まぁ、ええて。そのうちわかる」
 オサムはリョーマの頭を帽子越しに撫でた。そして、咥え煙草で飄々と歩く。
「行こうか、リョーマ」
「え、あ、うん――」
 リョーマはPonta、跡部はココアを携えながら戻って行く。リョーマが訊いた。
「跡部さん、この頃樺地さんと会ってないんじゃない?」
「そういやそうだな。用がある時は一緒にいたけどな。でも、気にすんな。俺様と樺地は心で結ばれているからな」
「言ってて歯が浮きませんか?」
「――言うな」
 リョーマがああ訊いたのは、跡部と樺地の二人が会うのは跡部が樺地に命じてすることだと思ったからで――。今の跡部にはそんな暇すらなかっただろう。けれど、すらっと跡部に、心で結ばれている、と言われる樺地にリョーマは軽く嫉妬した。
(俺がそんな風になりたかったのに――)
 リョーマが心の中で密かに呟いた。

「あー、王様、コシマエ~」
「だから、リョーさんはコシマエじゃないっての!」
 楓はまだ引っ掛かりがあるみたいだが、金太郎は屈託のない明るさを体中に発散させていた。
「ええやん、ええやん。そんなこと」
 ――関は今も沈んだままだ。
「関さん、あんなんじゃ仕事に熱中出来ねぇぞ」
 跡部がリョーマに小声で囁く。
「仕方ないなぁ。関さん――お仕事頑張ったら後でケイが焼肉おごってくれるって」
「ほんとか?」
 関の瞳に輝きが戻った。現金な男である。
「おう、今日は無礼講だ。楓も金太郎も連れてってやる!」
 跡部がそう言うと彼らの間にキングコールが沸き起こった。

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2017.8.18

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